第56話
田嶋がそのように考えていると、すぐに山中部長が話を始めた。
「お疲れさんです」山中は人事部長ではあるが、いわゆる官僚的な人物ではない。国内の法人営業畑で、幅広い人脈とシンパを持つ。身体は大きく、首は無い。いわゆるアメフト体型だ。自身は大学4年間でアメフトしかやっていないと豪語している。目は一重で細く強面だが、笑うと八重歯が出て愛嬌があった。人事部の女性陣からは「カワイイ」と言われており、本人もそれに気付いている。影のあだ名は「やまぽん」だ。
山中が話を続ける。
「期初のお忙しい中、皆さんにこのように集まってもらったのは、当行の今後を左右する人事施策をこれから実行していくことを伝えたいからだ。しっかりと人事部一丸となって、スクラムを組んで実行してもらいたい」
田嶋はスクラムはラグビーじゃないかと場違いな感想を持った。もちろん顔にそんなことは出さない。田嶋は前から4列目の席であり、端の方だったので山中からは見えないだろうが。
「皆は当行の置かれている環境を良く分かっているだろう。分かっていないヤツは人事部にいる資格はない」かなり語気が強めだ。副部長の伊東がちらっと山中の顔を見た。
「マイナス金利政策が導入され、当行のみならず銀行はどこも収益を上げるのに苦戦している。当初は一過性と言われたマイナス金利政策が撤回される展望は見通せない。銀行への逆風は強まることはあっても弱まることはないだろう。そして、過ぎ去ったとはいえ新型コロナウィルス感染症の拡大は、我々にもリアル店舗、対面営業の弱点をも突き付けた。そのような中で当行の個人顧客部門、すなわちリテール部門は大きな赤字を出している。持株会社を含めた帝國銀行のグループ連結ベースで、リテール部門は約3,000億円の利益を出しているが、銀行単体では約300億円の赤字だ。儲かっているのは、グループのカード会社や消費者金融だ。銀行本体は、400店も店舗があるのに赤字だ。そして、直近の決算でもリテール部門の利益は1割減少した。もう限界だ。我々は銀行の収益構造を変えなければ生き残れない」
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