第16話 秘めた感謝
その夜、エルフのメイド達が家の中で調理を始めた。
カイは
すると家の
食事を持ってきてくれたラミアとエレインの2人だった。
「大丈夫ですか、兄さん?」
「アナタの分よ。わざわざ私が持ってきたのだから感謝しなさい」
エレインの優しい言葉に
カイは料理を受け取り、一瞬で
「ああ、ありがとう。こっちは大丈夫だ。長老達が俺を危険視しているだけだから」
エルフの村に来てからのカイに対するエルフ達の対応をエレインは近くで見ていた。
なんとなくカイの
「兄さん、よろしければ私と一緒に寝ませんか? 外では
「いや、自然に囲まれながら寝るのも悪くないから別に
カイは平静を取り
2人の会話を聞いていたラミアが苦笑しながら。
「エレイン、積極的ね……。いくらカイが好きでも超えちゃいけない一線があると思うのだけど」
「ち、違いますッ! そんなんじゃありません! ただ兄さんが心配で……」
「全部言う必要はないわ。分かっているから。アナタとは長い付き合いだから」
ラミアがエレインをからかう。
妹の
妹の新たな一面にカイは笑みをこぼす。
「兄さんも笑ってないで、何とか言ってください!」
「そうだな。エレインは昔から俺の後ろをついてきたり、
「な!? そんなわけないです! 私、一緒に寝たことなんてありませんから!」
エレインの言う通り一緒に寝たことはないが、カイは少しだけからかった。
しかし、それが間違いだった。
エレインがカイに
ラミアはバランスを
「キャッ、な、なんなの……ッ!?」
そのままハンモックに
カイが持っていた食器が地面に落ちる。
「クッ。大丈夫か、ラミア?」
「え、ええ。ありがとう。……!?」
ラミアはカイに抱き着き、
カイはハンモックに全体重をのっけ、その上からラミアが乗っかており、起き上がることができない。
ラミアもラミアで、
「ちょ、ちょっと、カイ!? 動かないでッ! 腕が取れないから」
「む、無理。思った以上に重くて苦しい……」
「は、はあ!? アナタ、失礼すぎよ。いいから動かないで!」
ラミアの怒りの声が森に
ラミアは恥ずかしさと怒りで顔を赤らめ、カイは苦しくて顔を青ざめる。
2人がくんずほぐれつを
すると、静寂な森から一本の矢がヒュッと風をきり飛んでくる。
ハンモックの端を射抜きゴムが切れる。
「グエェッ!? ぐるじいィィ……」
ラミアが乗ったまま地面に背中から落ちるカイ。
2人の全体重によって声を上げる。
「ゥゥゥゥゥゥ…………」
顔を赤らめ胸を両腕で押さえながらラミアはカイから
カイも
「な、なんだ、これ?」
ハンモックを打ち抜いた矢を拾い、その
そこには。
(『手を出すな』……か、何を言いたいのかよく分かる)
ラミアも涙目だったが、近づいて確認しようとする。
「『手を出すな』って何のこと?」
ラミアの
※
食器を片付けるということでエレインが先に戻った後、ラミアはその場に残っていた。
彼女が落ち着くと、カイに頭を下げる。
普段は
「突然どうした、ラミア!? お前が頭を下げるなんて……。熱はないか?」
「私だって頭ぐらい下げるわよ! 折角、したんだから感謝しなさいよ!」
「頭下げられて感謝って……」
ラミアの本質が変わったわけではないようだ。
ラミアは切実な声で、
「ま、まあ、あれよ! アナタのおかげで今まで知らなかったことを知ることができたわ」
「ラミアの母親がエルフって知ったときは驚いたな……」
「それ以上にアナタの祖父がお父様と知り合いだったことのほうが驚きよ」
そんなことを話しながら、自然と2人からは笑みがこぼれてしまう。
「でも
「何がよ?」
ラミアはカイの言葉に首をかしげる。
「ラミアは父親の血のほうが
「そうかしら? きっと辛いことのほうが多いんじゃないかしら」
「辛い事……」
「お母様が死んだって知ったとき、もう会えないことがこんなに辛い事なんて知らなかった。不老長寿だったら、きっと大切な人の死を永遠に忘れられないわ」
ラミアの言葉に
「すまない。軽々しく、言うことじゃなかった」
「別にいいわよ。不老長寿って
「そうか……。ちなみにその中に俺は含まれているのか?」
「ええ、もちろんよ。アナタとの出会いは特別だもの」
冗談まじりで言ったことだったが、ラミアは真っすぐカイを見つめ即答してきた。
カイは顔が熱くなるのを感じた。
ラミアも正直に言ったことだろうが、内容を振り返って耳まで真っ赤にする。
「そ、それだけよ!」
「ラミア!」
「な、何よ!?」
「ありがとう、それだけだ。おやすみ」
「ええ、おやすみ、カイ」
ラミアは振り向きながら優しく
月明かりが
※
数日後の昼、カイ達はカルバに戻ることになった。
ラミアフルの生き写しであるラミアが帰ることになり、エルフの多くは名残惜しそうに、ラミアとの握手を求めていた。
カイはその光景を見ながら、色々と準備を進めた。
荷物を運び入れ、振り返るとエルフの長老が立っていた。
「今回、エルフを代表して、ラミア様の護衛感謝するの―」
「いや、こちらこそ感謝してる。あの剣の秘密が少しだけ分かったからな」
「ガリッタの孫に1つ忠告しておく」
長老の話し方はまったりしていた物からしっかりとした物に変わる。両目を閉じながら何かを思い出しているようだ
「その剣について知れば知るほど、憎しみに飲まれやすくなる。
長老の言葉に覚えがあった。
『破滅剣ルーイナー』を握るたびに、憎悪の感情が流れこんできていたのだ。
「忠告感謝する」
カイの答えを聞いた長老は今度は両目を開け、キッとカイを
「昨夜はラミア様と重要な話をしておったから
その圧に押され、カイは息をのむ。
「はい……」
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