第27話 対策


 エドワード達が王都に辿り着いたのは二十時頃であった。

 早速、学校へ向かう。


(まずは、校長に報告だな。いや、先に伝えてくれと言ってあるから今頃は冒険者ギルドか?)


 彼は学校に到着すると、校長室へと足を向ける。

 しかし、予想した通り校長は不在であった。

 すぐに職員室へ行くと、話を聞いたのであろう残っていた教師達がエドワード達に詰め寄る。


「先生! いったいどうなっているのですか?」


「今は詳しく説明している暇はありません。少し待って頂けますか? 校長はどちらへ?」


「校長は、先に戻ってきたコンラッド先生と一緒に冒険者ギルドに向われました」


「ありがとうございます。私もすぐギルドへ向かいたいと思います」


 そう言うと彼はネッツと連れ立って学校を慌ただしく後にした。


 その頃、冒険者ギルドの会議室には何人もの人が集まっていた。


 魔法中学の校長であるジェイソンの貧乏ゆすりが最高潮に達しようとしていた。

 そんな彼を見かねたランゴバルトがジェイソンに物申す。

 ランゴバルトは王都の冒険者ギルドマスターである。

 

「ノルドント卿、少し落ち着いてください。捜索は明朝に出します。今できる事は捜索隊を組織する事と、関係者へ報告するくらいしかありません」


「しかしだねぇ。遭難なんて事態は初めてなんだよキミぃ! まったく引率の教師は何をしていたんだッ!」


「ですから引率しておられたネッツ先生の行方も不明なんです」


 コンラッドが再度、校長に説明する。もう何度目だろうか?

 ちなみにノルドント卿というのは校長の家名だ。フルネームはジェイソン・フォン・ノルドント男爵である。


「今は王都にいて明朝から動ける冒険者を探して極秘で依頼を出している状況です。行方不明の生徒の親御さん達には学校から使者を送ったのでしょう?」


 待つしかできないこの状況がもどかしいのだろう。ランゴバルトもジェイソンの気持ちは解らんでもない。


「遭難したのは有力貴族のご子息なんだぞ!」


 ジェイソンは既に遭難だと決めてかかっていた。

 使いにやった者達は未だ戻ってこない。

 この会議室の緊張は最高潮に達しようとしていた。


 その時、会議室の扉が開く。

 室内に居た者達の視線が集中した。

 入ってきたのはエドワードとネッツであった。

 

「ネッツ先生!? ご無事でしたか!?」


 コンラッドが驚きと安堵の混じった声を上げる。

 ネッツはそれを手を上げて制すと、エドワードが校長に報告を始めた。


「校長! 行方不明の生徒達ですが、遭難ではなく誘拐された可能性が出てきました。」

 

「なにぃ!? ゆ、誘拐だと!? それは確かなのか?」


「はい。行方不明の班員はこのネッツ先生が引率していたのですが、魔物に襲われて分断された後、付与魔法の眠神降臨ヒュプノスをかけられたとの事です」


「ん? それでは魔物による誘拐ではなく、人間による誘拐なのか? 眠神降臨ヒュプノスを使ったとなるとそこそこの教育を受けている者だな」


 ランゴバルトが疑問を挟む。


「魔物の可能性も捨てきれません。しかし、人間であった場合、どこかの町へ連れ去られた可能性も考えて検問を実施する必要があると思われます。なので森の捜索と並行して検問を行うために早馬を近隣都市へ派遣するべきと考えます」


 魔物の中には人間が使用する魔法と同じものを扱う事のできる種族も存在する。

 エドワード自身は首謀者が人間であると考えていたが、魔物の線も捨てきれないため、捜索と検問を同時に行うべきだと言ったのである。


「校長、すぐに手配しましょう。近隣都市への書簡の準備を!」


「わ、解った。メルディナ、カルマ、フェルムの都市宛の書簡を作成しよう」


「念のため、北西のラピスにも送ってはいかがですか?」


 「うむ。そうしよう」


 校長は書簡を書き上げると、それを持たせて近隣都市に早馬を走らせた。


 長い夜はまだ始まったばかりだ。

 冒険者ギルドの会議室に正式に対策本部が設置された。

 学校は教頭に任せ、校長は対策本部に詰めている事になった。ちなみにSクラスの担任であるエドワードも一緒だ。

 

