第26話 課外授業


 今日は初めての課外授業の日である。

 精霊の森に行って、対魔物戦の手ほどきを受けるのだ。

 ちなみにこれは騎士中学との合同授業でもある。

 魔法中学のまだまだひ弱な生徒達が、後衛だけで魔物と戦うのは危険である。

 なので前衛を任せられる騎士達と班を組み、授業に臨むのであった。


 この課外授業のために班を組む事になったのだが、レヴィンはあまり納得いっていなかった。あのベネディクトと同じ班になってしまったのであった。

 これは教師側の事情もあった。

 レベルの高いレヴィンにベネディクトのお守をさせようという魂胆なのだ。

 別にベネディクトの性格が悪い訳ではない。

 むしろ彼は良い奴であった。

 しかし、いくら身分の区別なくと言っても高い身分の者の近くにいては面倒事に巻き込まれかねない。レヴィンはそれが嫌だったのである。


 班の編成は戦士ファイターケミス、騎士ナイトノエル、盗賊シーフノッシュ、黒魔導士レヴィン、賢者ベネディクト、付与術士ノイマンの六人である。

 全部で十班が同時に精霊の森に入った。

 最初は森の浅い部分での狩りである。

 即席の班であるから連携はまだまだ拙いものがあったが、スライム、エアフライ、エアウルフ、フォレストウルフなどランクの低い魔物との戦闘であったので何とか敵を仕留めていた。彼等は順調に対魔物の戦闘経験を積んでいったのである。


「もう少し奥へ行くぞ」


 引率の先生がそう宣言した。

 班員達も手ごたえがない低ランクの魔物の相手ばかりだったので乗り気だ。


(おいおい。森が初めての低レベル達にはまだ早いんじゃないか?)


 レヴィンはそう思ったが、教師の言う事なんだからと異議を唱えるのは止めておいた。それにいざとなったら教師がいるのだからと楽観的に考えていた。


 しばらく歩を進めると、手前で何かが動いたような気がした。

 先頭を行く騎士ナイトのノエルもそれに気づいたのか、ひと声叫んで走りだした。


「何かいたぞッ! 皆、追うぞッ!」


 後衛は反応が遅れたため、前衛と後衛の間隔があく。

 そこに割り込んできたのはおよそ十匹ほどの豚人オーク達であった。


(ちッ! マズい)


凍結球弾フリーズショット


 ドライアイスの白い煙のようなものを発した光弾が豚人オークの中央へと突き刺さる。

 すると直撃した辺りにいた、四体が氷漬けになって身動きが取れなくなる。

 その場に居たベネディクトとノイマンは最初は意表を突かれて固まっていたが、我に返るとそれぞれ魔法を放って攻撃する。


水刃ウォーターエッジ


(浅い!)


魔霊衝撃マインドショック


(弱い!)


 いずれも致命傷になり得ない攻撃にレヴィンは豚人オーク二体が一直線上に並ぶ位置に移動して魔法を放つ。


空破斬エアロカッター


 その圧縮した空気の刃は豚人二体の首を両断する。

 後ろにいる教師は自分達で対応させようとしているのかまだ、様子を見守っている。ベネディクトが再び魔法を放つ。


電撃ライトニング


 一体がその身を焼き焦がされる。 

 残り二体がこちらに突っ込んでくる。

 間合いが近い。ノイマンは迫りくる恐怖に身動きが取れないでいる。

 ブロードソードがノイマンの頭上に振り下ろされようとしたその時、レヴィンがダガーを持って豚人の横っ腹に突き刺す。

 そして、そのまましばらく押し込むと刃を抜いて豚人を蹴り飛ばす。

 そこにトドメの魔法が敵を打ち、豚人の首が飛ぶ。

 もう一体は教師の一撃によって屍と化していた。

 

「ノエル達を追うぞッ!」


 教師はそう言うと、三人と一緒に森を駆ける。

 しばらく進むと、そこには魔物を見失ったのかキョロキョロと辺りを見回す三人の姿が見て取れた。


「どうしたッ!? 大丈夫かッ!?」


 近づこうとした教師とベネディクトに続こうとレヴィンが駆け寄ったその時、声が響いた。


眠神降臨ヒュプノス


 そしてレヴィンの意識が暗転した。



◆◆◆



 集合時間はとうに過ぎていた。

 

「それで? 見つかったか?」


「いえ、一班のみ未だ行方不明です」


「一班の引率教師はどうした?」


「ネッツ先生も行方が解りません……」


 もう日も大分傾いてきたというのに、一体何が起こったのか未だ把握できていない。もしかしたら魔物にさらわれたという可能性もある。

 しかし、引率教師が魔物相手に不覚を取るとは思えない。

 

(とりあえず生徒はもう帰さないとな)


 エドワードはそう考えて、教師の一人に残りの九班を引率してもらい帰宅させる事にした。それと同時に捜索隊の結成依頼をする事も忘れない。


「校長に事情を説明して、衛兵だけでなく、冒険者ギルドにも一応、捜索隊の依頼を出してくれますか? あと生徒には箝口令を敷いてください」


「承知しました」


 教師の一人がそう言うと、生徒達を引き連れて王都へと戻って行った。


 それから一時間ほど経って、一人の教師がエドワードの下に駆けつけた。


「ネッツ先生が見つかりましたッ!」


「すぐに連れてきてくれッ!」


 男がすぐに一人の若い男を連れてくる。

 エドワードはネッツを見るや否や声をかける。


「ネッツ先生! 一体何があったのですか?」


「申し訳ない……いきなり眠りの魔法を受けてしまったようです。抵抗レジストできませんでした」


「となると、相手は人間だったという事ですね? だとすると誘拐か……」


他に何か気づいた事はありませんか?」


 ネッツは少し考え込むように口元に手をやると思いだしたかのように言った。


「魔物に襲われた直後に魔法を受けました。もしかしたら魔物使いがいるのかも知れません」


「襲われたのはどの辺りでしたか? 確か森の東側から西に向かって一班から十班まで配置したと思いますが……」


「東側から少し奥に入った辺りですね。」


(一班の位置は森の最東端だし、東の街道から荷馬車でどこかへ連れ去られた可能性があるな)


 エドワードは側に居た男に捜索を打ち切る旨を説明し、捜索に狩り出されている教師に戻るように伝えてくれと声をかけた。


「もう暗くなってきた。夜の森は危険です。捜索は打ち切って一旦王都へ戻りましょう」

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