第90話
それは去年のこと――。
SHINYをデビューに導きながら、『僕』はまったく別のアイドルも継続してプロデュースしていた。それがグラビアモデルの桃香。
桃香とはそれより以前からの付き合いで、『僕』のプロデュース第一弾に当たる。
SHINYの寮生活が始まるまでは、一緒に暮らしていたほど。桃香もまたS女子高等学校の生徒で、当時の『僕』もまだ教師ではなく、生徒に近い立場だった。
朝は一緒に登校して、同じ教室で授業を受けて。おかげで魔法使いの『僕』も高校生並みの学力を身に着けている。
「Pさんの魔法があれば、いつでもプールで泳げちゃいますね」
「たくさん泳いで、体力もつけなくっちゃ」
放課後は水泳部でトレーニング。
桃香はおしとやかな性格とは裏腹に、ダイナマイト級のプロポーションを誇った。水泳部用のスクール水着には魔法も併用して、どうにか爆乳を押し込んでいる。
いずれ妹の美玖も同じことになるのかもしれない。
言うまでもなく、モデルの仕事はそのスタイルを活かしてのもの。
桃香は恥ずかしがりながらも、チアガールやレースクイーンに扮し、少年誌や青年誌のピンナップを彩った。もちろんビキニで表紙を飾ることも。
人気は徐々に拡大し、今や男性という男性が彼女の虜となった。
仕事ぶりは一生懸命で、スタッフからの信頼もあつい。『僕』が魔法でサポートしたとはいえ、CMの依頼もどんどん数が増えた。
ただし桃香のグラビア撮影には、ひとつ条件があった。
彼女が言い出したものでその内容は、必ず『僕』が撮影に同席すること。
「一番にお見せするのは、Pさんじゃないとイヤなんです」
男性に撮られるのは抵抗があるらしい。
だからといって、『僕』はアンチムラムラフィールドを乱用しなかった。アンチムラムラフィールドの影響下にあっては、カメラマンが調子を落とすためだ。
その頃の『僕』はまだカメラの勉強中で、代わりに撮ってあげることもできず、桃香は少なくともスタッフのムラムラに晒されている。
「いいんですよ、カメラさんもお仕事ですから。モモはPさんに……その、写真じゃない生で、見て欲しくって……それにモモだってプロですから、早く慣れなくっちゃ」
プロデューサーの『僕』になら、水着を見せても平気――そこで閃いた。
「じゃあもらった衣装でさ、ふたりでグラビア撮影の練習しようよ。撮るのが僕なら、桃香ちゃんも安心でしょ?」
「は、はい! モモ、頑張っちゃいますね!」
こうして『僕』たちはプライベートで撮影の練習を始めることに。
その日は水泳部の練習のあと、こっそりプールにて。
「まずは準備体操から行ってみようか。なるべく大きく動いてみてー」
「はい。こ……こうですか?」
カメラマンとしての『僕』の指示は無難なものから、
「飛び込み台に座ったら、脚を広げて?」
「ええっ? じ、じゃあ……少しだけ……」
「だめだめ。頑張って、百八十度!」
時には過激なものまで。
この特訓の甲斐あり、グラビアモデルの桃香はさらに輝くようになった。
正規のカメラマンたちも舌を巻く。
「モモPと特訓してるんだって? 確かにグッとよくなったよ」
「カメラに物怖じしなくなったというか……そんな雰囲気、ありますね」
モデルとしての実力に加え、確固たるプロ意識が備わり、桃香はマーベラスプロを代表する名タレントへ成長を遂げた。
そして現在に至る。
今の『僕』たちは一緒に住んでいないものの、彼女の部屋はSHINYの寮から目と鼻の先。同じS女の三年生なのだから、学校でも会える。
昼休みに三年一組の教室を訪れると、桃香のクラスメートが諸手で歓迎してくれた。
「あっ、P先生! 今日は桃香とランチ?」
「そうなんだ。お邪魔しまーす」
『僕』は手頃な椅子を借り、桃香の机で本日のお弁当を待つ。
「ごめんね、僕の分まで作ってもらっちゃって……」
「いいえ、そんな……モモ、Pさんとお揃いのお昼にするの、好きですから」
桃香は照れ笑いを浮かべると、可愛らしい手作りのお弁当を披露した。
ミートボールにタコさんウインナーなど、お子様ランチ風のメニューで、眺める分にも楽しい。ご飯にあらかじめ海苔が乗っているのが、『僕』のほう。
「この海苔がベチョーってなるのが、美味しいんだ~」
「お茶もありますよ。うふふ」
ほとんど同じお弁当を並べて、一緒にいただきます。
周りの女の子たちも興味津々に『僕』に声を掛けてきた。
「P先生ぇ、一年とばかりじゃなくて、三年とも遊んでよね? こっちは受験勉強で参ってるんだから、たまには息抜きくらい~」
「ちょっとぉ? 真子は水泳部でP先生と遊んでもらってるくせにー」
クラスメートの誰かが『僕』をフトモモに座らせてくれるのも、いつものこと。
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