第74話
所詮は『僕』も一介の男子だった。
菜々留を傷つけたくなくて、断りきれなかったのが半分。
もう半分は、やはり心のどこかで期待してしまったのだろう。そわそわと入浴までの時間を過ごし、約束の頃合いになったら、お風呂セットを抱えて部屋を出る。
「P君? こんな時間にどこへ行くんですか?」
「ぎっくう!」
バスルームとは逆方向のせいで、恋姫に呼び止められてしまった。
「え、えぇと……」
「もう外は真っ暗なんですから。早く帰ってきてくださいね」
恋姫はぬいぐるみの『僕』を不審に思ったりせず、あっさりと解放してくれる。
それでも心臓に悪かった。
(今から菜々留ちゃんと一緒にシャワーだなんて知られたら……ぞぞっ)
引き返そうか、とも思う。しかし今さら菜々留の気持ちをないがしろにしてまで、保身を優先する気にはなれなかった。
(そ、そうだよ……ちゃちゃっとシャワーだけ済ませて、戻ればいいんだからさ)
里緒奈とのお風呂デートの時のように、羽目を外して、R15相当のソーププレイに勤しむわけでもない。隠し通路を抜け、S女のプールへ。
人間の姿に戻ると、もう大した魔法は使えなかった。宿直の先生を魔法で遠ざけることもできず、シャワー室の照明の点灯に躊躇いもする。
「あとは菜々留ちゃんを待って……あっ?」
そこで気付いた。買ったばかりの水泳パンツを、いきなり忘れたことに。
そのタイミングで菜々留もやってくる。
「Pくんっ! うふふ、待たせちゃったかしら?」
「いや、今来たとこ……なんだけど」
女子校のシャワー室で必死に股間を隠す、すっぽんぽんの変質者がひとり。我ながら冒険心の溢れる行動に、寒気がした。
「水着を忘れちゃって……」
「いいのよ。Pくんにとってはお風呂の時間だもの……ね?」
しかし菜々留はさして驚かず、パジャマを脱ぎ始める。
豊満な身体つきとともに、S女子水泳部のスクール水着が露になった。
「今夜はナナルがたぁ~っぷり、プロデューサーくんにサービスして、あ・げ・る」
「……菜々留ちゃん?」
隙だらけの恰好に思わず『僕』は目を見張る。
「いつまでもそうしてたら、風邪ひいちゃうわよ。早くぅ」
「う、うん。じゃあ……一緒に」
息をするだけで鼓動が跳ねあがった。学校のプールに独特のにおいが、背徳感とともに興奮を煽り、正常な判断は追いつかなくなる。
同じシャワーの下に入り、菜々留が『僕』の身体越しにレバーを捻った。冷水で始まったシャワーはみるみる温かくなり、白い湯気を充満させる。
「サービスって……菜々留ちゃん、どんなふうにしてくれるの?」
「うふふ、ナナルに任せて。こうやってぇ……」
股間を隠すポーズで微動だにできない『僕』に代わり、彼女は次にボディーシャンプーを手に取った。それをスクール水着の生地へ垂らし、入念に泡立てる。
「ま、まさか――」
「じっとしてるのよ? Pくん……ンあっ」
そして可愛い呻きとともに『僕』の背中にしがみつく。
菜々留が拙いなりに身体を波打たせるたび、スクール水着がぬるりと擦れた。紺色の薄生地が濃厚なソープを絡めつつ、『僕』の背中をくすぐりまわす。
「そっそ、そんなすごいことされたら、ぼ、僕……!」
心ならずも『僕』は喜びに震えてしまった。
いくらプロデューサーに恩があるとはいえ、アイドルのサービスにしては明らかに度を越えている。『僕』自身、プロデュースにこのような見返りは求めていない。
しかしそんな理性の訴えも、心地よさの波に飲まれてしまった。
さらに菜々留は『僕』の身体に腕をまわし、スクール水着越しの抱擁を深めてくる。
「こんなふうにぎゅってするの……ナナル、好きかも……」
ふくよかな巨乳が『僕』のうなじにフィットした。
お腹の生地も器用に擦りつけ、『僕』を泡まみれに仕上げていく。
(も、もうだめ~っ!)
心の中で悲鳴をあげながら、『僕』は柔らかさに翻弄された。
感覚を断ち切ろうにも、菜々留のアプローチはすべてが不意打ちも同然。
「はぁ、はあ……も、もういいから……!」
小刻みに震えては、声を上擦らせて、敏感なのを白状してしまう。おかげでスクール水着の女の子にリードされっ放しだった。
「まだまだこれからよ? Pくん。もっと、もぉっとサービスしちゃうんだから」
右腕をくぐり抜け、『僕』の正面へまわり込もうとする。
そのついでにスクール水着のデルタを脇腹に当て、ごしごしと。
「――ッ!」
衝動に駆られるように『僕』は菜々留を抱き寄せた。
「きゃっ! ぴ……Pくん?」
さしもの菜々留も突然の抱擁に驚き、可愛い顔を赤らめる。
「ご、ごめん。嫌ならほんと、止めるから……ぎゅ、ぎゅってするだけ……」
それでも彼女はにっこりと微笑むと、『僕』に体重を預けてきた。『僕』の胸元をよじ登るように密着を深め、吐息を色めかせる。
「んはあ……いつもはナナルが抱っこしてるのに、Pくんに抱っこされちゃうなんてぇ……でもナナル、とても気持ちいいの。これ、好き……」
そして『僕』の腕の中で腰をくねらせ、ソーププレイの自主規制――。
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