第7話 2度目の年越し


 前世で言う、大晦日である。

 今年もグレンの家とアントニーの家で一緒に年越しを迎える事になった。

 というか毎年一緒に年末年始を過ごしているのだ。

 この世界に来てからようやく二度目の年越しである。

 今年は、色々な事があり過ぎた。


 魔法中学校に入り、いきなりの誘拐。

 仲間と協力して……はいないが、よく脱出できたものだ。魔物使いの能力でネズミを操り、縄を切ったのだ。危うく、奴隷としてドナドナされるところだった。


 小鬼ゴブリン族を助けて豚人オーク族と戦ったのは、良い思い出だ。

 ほぼ一人で戦ったのに、よく勝てたものである。今考えると無謀な事をしたものである。黒魔法というアドバンテージは大きかった。


 そして、七月七日、リリスの誕生だ。

 家の低木に短冊もどきを吊るしたっけ。

 しかも鑑定の結果、剣聖というレア職業である。

 加護も天性精鋭エリートというすごいものだった。成長速度が常人の三倍にもなる代物だ。何より、家族が増えて、癒し効果が半端な言ってもぉー。


 それから、夏休みに入って、今年発見された古代遺跡に行き、大量の本を見た時は感動したものだ。生憎、読めない言語で書かれていたため、優先順位は落としたが、勉強なり、神様の願いを叶えるなりして、是非読めるようになりたいところだ。

 そこには魔法と歴史の知識が眠っていることだろう。

 しかし、おそらく言語が全種族で統一されている世界で読めない言語って言うのは何なのだろうと思ったな。


 神様の願いを叶えた報酬だろうが、気になるところだ。


 王都の東にある都市、メルディナでは、劇場で劇を見た。『ロビンとジャネット』という、どう見てもロミオとジュリエットそのものの演劇だったが、そこで初めて異世界人のローサと出会った感慨深い思い出である。


 当時は蝗害やら戦争やらで、小麦不足から価格が高騰してエクス公国に行く事になったのだった。野盗集団の『南斗旅団』と少数でやりあって生き延びたのは、イザークとイーリス、そして仲間のお陰だ。

 特にイザークとイーリスの二人には大きな借りができた。

 お宝の回収も垂涎ものだった。ダライアスにあげた蒼天の剣はおそらく伝説級の魔剣だ。あげたのが少し悔やまれるが、彼の嬉しそうな顔を見たら良かったのだと思う。彼とは親友なのだし。分捕った、もう一本の剣の鑑定も行いたいところである。

 『南斗旅団』を壊滅させ、村々を救ったことで、エクス公国から名誉貴族と報酬を得て、アウステリア王国では貴族に叙爵された。

 カルマの東の地を領地として与えられ、そこをナミディアと名付けたのは良い思い出である。来年の春から開拓が始まる。貴族としての重要な仕事だ。

 迷宮創士ダンジョンクリエイターのお悩み相談をしたのもエクス公国での出来事である。

 将来、ナミディアで地下迷宮を創ってもらおうと考えているレヴィンであった。


 後はもう、最近の出来事である。レムレースでアンデッドと戦ったのは良い経験であった。Sクラスのアンデッドの相手をして生き残っていられるのも、聖騎士デボラの力によるものが大きい。その後、レムレースがヴァール帝國によって陥落し、城塞で出会った人達が何人も死んだ。


 人の世は儚いものだと思ったものである。

 『人の夢とかいて儚い。何だかもの悲しいわね』という言葉の通りだ。


 最近の事だが、精霊の森の小鬼ゴブリン族をナミディアで引き受ける事になったのは不安な材料だ。小鬼ゴブリン族に含むところはないが、人間との摩擦はどうしても出てくるだろう。様々な課題にどう対応していくか、領主としての器量が問われるところである。


 こんな風にもの思いにふけっていると、アリシアとフィル、クロエから非難の声が上がった。何をボーッとしているのかと言うのである。


 ふと我に返ると、居室ではグレンとアントニーがレヴィンが木の廃材で作った将棋に熱中している。ルールを教えてやると、一気にハマった二人であった。

 グレンの方が一枚上手なようだ。アントニーが「むむむ」とうなっている。


 リリナとベネッタは、お茶を飲みながら甘味を味わっているようだ。

 世間話が尽きないようで、こちらも会話に熱中している。

 大人がこんな感じなので、子供は暇なのだろう。

 同じく、木の廃材でつくったリバーシでもやるかと、アリシア達に提案する。


「賛成~」


「クロエもやりた~い」


「じゃあ、最初はフィルとクロエでやりな。アリシアはフィルの、俺はクロエの参謀な」


「なんか参謀ってカッコイイ!!」


 フィルがよく解らないところに喰いつく。

 流石は小学生。多感なお年頃だ。


 そして、各々が、会話に、将棋に、リバーシに熱中する中、今年が終わった。

 年越しそばなんて習慣はないので、新年の瞬間、大人は祝杯を上げている。

 子供もマスカテのジュースで乾杯した。

 外では鐘の音が鳴り響いている。

 雪がチラつく、寒空の中、仕事をしている人がいるんだと思うと頭が下がる思いである。


 新たな一年。貴族としての新しいスタートが幕を開ける。

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