白と緑2/4
「……それなら、改めて勝負よ。私が勝ったら」
「冒険者同士の私闘禁止。ギルド規則に書いてあります」
剣を抜き、全身から殺気を放つシーラに、僕は一ミリも怯まず事実を伝えた。
「とんだ腰抜けね。負けるのがそんなに怖いのかしら」
先程までの笑みを消し無表情になったアイネが、片腕を上げて手を頭上に掲げる。そこから、魔法が放たれた。広範囲を覆う結界魔法だ。
内側を守るものじゃなく、中にいるものを外に逃さないための。
〝ほう〟
ヴェイグが声を上げて関心した。確かに、このサイズと強度はあまりお目にかからない。
「どうしようか」
相談相手は勿論ヴェイグだ。お互いにしか聞こえない声で会話する。
〝条件は整っている。さっさと片付ければよい〟
「そうだね」
相手が僕に悪意をもって武器または魔法を向けている。
周囲に人が居らず、町から離れている。
条件とは、以上二つのことだ。
この条件下なら、僕が多少力加減を間違えても、被害が小さい。
正当防衛も認められるだろう。
アイネはシーラより数段強い
この強さと髪の色から、多分この二人が
ただ、僕から見たら、それだけの人たちだ。
動かない僕に焦れたアイネが、炎と雷の攻撃魔法を放ってきた。
〝複数属性を同時に操るのか。なかなかいい腕をしている〟
ヴェイグが暢気に魔法の技量を見極めている。
僕は魔法を真正面から受けた。爆発と、砂煙で視界が悪くなる。
「大したこと無いのね、
アイネが盛大にフラグを立てているので、そろそろ折っておこう。
左腕を、辺りを払うように振る。それだけで砂煙が一気に消えた。
僕は無傷で、武器すら手にしていない。
スキルもほとんど使わずに済んだ。
「どうして剣で追撃してこなかったの? 手抜きしてる?」
わざと挑発してみる。
挑発に乗ったのか、元々このタイミングで来るつもりだったのか。シーラが斬りかかってきた。それを素手で受け止める。アイネからの追加の雷は過保護なヴェイグが右手を操り魔法で打ち消してくれた。
「素手でっ!?」
「なっ……!?」
シーラとアイネが驚愕に目を見開く。
剣はかなりの業物だ。魔物がドロップする剣は人が作るものより品質の高い物が多いから、これもそうかもしれない。
壊したら、お金では弁償できない。
それでも、人間相手に、よくわからない理由で剣を向ける人には刃物を持たせちゃだめだ。
シーラが剣を押したり引いたり、僕の手から放そうともがく。
そのまま、剣を握りつぶして折った。
「!?」
〝手は無事か〟
「無事だよ」
手をぱぱっと握ったり開いたりして、感触を確認してみせた。
「そんな……デスバイパーの剣が……」
〝難易度Sの毒蛇の剣だったか〟
シーラは膝から崩れ落ちて、その場に座り込んでしまった。
僕が愛用している短剣も、アビスイーターという大蛇のドロップだ。蛇系の魔物は良質の武器を落としやすいのかな。
「まだやる?」
声をかけても、シーラは呆然として動かない。
アイネは僕との距離を更にあけて、再び手を頭上に掲げた。
そこに黒い球体が現れ、徐々に大きくなっていく。
「あれって、消滅魔法?」
〝そのようだな〟
ヴェイグ以外が使うところ、初めて見た。
僕が思わずまじまじと観察していると、アイネが何か勘違いしたようだ。
「これは消滅魔法。古の、封じられた魔法よ。これを使えるのは私くらいでしょうね。名前の通り、触れたら消滅するわ」
わあ。
チートなんて無限大の中二病背負った僕が言うのもなんですが。
アイネさん、今の台詞確実に黒歴史になりますよ。
僕が生暖かい気分になっていると、アイネは増々球体を大きくしていく。
頭より大きくなった辺りで、球体やアイネの身体から魔力がばしばしと溢れ出した。
「ちょ、ちょっとアイネ! それ研究中じゃなかったの!?」
「思い上がった
〝あやつ、制御できておらん。放っておくと危ない〟
「じゃあ、宜しく」
二人がなにか不穏な会話をしている間に、僕らの方も話がまとまった。
ヴェイグに右手を渡すと、アイネのと全く同じサイズの消滅魔法を瞬時に創り出し、特に何の感慨もなく放つ。それだけで、アイネの古の魔法は消え去った。
「え……?」
「は……?」
僕に攻撃魔法は効かない。自分で魔法を使うのは苦手なくせに、魔力だけは殆ど底なしにある。その魔力で、他の魔法を打ち消すことができる。
ヴェイグが過保護なのは、そんな僕の性質を知っているのに、攻撃魔法に対抗してくれるところだ。
消滅魔法を食らっても、僕は服の端すら消させずに無事だったと思う。
「なんなの、あんた……」
アイネも膝をついた。
「こんなの、認めないわっ!」
ようやく終わるかと思ったら、シーラが復活した。
手には予備であろうショートソードが握られている。
「いい加減に諦めてくれないかな」
苛立ちとともに、スキル[威圧]が発動する。シーラはうめき声を上げて、その場に固まった。アイネも膝をついたまま、動けずにいる。
「そっちは、どうやったら負けを認める?」
[威圧]の威力を少しずつ上げていく。あまり強めると、言葉も発せなくなってしまうのでそこは加減しておいた。
「あ……ギルド……を……」
これでも強すぎるのかな。一応言葉は出るようだから、このままで固定しておく。
「ギルドを?」
「新しい、冒険者ギルドを……作るの……」
「何故そんなものを」
冒険者ギルドは、かなり健全な組織だと思う。
以前、ジュリアーノという町のギルドの統括が私利私欲に走って失脚したけど、他のギルドでそういう話は全く聞いていない。
仕事と報酬に関して困ったことはないし、事情があって仕事ができない状態の冒険者には手厚いフォローをしてくれる。対応は、
「今のギルドは強い冒険者にだけ優しいのよ。低ランクの冒険者に優しくあるべきだわ」
だから、今のアイネの発言にものすごく違和感を感じる。
僕は低ランク時代が短かったから知らない、と思われているのかな。
僕の家族でありパーティを組んでいるメルノとマリノは、二人共
アイネは他にも、女性冒険者の権利だとか、上のランクの人はもっと下のランクの人に報酬を分け与えるべきだとか、胡散臭い御託を並べ始めた。
ていうか、最初の質問に答えてくれていない。
「で、君たちが負けを認める条件は?」
改めて問いただす。アイネの方は関係ないことばかり喋るから、[威圧]を強めて黙らせた。
「こんな、わけのわからない魔法で、私達の心が折れるとでも……っ」
「じゃあ止める。で、条件は?」
[威圧]を解除した途端、二人は再び剣と魔法で僕にかかってきた。
〝ここまで話が通じぬのも、珍しいな〟
「しょうがないか」
魔法を打ち消し剣を素手で止め、二人をヴェイグの睡眠魔法で眠らせた。
二人をギルドへ運び込んだ。深夜だから、当直の受付さんが三人いるだけだ。
受付さん達は、僕が抱えて持ってきた二人を見て、僕に気づき、頭を抱えてしまった。
「まさか本当にアルハ様に喧嘩売ったのですか、このアホたち」
受付さん、
僕が事情をざっくりと説明すると、受付さんたちは全員、頭が痛い、というふうに額に手を当てた。
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