26 分かる人には分かってしまう
深夜。
一旦はちゃんと寝て、2時間ぐらい起きられた。
ヴェイグがしっかり眠っているのを確認して、感覚遮断。
[自空間]を展開する。
キマイラに刀が通らなかったのは、刀が軽すぎるのが原因だと思った。
軽いほうが扱いやすいからと、重さに関しては全く考えたことがなかった。
いつものように一振り創る時に、なるべく重めに、を意識してみる。…変わらなかった。
ものすごく大きくしてみる。何本も創って、それを一つにまとめてみる。一振り創るのに時間をかけてみる…。
何度も創っては重さを確かめる。いくらやっても、重さは変わらず、軽いままだ。
刀以外の武器も創ってみるが、どんな武器を創っても重さは同じだった。
“他のスキルを組み合わせてみてはどうだ”
「そういえば重力形成ってあった…な…!? ヴェイグ!?」
“感覚遮断を解いてくれないか。何も見えん”
すぐに遮断を解除した。
「あの…?」
“どうせアルハのことだ。昼間のキマイラの件が悔しかったのだろう。それでスキルを試そうとして、うまくいかず苛立っていると。感情は五感ではないからな、俺にも伝わる”
「そうだったのか……」
“アルハは何度言っても、全て一人でやろうとする”
「夜中に付き合わせるのも悪いかと…」
“そんなに俺は頼りないか”
「違うよ。ヴェイグに頼りっぱなしの僕が情けないんだ」
“人には得手不得手があるだろう”
「それでも、魔物は僕一人でも何とかできるくらいになりたい」
“もう充分に強い…と、言っても聞かないのだろうな”
ヴェイグが諦めたようにため息をついた。
“だが、睡眠と食事はしっかりとってくれ。身体を健康に保ってもらわねば困る”
「むぅ…」
“ギルドが再始動しているなら、アルハが魔物の討伐をしなくとも問題ないだろう。時間なら作れる”
「…うん」
[自空間]を解いて、素直にベッドに横になる。
結局、問題解決に至らなかったのがモヤモヤして、なかなか寝付けなかった。
お城の作戦室に集まって話をした。
昨日、村でオーカ達の身に起きたこと、ローブの連中がしようとしていたこととその動機、村人の行方。
どれも、ローブの連中のだんまりによって詳細が分からなかった。例の非人道的な行為を持ってしても口を割らないとか。
仕方ないのでそっちは一旦置いておいて、僕らが持ち帰った魔法陣について精査することにした。
作戦室には、僕らとオーカ、エリオス達、セネルさん。呪術に関することは知る人を少なくするため、調査の重要部分に関わる人だけが集められた。
早速、石版とヴェイグのメモを取り出して広げる。
精緻な図に、皆が驚いている。
「アルハがこれを…」
「あ、いや僕じゃないんだ」
「じゃあ誰が?」
ここにいる人達なら、いいよね? ヴェイグにも確認を取って、僕らのことを話すことにした。
「訳あって、この身体は二人で使ってるんだ。一人は僕で、もうひとりはヴェイグ。魔法陣を写したのはヴェイグの方だよ。表に出る人間が替わっても見た目は変わらない。だから、信じてくれなくてもいい」
一旦言葉を区切る。オーカは知っていることだし、セネルさんはオーカから伝え聞いていたんだろう。
エリオス達だけが、ぽかんと口を開けて僕をめっちゃ見つめている。
「二人? どういう…」
「詳しい話は長くなるからまた今度。とりあえず、交代してみるね」
交代は本当に一瞬のことで、一々間を挟む必要はない。けど、演出のために目を閉じる。
目を開けたのはヴェイグだ。
「ヴェイグだ。
「いや全然違うじゃないか」
「間違いなく別人だな。信じるぞ」
「はじめまして、ヴェイグ。よろしくね」
ライド、エリオス、リースの順に肯定の意思表示が帰ってきた。
どういうこと???
「そんなに違うものか?」
ヴェイグも想定外だったようだ。
「未だ短い付き合いだけどね。演技で別人になりすませるほど、アルハは器用じゃないと思うわ」
うぐっ。
「明らかに雰囲気が違う。ヴェイグの方がしっかりしてそうだ」
ぐあっ。
「表情が引き締まったな」
ごふっ。
「あのな、アルハに…中にいる方も見ているし会話も聞こえている。さっきからアルハが妙な声を上げて落ち込んでいるのだが」
僕のことは構わず魔法陣の話を、と頼んだ。
しばらく凹んでますが気にしないでください。
◆◆◆
ディセルブが呪術の研究をしていたのは忌むべき事実だ。
何が役に立つかわからぬ。
ジュリアーノの町で見つけた魔法陣に比べればかなり大きいが、やはり魔物を召喚するには足りない。
先日、アルハに話した仮説を、迷ったが話した。
「そんなことが…でも辻褄は合うわね」
オーカの言葉に、セネルも頷く。
更に俺は、認めたくないあまりアルハにも話していないことを、この場で白状することにした。
「呪術を設置しているとすれば、間違いなくディセルブが関わっている。あの国の王族は滅んでいない」
アルハが中で顔を上げた。
「民や、タルダ達のことなら案ずるな。あの国の者たちは皆、呪術の対処方法をよく知っている」
アルハにだけ聞こえる声で、そう伝える。
「呪術の発生場所の特定が急務だ。俺たちに与えられた役割は魔物の討伐だが、ディセルブに関する調査も任せてほしい」
これはアルハと、皆に向けて言った。
俺が王族だったことは、オーカには話してある。
それ故か、何か言い募ろうとしたリースを制した。
「わかったわ。でも、他の調査は今まで通り私達の仕事よ」
「助かる。頼んだ」
一旦話を切り上げて、牢へ向かった。投獄されている連中と話をするためだ。
手には、魔法陣の写しを持っている。
格子越しに連中と対面する。全員、俺に背を向けて壁を見つめている。
「ここから出てきた魔物はキマイラだったぞ」
俺の言葉に、何人かの肩がわずかに動く。
「出てきても精々ゴブリン、と聞かされていたのではないか? 確かに、描いたものが危機に陥った時発動するとは書いてある」
「なぜそんな…」
一人が振り向いた。隣りにいたものが嗜めると、すぐにまた壁を向いた。
「呪術には複雑な意味を持つものもある。これの場合は、『描いたものがしくじった時、証拠を消すために』とある。この魔法陣を描くよう指示したのは誰だ?」
「や、やっぱり騙されて…」
「黙れっ」
牢に入り、先程から反応の良い一人を連れて出た。
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