第11話 【生徒会館】SFPエッセイ111

 もう夏やし、暑なってきたし、たまには納涼企画ということで、怪談のこと、書きます。

 怖い話が苦手な人は本当にやめといたほうがいいです。マジで。

 うちの高校の話なんやけど、どこか特定できるとシャレにならんので、わからんように書きますね。

 

 みなさんの学校でもトイレの花子さん的な話はあると思うんですけど、俺のところでもいくつかあります。定番はやっぱりトイレ系。花子さんやないけど男子トイレの大便の方の一番奥の、なんて言うたらいいのかな、小部屋?で首つったやつがいてるとかそういうやつ。それから理科室。解剖に使った動物の内臓がどうのこうのいうやつ。それから校舎の裏のちょっと森みたいなところに置いてある銅像の唇が動くってやつ。けっこう定番ですよね。ありがちっていうか。

 

 でも、いろいろ調べたんですけど、いまいち裏付けがあらへんちゅうか、ま、学校の怪談なんで、いちいちちゃんと裏付けがある方が困るんですけど、俺たち新聞部としては、あ、言うてなかったけど、新聞部なんっすよ、俺。で、新聞部としては、記事にする以上は伝聞情報じゃなしに、一次資料に当たるとか、目撃者本人を見つけ出すとか、俺たち自身が現場で体験するとかせんとアカンでしょ? だから調べました。

 

 トイレは、自殺の記録が市内の警察にないからダメ。理科室はこっそり忍び込んで一泊してみたけど内臓ぐちゃぐちゃみたいなんは何も起きなくてダメ。銅像の前でも防災訓練や言うて許可とってテント張って、変な虫が出てきたりして別な意味で怖いことはあったけど銅像に関してはダメ。ダメでした何も出ませんでしたって方の体験記なら書けるけど、それじゃあ怪談の記事にはならんわけで。

 

 で、生徒会館の話。

 

 これほんと、最初は全然怖くないんすけど、っつーかほとんどギャグっつーか、すべらない話的なアレなんすけど、でもまあそこから話さないとアレなんで、書きます。俺のクラスにイヤサカさんって人がいて、おとなしいし、あんま目立たないっつーか、休み時間とかも女子で集まったりせんと、教室の端の席でいつも本を読んでたりするんすけど、俺的には最高に好みの顔で、なんで他の奴らが目をつけないのかわけわからんけど、でもライバルがいてないのは好都合で、でもこっちから声かけたりしたことはなくて、いつかイヤサカさんに何か話ができたらなって1年の時も2年の時も思ってたけど声かけらんなくて。

 

 あ。俺、別に女子と話ができひんとかいうんじゃないんすけど、っつーか、他のアホな女子とはフツーに、っつーか、めっちゃアホなこと言い合ってゲラゲラ笑ったりしてるし、ちょっと付き合った、的な? そういうちょっとアレなのもまあ、あることはあった、的な? 感じなんすけど、でもイヤサカさんには声かけらんなくて、そしたら向こうから来たんすよ。 

 

 え、マジ? なんで? なんで俺? みたいな感じでめっちゃ焦ったんすけど、でもまあ嬉しくないわけがないわけで、それがいきなりすんごいこと言われて、イヤサカさんの口からそんなん言われるなんて想定外で、イヤサカさん大胆すぎ、っつーか、やっぱ文学少女って、いろんなこと知ってるからそんな大人っぽい誘い方するのかなって、俺、もうマジくらくらしてたんっすよ。

 

 生徒会館について、間違いに気がついて、これオチ、先言っちゃいますけど、俺、イヤサカさんがいきなり「タカナシくん来て。一緒に、わたしと、性と、快感」って言ったと思ってて、もうすっげえもう何つーかもう歩けないくらいもうやっばいことになってたんすけど、生徒会館に着いて「あ、そっち?」的なアレで、もう笑っちゃうくらい力抜けて、だからホッとしたっつーか、やっと喋れるようになって「え。イヤサカさん。なんで生徒会館来たん?」って聞いたんすよ。

