第11話 クロとラミア

 過去の話を終えると、クロは謝罪する。



「ごめんニャ! 自分の話ばかりしちゃって……」


「べ、別にいいんだよ! いや、私も聞き入っちゃって。聞いてた話と少し違うから」


「聞いてた話……?」


「こ、こっちの話! だけどそうなんだ……。あのラミアって子は君の友達でもあって、姉さんみたいなものなんだ……。すごくいい話だったよ。後ろの人も感動してる」


「後ろの人……?」



 クロが振り返った先には、今まで存在を忘れていた3人のエルフの護衛達が泣いていた。



「まさか、クロ様にそんな過去があったなんて……知りませんでした」


「え、ええ。クロ様の置かれていた状況はさぞ過酷かこくだったことでしょう」


「ラミア様とクロ様のなれそめ、知っているつもりでしたが……」



 あらためてクロは自分の言ったことにずかしさを覚える。

 周囲の人達もクロ達に視線を向けている。



「ちょっと、話しすぎちゃったかもニャ……。周りの人たちに聞こえちゃったかもニャ」


「気にする必要はないよ。見てみ」



 マヤにうながされるまま、周囲を見渡すと、話を聞いていたのかもしれない人間までもがもらい泣きをしていた。



「不味いニャ……。ミャーがサザンの王女だってバレたんじゃ……」


「気づいてなかったの? クロ、ずっとその単語だけは避けて話してたよ。きっと貴族社会の話程度にしか受け取られてないよ」


「それでも結構不味いような……」



 クロ達はその場からすぐ離れるのだった。


 

         ※



「さっきの話の続き、聞きたいな!」


「そう言われても、ここまでしか話せないニャ。もう恥ずかしいし」


「そっか。そうだよね。あまり詮索せんさくすものじゃないね……。だけど、これだけは聞かせて。クロはサザンの王になりたいの?」


「……分からないニャ。クロエ姉様に言われたから、そう思っているのかもしれないニャ」


「きっと、クロエさんの言葉は正しいのかもね。クロほど王にふさわしい人はいないよ!」



 昨日会ったばかりの少女に言われ、クロは戸惑う。



「そう言われても……。ミャーは争いごとを直視できないニャ」


「それは誰よりも平穏な世界が好きな証拠だよ! クロが王になってくれて平和になったら、…………遊べるかもね」



 マヤの最期の言葉をクロは聞き取れなかった。



「そういえば、マヤは昔のミャーの友達に少し似ているニャ。無駄むだに明るいところとか」


「酷くないッ!? 『無駄』って何!? 『無駄』って!? 明るいのは良い事じゃん」


め言葉ニャ。最近、イベントが多すぎたから、良い息抜きになったニャ」



 マヤのムクれた顔にクロは面白そうに笑う。

 それにつられるようにマヤもまた笑うのだった。



         ※



 ギフテル帝国の裏路地で、フードをかぶったが夜空を見上げながら、



「まさか、アイツが立ち直っていたとはな」


「そうだね。は無駄だったかもね」


「姉さん……」



 少女のほうが少年に苦笑を浮かべる。



「私は絶対に殺さないから。そのためだったら激痛げきつうだってえるわ」


「俺も同じ気持ちだけど、もう限界も近いよ」



 少年は自身の両手を見つめる。

 カタカタとふるえている。

 少女は少年にくぎを打つように。



「あの子に真実と気持ちを伝えてから、死ぬつもりだから」



          ※



 1日中遊んで疲れたクロはマヤと別れて、城に戻った。



「ら、ラミア、どうしたのかニャ……?」



 クロの視界の先には壁にもたれかかったラミアがいた。

 王女とは思えないだらしない姿勢で、紅いひとみはうつろだった。

 ラミアは息を切らしながらクロに返答した。



「お、お帰り……荷物運ぶのに何度も城に戻ってきて……、ゼエ……はあ……ゼエ……」


「お、お疲れ様にゃ。……ククク。これが姉さん……ククク」



 笑いをこらえているクロに、肩で息をしているラミアは力なくにらみつける。

 


「なんで笑ってるのよ…………。クロが逃げた……から。こんなことに……」


「ごめんニャ。そうだ! お土産みやげ買ってきたニャ。はい、『チョコレート』って言うらしいニャ」



 ラミアはなんとか立ち上がり、クロから黒い板のような物、『チョコレート』を受け取る。



「なんか、これベタつくんですけど……」


「その包装紙ほうそうしは取っちゃダメニャ! そのベタつきを防ぐためにあるニャ!」


「先に言いなさいよ……。んん!? けど、美味しいわね!」



 疲れすぎてベタつきすら気にしていないのか、そのまま口に突っ込んだラミアはチョコレートをほおばった。



「なんか、のどがヒリヒリする……」


「一気に食べるからニャ。ハイ、水飲んで」



 渡された容器に入った水をゴクゴクと飲みながら。



「プハーッ。生き返るわ。ありがとう、クロ」


「ククク、『プハーッ』っておかしいニャ。これが姉さん……やっぱりないニャ」


「何の話よ?」



 ラミアに何度も問いつめられたが、クロは答えようとはしなかった。



         ※



 パーティーが始まるまでの3日間、クロは毎日マヤと会っては遊んだ。

 そして、3日後の夜、パーティーが開催かいさいされた。

 円形の広間に多くの人間が集まった。



「すごいニャ……。今までで一番人が多いニャ」


「そうね。広間から伸びるストリートにも出店がいっぱいね」


「この中から暗殺者を探すのは骨が折れそうニャ……」



 ラミアとクロはカイに指示された会場を一望できるとうに上っていた。

 カイがラミアにたずねる。



「ラミア、ここから敵を探してくれ。視力の強化魔法は使えるな?」


「弓をきたえる上で、欠かせない魔法よ。使えて当然じゃない。アナタ達もちゃんとしなさいよ!」


「その分なら大丈夫そうだな。エルフの方々もラミアの護衛ごえいを頼んだ」


「わかりました」



 クロとカイ、そしてエルフの数名は会場の中に2人1組でバラバラの位置で周囲を見張った。

 クロとカイがペアになり、円形の広間のふちに立ち周囲に注意をはらった。



「クロ、あまり深追いするなよ。あくまで容姿が分かれば俺達の任務は終わりだからな」


「分かったニャ……」



         ※



 円形の会場に沿うように立っている建物の屋上に立ち、パーティー会場を一望できる位置にフードをかぶった少年がいた。



「ここに標的がいる」



 彼は腰にたずさえた短剣を抜いた。

 その短剣で何人ものギフテルの重鎮を殺してきた。

 それもこれも、ある男の命令。

 必死に抵抗したが、あらがえなかった。



「まさか、彼女の存在がここまで自分をくるわせるなんて思わなかった」



 彼はそのまま魔法を詠唱し始めようとする。



暗殺者アサシンは闇に隠れ、その姿を見る者は……!?」



 詠唱えいしょうの途中で、足元に何かが飛んできた。

 少年はバックステップで距離を取る。

 飛んできた物は魔力で光っている矢だった。

 


「どこから……!?」



 周囲を見渡す暇もなく、次の攻撃が来たのだった。

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