第25話 鑑定で犯人捜し


 現場に到着すると、雑魚アンデッドの大軍に押しつぶされようとしている冒険者パーティ『悠久の友愛』がいた。

 学校では魔物学は学んでいるが、アンデッド学なんて授業はない。

 どのアンデッドがどんな名前か解らないのだ。

 ただ、火炎球ファイヤーボールで焼き払える程度の敵なので雑魚アンデッドと判断したまでである。


 敵と味方との距離が近すぎて火炎球ファイヤーボールが撃てない。

 ちょっと散開してもらおうと、レヴィンは魔法陣を展開する。


爆撃風ウインドボム


 グワァァァァァァァシャァァァァァァン!


 味方ごと吹っ飛ばすレヴィン。

 よしこれで良い感じに散らばった、とレヴィンは満足気だ。


 そこへダライアスが突っ込んで、敵を斬り伏せていく。


火炎球ファイヤーボール


 そこに、立ち直った『悠久の友愛』のメンバーのフェリクスが非難の声を上げる。


「おいッ! どういうつもりだッ!」


 無論無視して、次々の魔法を放っていく。


火炎球ファイヤーボール


 その魔法は腐った死体やスケルトンを焼き尽くしてゆく。

 しばらく文句を言っていたようだが、聞いてないと判断したのか、フェリクスも短剣を使って敵を葬っていく。

 他のメンバーもちゃんと復活したようだ。

 手加減したので当然だろう。


 『悠久の友愛』のオレールも黒魔法で敵を倒している。


 周囲の雑魚アンデッドを葬り去るのに、さほど時間はかからなかった。


 敵がいなくなるのを確認するとフェリクスがレヴィンに近づいてきた。


「おいッ! 味方を巻き込むとはどういう了見だッ!」


「仕方なかったんですよ。あのままだとあなた達はアンデッドの渦に飲み込まれてましたよ?」


 言葉に詰まるフェリクス。

 流石にレヴィンが謝ると思っていたのだろう。


「まぁ助かったんだからいいじゃねぇか」


 オレールは特に気にしていないようだ。心が広い。


「でも何であんなに苦戦してたんですか?」


「ああ、歩いてたら横の壁が突然崩れてな……そこからアンデッドがわき出してきたんだ。距離が近すぎて魔法が撃てなかった」


 どうやら不意を突かれたようだ。


「何か見つかったかい?」


 ダライアスも近くにいた騎士らしき冒険者に尋ねている。

 確かオットマーとかいう名前だったはずだ。


「いや、何も見つかってねぇよ……しかし本当にアンデッドを呼ぶアイテムなんてあるのかね?」


 オットマーは懐疑的なようだ。

 チラリとレヴィンの方に視線を向ける。


「可能性を一つ一つ潰していく他ないじゃないですか」


 一方、レヴィンは全然気にせず答えている。


 その後、『悠久の友愛』と別れた、レヴィンとダライアスは再び、捜索を始めた。

 夕方、陽が傾きかける頃まで魔法探知ディテクトマジックによる捜索は続いた。

 そして、陽が沈む頃、冒険者ギルドへと帰還したのであった。


 全員の帰還を待って、結果の報告とまとめが行われる。

 結果を言えば、それらしいアイテムや反応は見られなかった。


 レヴィンは、疑問に思った事をアンデッドの専門家のコランタンに確認した。


「アンデッドって日光に弱いとか弱点はないんですか?」


「日光に弱いアンデッドもいるが、今回は時間に関係なく出没しておるからの……弱くはないのじゃろう。弱点についてじゃがやはり火かの。後は魔霊界アストラルサイドからの精神系の攻撃が有効だと思う」


 結局、その日も何の成果も出ずに終わり、夜間の行動は危険なので休息にあてられた。


 魔法探知ディテクトマジックによる捜索はその後も続いたが、一向に何の成果も得られなかった。


「やはり、アンデッドを呼び出すアイテムなどなかったのだッ!」


 朝の会議でエミールが声高にそう叫んだ。

 正直、調べ足りないと思うのだが、成果が出ていないだけにレヴィンとしても強く出る事ができない。


 しかし、死霊術士ネクロマンサーが絡んでいると確信しているレヴィンは次の提案をした。


「アンデッドを呼ぶアイテムはありませんでしたが、そう言う能力を持った職業クラスがあるかも知れません。全員の鑑定による確認を提案します」


「つまり、未知の職業クラスがあると?」


 デボラがレヴィンに質問する。


「はい。魔物使いがいるのです。アンデッド使いがいてもおかしくはありません」


「しかし、鑑定士は城塞内にしかいない。分断されている現在、連れてくるのは難しいのではないか?」


 すると、オットマーが名乗り出た。


「俺は鑑定士だ。全員の鑑定は俺が行おう」


(おお、レア職業クラスが見つかったぞ。うらやま。でもあいつ騎士ナイトじゃなかったのか……)


「では、記録していこうか。紙とペンの用意を……」


 エミールの言葉を遮ったのは、オットマーと同じパーティのフェリクスだった。


「鑑定内容は極秘にすべきだ。公表されるのを嫌がる者も多いだろう。見た事のないような職業クラスを見つけた場合のみ告発すればよいだろうよ」

 

(確かに公表されたくはないな。あ、でも俺は偽装されてるからいいか)


「しかし、見た事のないような職業クラスとは、曖昧すぎないか?」


 エミールは心配なようだ。

 漏れが出るのを不安視しているのだろう。


「俺は何人もの職業クラスを見てきた。変な職業クラスがあればすぐ解るさ」


 オットマーは胸を張ってそう言った。


「ならば、早速鑑定してもらおうか。まずはこの会議室内の者からな」


 デボラの指示に従うオットマー。

 鑑定される者は順々に彼の前に並んでいく。

 彼は、能力を発動すると鑑定を受ける者が黄金色の光に包まれる。

 彼は、じっと対象者を凝視すると虚空を見つめて次々と判定していく。


(なるほど、ああやって鑑定するんだったか。黄金色に光るエフェクトが入るんだっけ)


 レヴィンも鑑定してもらった。特に何も言われなかった。

 でも人の能力とかが見れるっていいな、とレヴィンは心の中で羨ましいと思った。


「では、その他のメンバーはどうするかだね」


「そうだな。少しでもアンデッドの数を減らした方がいいんじゃないか?」


 アウステリア王国の冒険者、『虎狼の慟哭』のアシュリーがアンデッド討伐を提案する。


「それも大事なんだが、食糧の残りはどれくらいなんだ? 民家に隠れている民だって餓えている頃だろう。食糧の確保も重要ではないかな?」

 

 同じく、アウステリア王国の冒険者である、ブレットは食糧が心配なようだ。


「食糧については問題ないと思う。王都や南のモンテールに使者は出してある。後は、町中にいるアンデッドを突破しできるかどうかだな」


 デボラはアンデッドの包囲網を突破できるかの方が心配なようである。

 確かに、強いアンデッドも確認したし、今後も出てくる事を考えると突破できるか不安ではある。

 しかし、この死霊術士ネクロマンサーの目的は何なのだろうとレヴィンは思う。

 街一つを死霊都市に変える目的、メリットは何だ?


(インペリア王国の弱体化か……それを望むのは?)


「では残りの者は、アンデッドの討伐と、孤立している民の救出を任務としようか」


 デボラの言葉にレヴィンは思考の中から呼び戻される。


「応ッ!」


 狭い会議室に雄々しい声が木霊した。

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