 

 そしたらイヤサカさんちょっと笑って、それがもうありえないくらい可愛くて他の奴ら絶対に見たことがないのは間違いない系の可愛さで、こんなのヤンマガとかのグラビアのアイドルとかにも余裕で勝てる圧勝的な可愛さで「着いてきたらわかる」とか言われてもう一生着いていきます的な? それで一緒に階段あがったわけです。

 

 新聞部の部室は1階の一番奥で、2階の図書室までは使うことあったけど、3階の生徒会室とか滅多にこないし、4階が何になってるのか知らんかったから、なんか秘密の場所っぽくて、イヤサカさんが先に立ってどんどん階段上がっていって、目の前でスカート揺れて、足とか見えるわけじゃないっすか、これやっぱり生徒会館じゃなくて性と快感的な方のことなんじゃないかとかまあ考えるわけっすよ、健全な男子的には。

 

 したら4階、なんか暗くって、窓がみんな塞がれてて、あんまし使ってないっぽくてカビ臭くて、え、何? ここ何の部屋? って思ってたらだんだん目が慣れてきて、そしたらなんか、古いっていうか、3階までと全然違う感じで、昔の建築っぽい感じで、学校の記念誌の古い写真に写ってた教室みたいで、っつーか絶対そういう感じで、俺は、わざわざそういうのを再現したのかと思って、見れば見るほど昔の理科室みたいな感じに見えて。

 

 何これと思ったらイヤサカさんが「タカナシくん、学校の怪談探してるやろ」って言って、なんか俺びくっとして「え? ああ、イヤサカさん、知ってたんや。次の特集やねん」って答えたら、「何も見つからへんの?」って聞くから「そうやねん。調べたらどれもあかんねん。何も出えへんねん」って答えたら、イヤサカさん黙ってしまって。

 

 俺、なんか悪いこと言ったかと思って焦って「え? 何? どないしたん?」って聞いたんや。そしたらイヤサカさんちょっと笑って「何も出えへんってほんま?」って言うねん。なんでそんなこと言うんやと思って「ほんまやけど」と答えたらイヤサカさん、真面目な顔になっておれの目をじっと見つめんねん。そんなんされたらどぎまぎするやんか。でもイヤサカさん、そのまま俺の目、見据えたまま言うねん。

 

「タカナシくん。探す場所が間違ってんねん。いじめられた理科室はもうあらへん。取り壊されて新しい建物に変わってもうた。首つったんもその建物のトイレや。それも女子トイレやし」

 その時、俺、初めて気がついたんや。生徒会館に4階なんてあらへん。そしたらイヤサカさん、にっこり笑ろたんや。

「タカナシくん。なんで私のこと、見えるん?」。

 

 イヤサカさんの笑う口がどんどん広がって頭全体に広がって裏返って顔の皮が全部まくれあがって中からものすごいにおいの血まみれの幼虫の化け物みたいなのがぞろぞろぞろぞろ出てきてイヤサカさんの口のあったところから足元にぼたぼた落ちて俺の方にどんどん這ってきて。這い上がってきて。ズボンの隙間から中に入ってくるやつ、飛び上がって手の親指に食いつくやつ、どんどん這い上がって顔めがけて迫ってくるやつ。うにょうにょうにょうにょ、もう目の前にイヤサカさんはおらんようなって、幼虫みたいなんがおれを覆い尽くして。ああちゃうわ。これ、幼虫やない。何かの誰かの内臓や。俺を食らおうとしているんや。内臓がもつれあって人間の唇みたいにうねるのを見て俺、わかったんすよ。理科室もトイレの首吊りも銅像も全部ほんまやったんやって。言い伝えは馬鹿にしたらあかんで。俺みたいになりますから。

 

(「【生徒会館】」ordered by 岡 利章 -san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

※注意:このエッセイはフィクションであり、 実在の人物・団体・事件・霊体験などとは一切関係ありません。

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