 対策本部には冒険者ギルドからの使者が渡りがついた冒険者を連れて続々と戻ってきていた。エドワードがギルドに来た冒険者に事件の説明を行っていく。


「……という訳で、あなた方には精霊の森の東側を中心とした範囲で捜索を依頼したい。行方不明の生徒は六名で名前と職業クラスは、戦士ファイターケミス、騎士ナイトノエル、盗賊シーフノッシュ、黒魔導士レヴィン、賢者ベネディクト、付与術士ノイマン、全員男です」


「『森の探索者』のリーダーのブレッドです。精霊の森の捜索承りました。明朝六時に出発します」


「『砂漠の嵐』のリーダーのヨシュアです。明日の朝の日の出とともに出発します。極秘任務とのこと、了解しました」


 事件の概要と方針を聞いた冒険者達は宿に戻って行く。明日は早いのだ。


「これを機に精霊の森の危険な魔物たちを一掃して安全な森にできたらいいですね。特に小鬼ゴブリン豚人オークは人間の敵です。狩れる時に狩っておきたいですね」


 コンラッドが平然と理想を述べる。

 簡単に言ってくれるぜとランゴバルトは心の中で一人ごちた。

 エドワードも思うところがあったのか少し顔をしかめた。


 その時、ギルド職員が身なりの立派な男性を連れて入ってきた。


「ゼルト子爵が参られました」


 その言葉が終わるや否やゼルト卿が怒鳴り散らした。


「息子は……ノエルは無事なんだろうなッ! 責任問題だぞ貴様ッ!」


 そう言うとジェイソンの横に座っていた騎士中学校の校長である、ギルティに詰め寄る。


「はッ……この度は申し訳なく……」


「すまんで済んだら騎士はいらんッ!」


 その後もゼルト卿の口撃こうげきは続いた。

 ギルティは絶えず恐縮しきりであった。


 そこに今度は、グレンと、リリナがやってきた。後ろには心配して着いてきたのかベネッタとアリシアの姿もある。

 グレンは少し怒ったような表情をして校長に詰め寄った。


「レヴィンの父です。レヴィンは……。いや、どういう訳でこのような事になったのか経緯をお聞きしたい」


 グレンは冷静であろうとしていた。

 校長が彼に説明していると、そこへエドワードが近づいて来る。

 説明が終わるとエドワードがすかさず謝罪の言葉を口にする。


「今回の課外授業の引率責任者をしておりました、エドワードと申します。この度はこのような事態となってしまい、大変申し訳なく存じます」


 頭を下げるエドワードに、グレンは頭を上げるように促す。


「あなたが謝ってもどうにもなりません。とにかく、何らかの情報が入ったらすぐに教えてください」


 グレンは責任の追及などを行っても現状では何にもならないと感じているのだろう。ゼルト子爵のように怒鳴り散らすような事はしない。

 グレンは椅子を用意してもらうと部屋の隅に移動して椅子に座った。

 そしてリリナとベネッタ、アリシアに家に帰るように告げると、腕を組んで瞑想するかのように目を閉じた。


 その後、平民であったケミスの親がやってきてグレンのように事件の経緯の説明を受けた。顔面が蒼白になっている。


 その間にも渡りがついた冒険者達がやってきて明朝からの捜索を承諾しては帰っていくという光景が見られた。


 夜の二十四時を過ぎた頃、ノッシュの親である、ビターマイン子爵が乗り込んできた。


「現在の状況を教えてください」


 開口一番にそう言うと、騎士中学の校長が彼に説明を始める。

 彼もまたゼルト卿のように怒鳴り散らす事はしない。

 ノッシュはビターマイン家の三男であるため、まだ冷静でいられるのかも知れない。一通り情報収集を終えるとビターマイン子爵は王都の邸宅へと帰っていった。


 対策本部は何人か交代で人が常駐する事となった。

 隣りの会議室を仮眠室にしてもらい、早速数人が移動して行った。


 そして夜は更けてゆく……。

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