36 背中を追う
クエストも請けず、家でゴロゴロしまくった。
本を読んだり、家事をしたり、買い出しに行ったり。
三日ほどまったり過ごして、充電完了、という感じだ。
「そろそろ身体動かさないと、勘が鈍りそう」
“同感だ”
日本に居た時、大学入る前はどちらかというとインドア派だった。
それが、こっちの世界に来てからは、完全にアウトドア派だ。運動しないと、身体が錆びつきそうで怖い。
ギルドでクエストを請けよう、と装備を身に着けていたら、通信石が着信を伝えてきた。
相手はオーカだ。
「一応確認するけど、四魔神を全部倒したのは貴方よね?」
「うん」
通信石から大きなため息が聞こえてきた。外野からエリオス達、ハインやラクの声もする。
「だろうな」「やっぱりか」「言うたではないか」
なんて言ってる。皆集まってるみたいだ。一体どうしたんだろう。
「いつ、どこで倒したか、詳しく聞かせて」
ヴェイグに確認しながら、質問に答えていった。
「玄武は最終的にどのくらいの大きさになったの?」
「えーっと、小さめの樽くらいだったかな」
一通り話した後、オーカが聞いた理由を答えてくれた。
「この前、弱体化した朱雀と遭遇したの。ちゃんと討伐して、被害もなかったから安心して。それで……」
メデュハンに現れたミニサイズの青龍はラクと竜たちが討伐し、コイク大陸では玄武に似た害獣を順調に駆除している、という情報が入ってきているそうだ。
「それって……」
「貴方のせいだなんて考えないで。アルハが元の四魔神を倒しておいてくれなかったら、被害は甚大だったわ。弱体化した四魔神なら、私達で対処できる」
ネガティブを口にしそうになったら、オーカに先回りされた。
「ありがとう」
「お礼を言うのはこちらよ。朱雀以外のこと、どうして言ってくれなかったのよ」
「言うようなことかな」
「四魔神を倒したのよ。どれだけの偉業か、分かってる?」
「目の前に出てきたから倒しただけで……」
外野からハインの声が笑いながら「アルハはそういう奴だ」と言うのが聞こえてきた。どういう意味だよハイン。
オーカはオーカで、何度目かわからないため息をついた。
「それで、アルハ。ディセルブと連絡取れる?」
「イーシオンと? 通信石は?」
「なぜか通じなくて」
ディセルブでは白虎を討伐している。今までの話からして、白虎が現れている可能性がある。
「イーシオンなら大丈夫だと思うけど、行ってみるよ」
「お願い」
ディセルブは雨季に入っていた。
ジメジメとしていて、日本の梅雨時を思い出す。暑くはないのが救いだ。
ディセルブ城は歴史のある建造物で、元からあちこちに補修跡や、補修が間に合っていない部分があった。そこに、真新しい傷が増えていた。ところどころ、燻ったような煙まで立ち昇っている。
「一体……」
“イーシオンやタルダの気配は”
「タルダさんは城の中だ」
タルダさんは城の大広間で、他の人達に指示を飛ばしていた。周囲には怪我人が多数、床に布を敷いただけの場所で横になっている。
「タルダさん!」
声をかけると、タルダさんが目を見張った。
「アルハ殿、なぜこちらに」
「その前に、怪我人を」
ヴェイグと交代すると、ヴェイグが範囲で治癒魔法を使った。何十人もいるとはいえ、一部屋に集まっているから治療はすぐに済んだ。
「兄上、ありがとうございます」
「いい。何があった。イーシオンは?」
そのままヴェイグがタルダさんと会話を続ける。
「城の近くに突然、白虎が何体も現れまして。ここにいる者たちは応戦して負傷しました。イーシオンは今、一人で白虎と戦っています」
▼▼▼
ディセルブの城が白虎の大群に攻め込まれたのは、三日前だ。
その時僕は城の一室で、タルダにディセルブの古代文字について教わっていた。
勉強は苦手だ。でも、これを覚えたほうがアルハやヴェイグ、皆の役に立つ。必死に机にしがみついていた。
だからしばらく、戦いからは遠ざかっていた。
城の外が騒がしくなり、兵士の一人がノックもなしに扉を開け放った。
「どうした、騒がしい」
タルダがゆっくりと咎めるも、兵士の姿をみて顔色を変えた。
兵士は傷だらけで、ここへ来るだけで体力を使い切ったのか、その場に膝をついた。駆け寄って、壁際にもたれさせる。
「申し訳ありません」
「いいから。何があったの?」
「外に、魔物の群れが。白い虎が……」
白虎と聞いて、身が竦む。ラムダ兄様の成れの果て。アルハが倒してくれたはずなのに、何故? しかも群れって?
「タルダ、ここを頼む」
考えるより、実際を見たほうが良い。それに相手が魔物なら、僕の出番だ。
この城の兵士たちは、元は一般庶民だ。僕が無理やり兵士にしたてたのに、それでもついてきてくれた人たちだ。
戦闘訓練なんて殆どさせていない。ただ武器を持っているだけだ。
魔物に、白虎にかなうはずもない。
城の外へ出ると、あちこちに人が倒れていた。
息のない人もいる。
カッと頭に血が上った。
ほんの数百メートル移動しただけで、三体の白虎の姿が視界に入った。
以前見たものと違って、僕でも倒せそうだ。
手近な一体に近づくと、向こうが前足の爪を振りかざした。半歩差で避けて、拳を顔面に叩き込んでやる。
アルハみたいに、一発では決められない。白虎はよろけただけで、再び僕に攻撃を繰り出してくる。
何度か殴って、ようやく一体倒せた。
「イーシオン様!」
兵士たちが近寄ってきた。肩を貸してもらわないと歩けない人もいる。
「ここは僕がやる。負傷者を城へ連れ帰って、タルダの指示を聞いて!」
それから三日間、不眠で白虎を相手に戦った。
倒しても倒しても、別の所から白虎が現れる。
兵士たちは間に合わなかった人を除いて、全員城の中だ。
たまに補給に来てくれる人によると、ジュノ国や他の場所への通信石が通信不能に陥っているという。
「周辺の町の人の避難は?」
「済みました。もうじき兵たちもこちらに」
「兵じゃ無理だ。通信石の復旧を最優先して、冒険者を呼んでほしい」
本音を言えばアルハに来てほしい。アルハとヴェイグがいてくれたら、こんな連中は一瞬で片がつく。
けれど、自分の国を自分で守り切れなくて、何が王族だ。
次第に補給の頻度が落ちてきた。
当然だ。城の蓄えは死んだ兄様達が使い切り、その後の補充は満足にできていなかった。
僕の体力も、限界が近い。その前に一体でも多く、白虎を。
攻撃が当たるより、躱される方が多くなってきた。その場合、当然僕が爪で攻撃される。
めまいがした瞬間に、脇腹をかすめられた。傷は浅いのに、出血が多い。
視界には、十体以上の白虎が迫ってきていた。
ここまでかな。
視界の白が、黒に変わった。と思ったら、温かい腕に抱えられていた。
「遅くなってごめん。よく頑張ったよ」
会いたかった顔が、僕を覗き込んでた。
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