第62話
「ねえ、里緒奈! この間のSHINYの新曲、先週のチャートで5位だったって?」
「え? ちょ、ちょっと待って……」
里緒奈が急いでケータイをチェックする。
プロデューサーの『僕』もうっかりしていた。先週は世界制服の企画で走りまわっていたため、チャートを確認できていない。
かくしてクラスメートの言葉通り、週間ランキングにSHINYの名前があった。結成以来の快挙を成し遂げ、メンバーは喜びに沸き立つ。
「すごい、すごい! リオナたち、ほんとに5位に入ってる~!」
「初の上位ね! これもPくんのおかげかしら」
「本当に……レンキたちの曲が5位に」
菜々留も声を弾ませ、恋姫に至っては半ば放心していた。
世間の皆がSHINYの魅力に気付き始めている。
それだけに、今年は一気に駆けあがれそうな予感がした。ファーストアルバムの発売も控えており、メンバーのモチベーションが燃えあがるのも、当然のことだ。
里緒奈がガッツポーズで意気込む。
「Pクン、レッスンを増やさない? アルバムの収録もあるんだしっ」
「でもほかのお仕事や期末試験だってあるから、大変だよ?」
『僕』はスケジュールに多少の不安を感じるも、恋姫や菜々留も要求してきた。
「レンキは平気ですよ。それより、せっかくのチャンスを逃すほうが嫌です」
「ナナルも付き合うわ。ファンのためにも頑張らなくっちゃ」
妹の美玖が『僕』に釘を刺す。
「アイドルが頑張るって言ってるんだから。健康管理やスケジュールの調整は、兄さんがしっかりフォローしてあげないと」
「そうだね。わかったよ」
アイドルたちと妹にここまで言われては、無下にできなかった。
「じゃあレッスンを増やす方向で調整しておくよ」
「はいっ!」
人気が出た分、忙しくなってくる。
アイドルにはおもに二種類のレッスンが必要となる。
ボーカルレッスンとダンスレッスン。『歌って踊る』のがアイドルの華だけに、このふたつは絶対に欠かせなかった。
里緒奈は歌もダンスも上手で、体力面にも不安はなかった。
しかし菜々留と恋姫はダンスが少し苦手で、里緒奈よりも練習に回数を要する。
それを補うのが『僕』の魔法だった。身体に負担を与えない程度にバフ(素早さアップなど)を掛け、ダンスの習得をサポート。
レッスンのあともヒーリングで疲労の回復を効率化させる。
あとは栄養満点の食事と、充分な睡眠。学校が近いことに加え、移動にはシャイニー号が使えるおかげで、時間のロスも少なかった。
業界最大手のマーベラスプロなら、本拠地のビルひとつで大抵の仕事やレッスンがこなせるのも大きい。7階のスタジオでラジオを収録したら、次は2階で練習、といったタイムスケジュールも可能だった。
『それじゃあ、また来週! SHINYラジオでした~』
S女の水泳部には『僕』も、毎日とは顔を出せなくなってしまったが、今はSHINYの活動を優先したい。
ラジオの収録を終え、里緒奈たちが金魚鉢から出てくる。
「お疲れ様~! はい、お茶」
「ありがとうございます、P君。次は……」
「下の階でダンスレッスンだよ。先に行っててくれるかな?」
一方でスタッフから呼び出しがあったため、『僕』は少し席を外すことになった。身体の軽さと魔法を活かし、廊下をまっすぐに飛んでいく。
「……?」
ところが、その途中でむんずと鷲掴みにされてしまった。
(な、なんで? 認識阻害が効いてないっ?)
まさかのピンチに『僕』は愕然とする。
マーベラスプロのスタッフは『僕』を『ぬいぐるみの妖精』と認識していた。そこに疑問の余地はないのだから、わざわざ不思議がって『僕』を捕まえる真似はしない。
にもかかわらず、彼女は明らかに『僕』を怪しんでいた。
「どうなってるの? あなた」
(ひいいっ? SPIRALの……?)
しかも相手はトップアイドルの有栖川刹那。かのSPIRALでセンターを務め、その人気は観音玲美子にも比肩する、と称されるほど。
『僕』にとっても雲の上の人物で、これが初対面だったりする。
「あ、あのぉ……急いでるんで、離していただけると……」
「ふぅん。まあ、うちには天使の末裔なんてのもいるから、別に珍しくもないか」
有栖川刹那はぬいぐるみの『僕』を裏返したり、ひっくり返したりするも、あっさり解放してくれた。
「頑張ってね。妖精さん?」
「ハ、ハイ……」
只者ではない。それだけは確信できる。
マーベラスプロには『僕』のほかにも、常識離れした存在がいるようだった。
「天使の末裔って、アークエンジェルの霧崎タクトとか? ……まさかね」
幸いにして、有栖川刹那に『僕』をどうこうするつもりはないらしい。こちらも下手に関わったりせず、自分の仕事へ戻る。
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