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「クソッ! 一回防いだぐらいでいい気になるなよ!」
俺はさらに液体魔剣と化しているラファディに向かって物理障壁を放った。しかし、それらはいずれも液体魔剣の刃に破られるだけだった。一回だけのまぐれじゃなかったらしい。しかもその反応速度ときたらめっちゃ早い。さっき使ってた俺の死体とほぼ同じ速さで動けるみたいだ。ぐぬぬ……。しょせんは水のくせに。
「だったら、これでどうだっ!」
俺はそこで盾から物理障壁を放ちつつ、さらにゴミ魔剣でその液体魔剣に斬りこんでみた。どりゃあっ!
しかし、結果はさきほどの大蛇たちへの攻撃と変わらず、ゴミ魔剣の刃は液体魔剣をすり抜けるだけだった。ついでに物理障壁も割られた。クソッ、やっぱ無理か。
しかも、その液体魔剣野郎は、俺の攻撃を無効化しながらこう言いやがったのだ。
「せっかくこのような姿になったのです。ここは、今の私にとって最も忌々しい存在をほふることにしましょう!」
その言葉の意味はすぐわかった。液体魔剣のやつ、いきなり自分のすぐ下に向かって刀身を振り下ろし始めたのだ。そう、俺たちの足元にあるベルガドの甲羅に向かって……。
直後、
「いだだだだだっ!」
ベルガドの悲鳴が聞こえてきた。なんとラファディのやつ、俺はガン無視して、ベルガドを攻撃し始めてやがる!
「おい、バカやめろ!」
俺はあわてて液体魔剣野郎に呼び掛けたが、
「黙れ! この忌々しい巨大亀は、この私を、よりによって百年以上もこの場から動けなくしていたのだぞ! まさに万死に値する行為ではないか!」
と、何やらめちゃくちゃ激怒していて、攻撃をやめる気配は全くない。
「そうか、お前、ここにブチこまれてから最初の百年は普通に封印されてたんだな……」
そりゃさすがにキレるのもわからんでもない……って、納得している場合じゃない! ベルガドってばただでさえ寿命間近で弱っているのに、こんなやつに攻撃されたらマジで死んじまう! そうなったら、俺の今までの苦労はパーだし、ヘタすりゃこの亀島も沈んでこの島の住人たちも道連れだ! つまり大量に死人が出るってことだ! マジやべえ!
「おいバカやめろ! やめろったらやめろ!」
再び呼び掛けてみたが、返事はない……。
「亀なんかより、まず先に俺を倒そうよ! 俺が喧嘩売ってきたんだからさあ!」
と、今度は言い方を変えてみたが、やはり反応はない。ラファディのやつ、俺は完全にいないもの扱いで、一心不乱に亀を攻撃してやがる。まずい。このままだと非常にまずい! 力づくで止めたいところだが、こっちの攻撃は一切当たらないし!
と、そのとき、
『キイイイイイッ! またなんつうことしやがってるんですか、このドチクショウめええ!』
頭の中でゴミ魔剣の叫びが聞こえた。なんか知らんが、こいつもキレてるようだ。
「いきなり叫ぶな。お前に言われなくても非常事態なのはわかって――」
『黙らっシャイ! あの錬金粘菌野郎は、よりによって最高のごちそうのクソデカ亀を、ただ無駄にブチ殺そうとしてるだけなんデスヨ! そんなもったいないコト、許されるわけないじゃないデスカ!』
「も、もったいない?」
『かくなるうえは、このワタシがやつより先にクソデカ亀を食うしか――』
「おいバカやめろ! やめろ!」
俺はあわてて亀の甲羅に向かって伸び始めるゴミ魔剣を振り上げた。こいつにベルガドが食われたら、どっちにしろ終わりじゃねえか!
『なぜ止めるマスタァ! あの錬金粘菌野郎に先を越されてもいいのかァ!』
「止めるに決まってんだろ!」
やだもうこの状況。俺の周りにいるヤツら、なんでそろって、破滅に向かって全力投球なの!
と、そのとき、
「……エメラダちゃん。オレのエメラダちゃんがあ……うう」
と、何やら近くで声が聞こえた。見ると、ヒューヴが涙目でうらめしそうに液体魔剣野郎をにらんでいた。
「あ、あの変な水のせいでエメラダちゃんは死んだんだ。そうに決まっている!」
「え?」
いやそれだいぶ違うし。もともと死体で死んでたでしょ、あの子。
だが、極まったバカのヒューヴは完全に思い違いをしているようで、
「エ、エメラダちゃんを返せえ!」
そう叫ぶやいなや、その場で舞い上がり、空中から液体魔剣野郎に向かってブラストボウをぶっ放した。
そして、その強烈な射撃攻撃は液体魔剣野郎を粉々に吹っ飛ばし――は、しなかった。現実は非情である。そう、しょせんは俺の斬撃と同じ物理攻撃なので、液体魔剣野郎のボディをすり抜けただけだった。
そして、当然、その超高威力の矢は、物理障壁をも貫通してベルガドの甲羅にぶっささり、
「いだだだだだ!」
なんということでしょう! ただでさえピンチのベルガドのライフをさらに削ってしまいましたよ!
「くそう。外したか! ならもう一発――」
「もう一発、じゃねえっ!」
俺はすかさずそのバカに盾を向け、物理障壁で暗がりの奥に吹っ飛ばした。この危機状況で何やらかしてるの、あのバカ!
と、そのとき、
「うう……ロス・メロウ先生が……ロス・メロウ先生が……」
また近くで声がした。見ると、リュクサンドールが涙目でうらめしそうに液体魔剣野郎をにらんでいた。
「先生とはもっと話したいことがたくさんあったのに! 先生とのかけがえのない時間を僕から奪うとは、ラファディさんは鬼か何かですか!」
「いや、そんな大事な時間でもないだろ……」
どうせクソの極みの術である呪術の話しかしてなかったでしょ、あんたら。
まあしかし、これはこれでいいか。こいつは俺たちと違って魔法で攻撃できるからな。あの液体に怒りを燃やして、呪術で攻撃してくれればもっけの幸いだ。
と、思ったわけだったが、、
「これはもう、最強の呪術ですべてを終わらせるしかなさそうですね! 黎明に銀のミミズクが笑うとき、虚空――」
「って、おいバカやめろ! その術だけはだめええ!」
あわててゴミ魔剣でその体をぶった切って、詠唱を止めた。よりによって、ツァドかよ! そんなの使われたら、ここにいる連中もベルガドも全部お陀仏なんだが!
「なぜ止めるのですか、トモキ君!」
「止める理由しかないだろうがよ!」
もうやだこの状況! みんなしてベルガドを殺しにかかってるじゃないの! ベルガドが死んだら全部終わりだってのにさあ!
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