第87話

 こうしてSHINYのライブコンサートは大成功に終わった。

 とはいえ今日は初日で、ステージは明日もある。間もなくスタッフは引き上げ、『僕』たちもあとは着替えるのみとなった。

 ところが、里緒奈たちが『少し残る』と言い出す。

「ダンスで確認しておきたいところがあるの。いいでしょ? Pクン」

「スタッフさんを付き合わせても悪いから、魔法でこっそりできないかしら」

 プロデューサーの『僕』は二つ返事で頷いた。

「わかったよ。じゃあ三十分だけ」

 得意の認識阻害で、『僕』たち以外は会場を『使用中』と認識できなくする。にもかかわらず、SHINYのメンバーはステージへ上がろうとしなかった。

「……あれ? どうしたの?」

 一番後ろの美玖がぱちんと指を弾く。

「あとはお好きにどうぞ」

 すると、今しがたの『僕』の魔法は美玖の魔力を供給源とするようになった。美玖には制限が設けられていないため、認識阻害は効果が強くなるうえ、持続力も高くなる。

 同時に『僕』の意志では解除できなくなるわけで。

 里緒奈たちはにっこりと微笑んだ。

「さあって……Pクン? お楽しみの時間なの」

「楽しみだわ、ナナル。いよいよPくんがデビューするんだもの」

「まさか、あの程度で許してもらえた……なぁんて、思ってませんよね?」

 ぬいぐるみの『僕』は心胆を寒からしめる。

「え、ええっと……ど、どーいうことかなあ……?」

「ミクは控え室にいるから、ごゆっくり」

 妹の美玖はすたすたと引きあげていった。追いかけようにも、SHINYのメンバーが黒い笑顔で立ちはだかる。

「もしかして……今から始まるのって、僕へのお仕置き……」

「よくわかってるじゃない。エロデューサークン」

「ナナルにあれだけのことをしておいて、浮気よ? うんと懲らしめてあげなくちゃ」

「残念ながら死刑にはできませんので。それに近い罰を考えたんです」

 そして里緒奈はブラジャーを、菜々留はショーツを、恋姫は髪飾りを取り出した。どれも先日、ランジェリーショップで『僕』が自分用に買わされたもの。

「いつもリオナたちを可愛く撮ってくれてるでしょ? だ・か・らぁ……今夜はリオナたちがPクンを撮ってあげる」

「データは残したりしないから、安心して? 頑張りましょうね、Pくん」

「さあ男の子になって、着替えてください。……あ、更衣室は要りませんよね?」

 まさかのお仕置きに『僕』は慄然とする。

「ま、待って……何でもするから、何でも……ア~~~ッ!」

 情けない悲鳴が木霊した。

 認識阻害の魔法が効いているせいで、この場の珍事にスタッフや警備員が気付くことはない。しかも美玖によって、いつの間にか『僕』の魔法は大半が封じ込まれていた。

(美玖のやつ、珍しく僕を抱っこしてると思ったら……!)

 もはや逃げ場などない。

そもそも悪いのは三股交際に及んだ『僕』であって、彼女らには報復の権利がある。

 反抗して火に油を注ぐより、おとなしく従い、ダメージを最小限に済ませよう――そう判断し、『僕』は変身を解除した。

「はい。これよ」

「……ほんとに着るの?」

「あら? P君、この期に及んでまだ……」

「わ、わかったから! 着ますっ!」

 そしてレディースの下着を着る羽目に。

 菜々留や里緒奈が『僕』を囲んで、男子の身体に下着を合わせていく。

「ブラはこーやってぇ」

「髪はナナルがやってあげるわ。男の子にしては長めだし、エクステを足せば……」

「先に下を穿いてください。見苦しいので」

「ひい~っ!」

 アイドル三人に着せ替え人形にされ、男の矜持はもはや風前の灯火。

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