第2話 天空の騎士
翌日、キリアにて。
多くの兵に出迎えられながら西の2大国、カルバとサザンの王女達がキリアの城に来訪した。
地面について汚れないように丈が少し短いドレスに身を包んだ二人の姿は多くの兵の目を釘付けにした。
「久しぶりだな、ラミア、クロ。城の裏に宿があるから、そこに向かってくれ」
カイは長話をしたい気持ちを
「分かったわ」
「了解ニャ」
短い挨拶だったが、彼女達の後ろから
ラミアとクロが馬車に乗り直し、指定された宿に向かう。
カルバとサザンの馬車が通過した後、次の馬車から降りてきた大男はカイを見下ろす。
「お久しぶりです、ゴルナーク
「昔と変わらず
「これでもかなり発展はしてきたつもりですが……」
「それでも
大男は
そんな大男の後ろから出てきた少女は、彼に対して。
「お父様、わざわざ
「ふん」
「申し訳ありません、カイ様。父は
少女はそう言ってゴルナークという大男の背中を押しながら馬車に乗り、指定された宿に向かうのだった。
「あの男、本当に気に食わねえ。昔のクソ王子の次に嫌いだ」
「よせ。聞かれたら外交問題に発展しかねないぞ」
「分かってるけどよぉ。良いのか、あんなに言わせたままで?」
「別にいいさ。全員から好意的に受け止められるなんて、まずありえない。だからこそ一層燃えるんだ」
「オマエも
「
※
城の大広間。
宿から会食の席に向かうにはこの広間を通る必要があった。
そこでカイはとある少女のことを待っていた。
「帰ってきたよッ! ただいまッ!」
そう言いながら栗色の髪をポニーテールにまとめた少女がカイに走り寄ってきた。
「ミーシャ、どうだった、カルバは? あちらに迷惑はかけなかったか?」
「もう皆して私のこと、見くびりすぎ。エドもあっちで同じこと言ってたよ」
ミーシャは活発で、エドでさえ手を焼いてしまう
「ん? その剣はなんだ?」
カイの視線はミーシャの背中に
剣の
「ま、まさか、カルバで作ってもらったなんて言わないよな。そんな高そうな剣を支払えるほどの余裕はないんだが……」
「これ? 実家に置いてあった剣だよ。もともとカルバがお父さんに与えた物なんだって。ラミアに許可もらって持ち帰ってきたんだ」
「マジか……。かなり
カイは国宝ともいえるほどの武器をお
そのことを知らないミーシャはカイの影に身をひそめながら、
「どうしてあの人達がいるの? 私もラミアも聞いてないんだけど」
ミーシャの栗色の
会食の席に移動途中だったゴルナークもミーシャとカイを見たが、ミーシャの剣に気付くと、
「……なぜその剣を持っている?」
短い質問に込められた
「お、お父さんの剣を私がもらった……」
「……そうか。お前が例のダグラスの
ミーシャの正体は今やカルバだけでなくギフテル全土にまで広まっていた。
そのことを隠していたカイにも非難の嵐が来たほどだった。
「え、ええと……」
それ以上は危険だと
「ゴルナーク卿、会食の席はあちらです。
「お父様、カイ様のおっしゃった通りここでは他の方の通行を
「ふん、行くぞ、ソニア」
ゴルナークの娘・ソニアのおかげで
「お前は城の外にいたほうが良い」
「うん。そうする」
いつもならラミアやクロと食事をしたがるミーシャだったが、今回ばかりは
それ以上何も言わずにその場から離れるのだった。
※
カイは会食の席に向かった。そこには
先に来ていたカルバの王女・ラミア、サザンの王女・クロ、ヘブンミリアの王・ゴルナークとその娘・ソニア。
円形のテーブルに着いたカイが座らずに
「今回はこちらの
「次はない。今日が終わったら、あとのやり取りは使者だけでも構わないだろ」
挨拶の途中でカイの言葉を
切りそろえられた髪に、
「お父様、少し表現がきついように思われます。時間がない中でここまでのおもてなしをして
ソニアの言葉には父親に負けないほどの
彼女は同席していたラミアとクロに一瞬だけ視線を向けると、すぐにカイに向かって頭を下げる。
「申し訳ありません。お父様は……その、あの件のことで……」
「大丈夫です。今回は自分の
その後、かなり重苦しい中で食事が進んでいく。
ゴルナークの威圧に怯えていたラミアとクロにカイは話をふりながら、
クロの話によると、サザンも復興が進んできて残された王族として彼女も外交から復興まで
ラミアもラミアでサザンにちょくちょく訪問しながらクロと
「そうか」
カイはそれを聞き安心して深く息を吐きだすのだった。
※
短いような長かったような会食が終わる。
緊張感
その部屋にも円卓があったが、何の
「マグナス、資料を頼む」
「分かりました」
カイの後から部屋に入ってきたマグナスは右手に持っていた資料を配る。
そんななかソニアはマグナスの左腕が失われていることを心配そうな目を向ける。
「大丈夫ですか、マグナス様? 聞いていたよりも
「平気です。こちら資料になります」
「ありがとうございます。何か困ったことがあれば、少ないと思いますが、何でも言ってください」
「はい、ありがとうございます、ソニア様。ゴルナーク卿、こちら資料になります」
「ああ」
短くそう告げると、ゴルナークはマグナスから
なぜかカイ以外にはそこまで強い
(ここでまた問題を起こされたら……)
カイの不安が
「今回の件ですが、ヘブンミリアからの依頼と言うことで間違いはありませんね?」
カイの質問に答えないゴルナークの代わりに、ソニアが答える。
「はい、今回、カイ様にお頼みしたかったことは、ここの資料に書かれているように、あの
今回の一件はヘブンミリアがキリアに持ち込んだ問題。カルバとサザンには知らされていなかったが、
カイはソニアに確認を求める。
「邪神竜『ディアボロ』……の復活をもくろむ連中がいるとのことですが、それは確認済みなのですか?」
「はい、
ヘブンミリアとカルバの国境付近には森が広がっており、森の中心には天に届きかねないほどの石碑が
普段は幻影魔法によってその姿を隠しているが、今回それが破壊されて山のような石碑が姿を現したようだ。
ソニアの話ではヘブンミリアからもその石碑が見えるらしい。
「この資料だと少数精鋭って書いてあるけどカルバも含まれてるのかしら?」
「いや、ミーシャを一時的に借りたいんだ」
「ミーシャが良いって言うなら私はかまわないわ」
するとゴルナークが静かに口を開いた。
「あのミーシャという者はダグラスの娘なのか?」
ラミアはその真意を探りながら
「ええ、そうよ」
「なら我らヘブンミリア家の養子として
その発言に部屋にいた全員が耳を
「何を言っているのか理解しているのかしら? さすがに勝手すぎるんじゃない?」
「そうだな。今の話は忘れてもらって構わん」
「ええ、そうするわ」
ラミアは、母犬が我が子を守るような
その険悪な雰囲気すら気付いていない少女が一人。
「サザンも参加したほうが良いの?」
クロは資料とにらめっこしながら、
最近、勉学に
「いや、そのつもりはない」
ラミアは資料を一通り読んで円卓の上に静かに置いた。
「カルバからもエレインを
エレイン、カイの妹であり故郷での一件で生き別れになっていた。
「いいのか? 今回はヘブンミリアとキリアだけで解決するつもりなんだが」
「私の独断では決められないけど、国境ともなると無視することはできないわ」
そんなこんなで話は進み、ゴルナークも余計な発言はせず無事に話は終わったのだった。
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