416
「いいから、お前は違う術を使え! ツァドは女帝様に禁止されてるんだろ!」
「あ、そういえば、そうでしたね」
と、俺の呼びかけにはっとする呪術バカだった。
「いやあ、僕としたことがうっかりしていました。このままここで禁止されているツァドを使ってしまったら、また陛下に怒られて討伐対象になって、学院もクビになってしまうところでした。そうなったらもうお給料はもらえなくなって、呪術の本を買うことができなくなってしまいますよね。そんな辛いことってないですよねー」
「そ、そうだな」
相変わらず頭のおかしい男だ。やべえ術を使うのを思いとどまるポイントがズレまくってやがる。
「とにかく、今はベルガドにダメージを与えない術を使え! 例の足元から暗黒レーザーぶっぱなす術とかさあ!」
「ああ、そうですね。せっかくラファディさんが、あんな、なんだかよくわからない液体になっているのです。僕の呪術がどこまで通用するのか、威力の弱い術から試していく価値はありそうですね」
と、また何やら頭のおかしい理論を展開する男だった。まあ、このさい細かいことはいいか。
「というわけで、行きますよ! 始原の混沌の、さらに奥深くに潜む悠久の観測者よ! その深淵から、すべての魔力を解き放ち、かの敵を穿て!
と、聞き覚えのある詠唱とともに、例の呪術、
だが、そう思ったのもつかの間だった。直後、
「
という声が液体魔剣のほうから聞こえてきたかと思うと、
「のわあっ!」
しゅびびびっ。突然、真下からの暗黒レーザーを浴びて悶絶する男……でもないようで、
「わあ、僕の呪術が跳ね返ってきましたよ。びっくりしたなあ」
次の瞬間にはけろっとした顔で立っている男だった。こいつ、もしや暗黒属性攻撃はほぼノーダメか。
「しかし、まさかお前の呪術を跳ね返してくるとはな。あの液体、なんでもありかよ」
「いや、きっと、なんでもありってわけじゃないですよ。今の、あらゆる呪術を跳ね返す
「? つまり、ラファディはあのジジイの知識を使ってるのか? なんかさっき、ジジイとかを吸収してたみたいだしな」
「でしょうね! ロス・メロウ先生のお姿は消えても、その知識は、あのなんだかよくわからない液体に宿ってるんですね! 素晴らしいことですね!」
「いや、素晴らしくねえだろ!」
ようするに、あいつには呪術の攻撃も効かないってことじゃんよ!
「おい、その
「確か、二つほど、その術で跳ね返された記録が存在しない呪術があるはずです。それならあるいは……」
「二つ? どんな術だ?」
「一つはツァド――」
「ちょ、それはダメだから! 記録がなくても、それは絶対使っちゃだめええ!」
「じゃあ、もう一つの術、レティスを使うしかないですね――」
「それもダメに決まってんだろ!」
よりによって、その二つの術しかねえのかよ! あのおかんエクゾディアの超猛毒がうっかりベルガドに効いたら、どのみちすべてが終わるじゃねえかよ!
「じゃあ、いったい僕はどうすれば……って、そうだ!」
と、リュクサンドールは何やら閃いたようだった。
「そういえば、僕も
「どうって……またこっちに術が跳ね返ってくるんじゃないか?」
「だったら、さらに僕の
「いや、それ無限ループ――」
「やりましょう! ぜひやってみましょう! 新たな発見のためには、何事も実践あるのみです!」
と、もはや術の実験としか考えてなさそうな男だった。直後、再び
もちろん、それはやはり
「
やつも瞬時にそれを跳ね返した。
そして、予想通り、
「
「
「
「
「
ってな感じに、暗黒レーザーの押し付け合いが始まった。なんだこれ。テニスのラリーかよ。
「あ、でも、この状況なら、ラファディの足止めにはなってるか……?」
と、俺は一瞬、この狂った状況をプラスに考えたが、その直後、今度は、
ドォーンッ!
という轟音とともに、リュクサンドールとラファディのちょうど中間の場所で大きな爆発が起こった。うわっ! なんだこれ!
「いだだだだだ!」
再び、ベルガドの悲鳴がこだました。
「ああ、どうやら、術を跳ね返し続けた結果、お互いの術の処理がオーバーフローしちゃったみたいですねー。それでこんな」
「……じゃ、ねえっ!」
俺は再び呪術オタの体をゴミ魔剣で切り刻まざるを得なかった。またこの危機的状況で何やらかしてくれるんだよ! 亀が死んだらすべて終わりだってのにさあ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます