1-10-2 よにんでクエスト

 メルノ達の家でお世話になるようになって7日目。

 一昨日、二人と正式にパーティを組んだ。

 冒険者ランクは僕が上級者ベテランで、メルノとマリノが一人前シングル

 パーティを組んだ場合、ランクが上の人が請けられるクエストをパーティ全体で請けることができる。

 例えばこのパーティで難易度Eのクエストを請けて、メルノが対象の魔物を単独で討伐すれば、そのままメルノが難易度Eを1回達成したことになる。一人前シングルから上級者ベテランへのランクアップには難易度Eのクエストを50回達成する必要があるから、これを50回繰り返せばメルノはランクアップできる。ただし、既に上級者ベテランである僕が手伝えば達成の比率が変動して…と、計算が少し複雑になる。

 貢献の割合とかは、ギルドカードに掛かっている魔法が逐一チェックしているらしい。魔法すごい。


 とはいえ、メルノ達はランクアップを目指していない。僕のランクアップに必要な難易度Cの魔物は、近隣に殆ど出現しない。

 そんなわけで、難易度Fのクエストばかり請けている。


 マリノが精霊召喚魔法で召喚した精霊、拒魔犬こまいぬに、メルノが強化魔法をかける。

 拒魔犬こまいぬたちが討伐対象である魔物、ニードルボアに襲いかかる。

 ニードルボアは全身が針で覆われたイノシシだ。名前を聞いたときはハリネズミを思い浮かべたけど、実際に見たら背中に短い針がタワシのようにビッシリ生えてて、可愛くない。

 2体倒せばクエストを1回達成したことになる。

 僕が予め、気配察知でちょうど2体いる場所まで案内し、メルノとマリノで討伐完了できた。

 メルノに「頼ってしまうのはよくないですから」と言われたので、僕はなるべく手を出さない。

 但し、2人に危険が迫ったら、その限りじゃない。


「やったよー!」

 マリノが笑顔で、少し離れて見ていた僕に手を振った。手を振り返しながら、2人に近づく。

 メルノもほっとした顔で、息を整えている。強化魔法は魔力の消費量が多いらしく、戦闘の後は毎回、全力で走った後のような状態になってしまう。

 あとは魔物の死体が消えるのを待って、ドロップアイテムを回収するだけだ。


 全員が魔物の死体から目を離していた。


 倒れていたニードルボアが起き上がり、背中の針をメルノに向けて突進してきた。


 地を思い切り蹴って、メルノの前に立ち、ニードルボアに短剣を突きつけた。


 もうやられているんだから、大人しく消えろ。


 無言で睨みつけると、ニードルボアはその場に倒れ込み、今度こそ動かなくなった。

 最後の力で、一矢報いたかったんだろう。


「すみません、アルハさん」

 メルノが申し訳無さそうにしている。

「怪我はない?」

「はい」

 2人にはまだヴェイグの事を話していない。今の所、ヴェイグの魔法に頼るような事態になったことはない。

 ヴェイグ、暇じゃないかな? と中に意識を向けてみた。


 寝てた。


 いや、僕が直接じゃないけど、魔物と戦ってますよ?


 僕の気持ちが伝わったのか、ヴェイグが目を覚ました。

“ん…終わったか?”

「いくらなんでも寝ることはなくない!?」

 ヴェイグにだけ聞こえる声で突っ込む。

“アルハがこのあたりの魔物に遅れを取るようなことはないだろう?”

 まだこの状態になってから半月も経ってないのに、どうしてこんなに信頼してくれるかな。

“何かあったら叩き起こしてくれて構わん。寝起きは良いほうだと自負している”

「そういうことじゃなくて」


 僕が一人でヴェイグとごそごそ話をしていたら、マリノに不思議そうな顔で見上げられていた。

「アルハにい、どうしたの?」

「いや、なんでもない。ドロップ拾った?」

「うん!」


 今回のドロップは、ニードルボアの牙が2本だけだったようだ。

 僕が倒した時にやたらと封石や武具が落ちるのは、スキル[ドロップ確率超上昇]のおかげだ。

 普通は、20回ほど倒して出るかどうか、だそうだ。

 封石は高く売れるから家計に助かるけど、こればかりは運なので仕方ない。


「じゃ、帰ろうか」

 ヴェイグとの話し合いは夜にするとして、町へ戻った。

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