36 VS???
魔物が何百匹、何千匹連携してこようと、僕の敵じゃない。
幸いにも、ここは人がめったに来ないような場所だ。どんな手段でも遠慮なくやれる。
目の前のやつは斬撃で斬り刻み、他は頭上に剣を創って落として切り裂いた。
剣の重さは、ディセルブの地下で手に入れた短剣を参考にした。
スキルで創る武器は、以前ティターンのドロップで手に入れた謎の金属塊を無意識の内に参考にしていた。
同じ強度と軽さのものをどこかで見た覚えが、と考えていたら、ヴェイグがそれじゃないかと気づいてくれた。
ディセルブの短剣は、強度は同等でとても重たい金属でできていた。
短剣自体は相変わらず、装備するための装備が入手できないので、無限倉庫に入れっぱなしだ。
雑魚を片付けて、仮称『魔族』と向き合う。
魔物をけしかけている間、その後ろで腕を組んで偉そうに突っ立っていた。
まるで、僕を見下すように。
“気に食わん、といいたいところだが。やれるか、アルハ”
「やるよ」
出来るか出来ないかじゃない。こいつはここで倒しておかないと危ない。
微動だにしないそいつに、創った刀で斬りかかった。
そいつの腕にはいつのまにか篭手がついていた。受け止められ、弾かれる。
次の動きを取る前に、横腹に蹴りを入れられた。数メートル先の地面に全身を打ち付けられる。
地面に転がる僕の横で、魔族が剣の切っ先を下に向けて、突き刺そうしていた。
その顔は余裕に満ちていて、僕を殺せるのが嬉しそうだ。
魔族の剣が僕の左肩を貫いた。
ひと思いに殺す気はないらしい。
「やっぱり、スキルか」
刃の感触を確かめて、確信が持てた。
“アルハ!?”
「大丈夫。ちょっと確認したくて」
魔族の顔が初めて愉悦以外の表情になる。
引き抜こうとする剣を素手で掴んで、動かないようにした。肩に刺さったままだから、すごく痛い。
剣の刃は僕の手を切らなかった。強度もだいたい同じかな。
“一体何を…”
「魔物はスキルを使うし、人でも僕とイーシオン以外に使える人がいるかもしれない」
剣を僕の意思で肩から引き抜く。[治癒力上昇]の効果で、表面がじわじわと塞がる。
魔族は剣を消して、僕から距離をとった。
「[武器生成]を使うやつは初めて見たからさ。僕のとどう違うのかなって」
“わざと斬られたのか”
ヴェイグが静かに怒ってる。立ち上がると右手が勝手に動いて、治癒魔法を使う。怪我の治る速度も見たかったんだけど、仕方ない。
“研究熱心なのは立派だが、やりすぎだ”
「もうやらないよ」
肩の傷はあっという間に治った。痛みも、もうない。怪我にはヴェイグの魔法が一番いい。
肩をぐるぐる回し、腕や手の具合も確かめる。その間、魔族は僕を睨みつけて唸り声をあげているだけだった。
その唸り声が、急に意味ある言葉になって耳に届いた。
何者だ、と聞いているようだ。
「冒険者だ」
ギルドカードは提示せずに言い切る。どこかでやったことのあるやり取りだ。
また魔族がギリギリと唸る。
何故、ただの人間にスキルが使える?
答えようがない。僕以外にも使える人はいるし。
まともに応答してくれるとは思えないから、質問で返してみる。
「お前こそ何なんだ」
返事の代わりに、大きな叫び声。
それは『殺してやる』と言っているように聞こえた。
空中に無数の剣が浮かぶ。僕じゃなく、魔族の仕業だ。
僕も同じ数だけ刀を創ってやりかえす。剣と刀が空中でぶつかりあってる間に、お互い武器を手に距離を詰める。
こいつは、今までの相手とは段違いに強い。
これまでは相手との差が大きかったから、脳筋ゴリ押しでも勝てた。
今回は、そうはいかないかもしれない。
剣を打ち合って離れる。斬撃を躱し、飛ばした刀を避けられる。また近づいて打ち合う。
何度かやっている内に、お互いあちこちに傷をつくった。
“やりにくそうだな”
ヴェイグに返答をする余裕もない。
“人と同じような形をしているからか”
一瞬、動きが固まってしまった。斬りつけられて、距離を取る。左腕にぱかりと傷が開く。
“代わるぞ。アルハよりはマシだろう”
「だめだ」
ヴェイグにも分かってるはずだ。こいつは、ヴェイグじゃ敵わない。
“ならば、さっさと決めろ。確かに手強い相手だが、アルハが遅れを取るほどではないはずだ。何を迷っている”
「会話できてた、から」
魔物とは意思疎通が出来ない。人を見るや、襲いかかってくる。
目の前のやつからは、魔物の気配しかしない。ただ、それでも…人の言葉を理解していた。
“会話できたから、何だというのだ。鳥でも人の言葉を話すぞ。あれは、人に似た音を発して、騙すのに長けた魔物というだけだ”
「騙す…」
ヴェイグとの会話の間にも、そいつは僕に斬りかかってきていた。攻撃を受け流すだけなら、会話しながらでも出来る。
「なあ…」
もう一度、声をかけてみる。
なあ。
僕と同じ声が返ってきた。その顔は、歪んだ喜びに満ちていた。
◆◆◆
赤黒い腕が、手にした剣ごと地面に落ちた。
やったのは勿論アルハだ。
世話の焼ける相棒だ。優しさが過ぎて、己の首を絞めるところだった。
だが、迷いは吹っ切れたようだ。
ノルブへ行った頃から、アルハが力を存分に発揮する時、指先に小さな雷のような光が伴うようになった。
アルハは魔法が不得手だ。気にすることではないのに、時間があれば鍛錬を積んでいる。それでもまともに放てる攻撃魔法は炎くらいしかない。雷は使えないはずだ。
紫電が全身を駆け巡り、ばちんと音を立てた。
常ならば不快を覚えるぞくりとした感覚も、今は心地よい。
謎の魔物は、いつのまにか腕が生えていた。
「再生か。試したくはないな」
どうやら新たなスキルが発現したようだが、聞く限り剣呑な部類のものだ。
“大丈夫そうだな”
「うん。ごめん」
“謝る必要はない”
くしゃり、と泣き出しそうな顔をする。次の瞬間には、いつもの笑みを消した、戦う時の顔になっていた。
アルハは息を短く吐くと、身を低くして魔物に突っ込んでいった。
魔物の方も即座に対応し、また剣を合わせる。それを、アルハは力ずくで押し返した。
常ならその一撃と共に首を落とすか二つに切り裂いているのだが、そこまでは届かなかったようだ。
相手も、先に一撃で腕を落とされてから警戒し、こちらを舐めた態度はとらなくなっている。
次に動いたのは、魔物の方だった。
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