第54話
「み、美玖は……ひとり暮らしで大丈夫か?」
妹は巨乳越しに溜息を漏らす。
「兄さんこそ。どうせ菜々留や恋姫に迷惑掛けてるんでしょ」
「そっ、そんなことないぞ?」
自分の妹のことながら、美玖はしっかり者だった。水泳部とともに生徒会にも所属し、早くも次期生徒会長の有力候補と噂されている。
両親がマギシュヴェルトで働いているため、現在はひとり暮らし。一応ボディーガードとして、家には『僕』がゴーレムとキラーマシンを配置していた。
当然、美玖は『僕』の修行についても知っている。
「妹の友達をアイドルにしようだなんて……しかも女子校で教師? 魔法の修行より一般常識を勉強するべきじゃないの?」
妹の意見はどれも正論だけに、ぐうの音も出なかった。
「で、でも……これはマギシュヴェルトの許可も出てることで……」
「Pクン! お待たせ~」
そこへ同じクラスの里緒奈や恋姫、菜々留もやってくる。
「美玖ったら早いんだから。そんなに急がなくても」
「プールが大好きだもの、ね? 美玖ちゃんは」
SHINYの三人も水泳部の部員のため、水泳部用のスクール水着を着ていた。アイドルならではの器量のよさと、機能美優先のスクール水着が、健全な色気を醸し出す。
「また兄さんに無茶な企画、押しつけられたりしてない?」
「大丈夫よ。その時は恋姫ちゃんが真っ先に怒ってくれるもの」
そんなSHINYに同じ格好で美玖が並んでも、遜色はなかった。むしろ正当なメンバーのひとりに思えてくる。
(おっぱいメンバーの……いやいやいや!)
雑念を振り払いつつ、『僕』は里緒奈たちの話に耳を傾けた。
「美玖も合流すればいいのに~。ファンのみんなも歓迎してくれるの、きっと」
「そうね、美玖がいてくれると心強いわ。P君の暴走を止める意味でも」
妹の美玖はSHINYのマネージャーを務め、過去に二度、SHINYの企画にもゲスト出演している。ファンの間では第四のメンバーとも噂され、マーベラスプロからのオファーも再三に渡っていた。
しかし美玖にとっては、兄の修行に付き合わされるわけで。
「もう懲りたってば……ミクはやらないから」
「あらあら。振られちゃったかしら」
やがてプールサイドに1年3組の女の子たちが集合し、四時限目の授業が始まった。
「P先生~! 平泳ぎのコツ、教えてくださぁーい」
「私も、私も! あっちで早くぅ」
三時限目と同じように『僕』は引っ張りだこになる。
ところが、そうはさせまいと、恋姫が『僕』の頭をむんずと鷲掴んだ。
「水球のボール、あったわよ! 里緒奈~!」
そして力任せにスロー。
「ヒャア~ッ?」
「オーライ、オーライ!」
それを里緒奈が受け、菜々留に繋ぐ。
「任せて! 次は美玖ちゃんよ、それぇ!」
「タ、タスケテー!」
「……え?」
しかし美玖は気付かず、巨乳で『僕』をぼよんと受け止め……。
「なっなな……何するのよ、スケベ!」
「変態は自重してくださいと、あれほど! まだわからないんですかっ?」
「ア~~~ッ!」
水泳の授業は途中からバレーボールの試合になった。
☆
その授業で変態扱いされたのは、どうにもタイミングが悪かったらしい。
放課後はシャイニー号でマーベラスプロへ飛び、ミーティングを始めるものの。
「――なんなんですか、これっ!」
案の定、恋姫は開口一番に怒りをぶちまけた。
「世界を……せ、『制服』する? 冗談だったら最悪ですけど、本気だったら、もっとサイアクですね!」
穏やかな菜々留も今回は口が辛い。
「控えめに見てもイロモノ……よねぇ? 確かに受験生向けのパンフレットで、アイドルが制服を着てることはあるけど……この企画は体操着も、でしょう?」
「これは濃い写真集になりそうなの……」
アイドル活動を楽しんでくれている里緒奈さえ、口角を引き攣らせた。
写真集の企画自体は本物で、発売の日程も決まっている。しかも二冊を同時に刊行。それに合わせて、サイン会などのイベントも予定されていた。
その二冊のうち一冊はタイトルが『SHINY~白色~』で、メンバーは有名な高校のセーラー服やブレザーを着て、撮影に臨む。それはまだ良識の範疇だから構わない。
問題はもう一冊の『SHINY~紺色~』だった。里緒奈たちはカメラの前で、何十パターンものスクール水着を着用する羽目になる。
その想像だけで恋姫は顔を真っ赤にした。
「カメラさんは、おおっ、男のひとじゃないですか! P君は女の子を何だと……」
しどろもどろになりながらも、『僕』は必死に弁明する。
「あ、安心してよ。ちゃんと撮影中は、あれ……アンチムラムラフィールドで、みんなが変な目で見られないようにするからさ」
アンチムラムラフィールド。それは認識阻害の魔法を応用したもので、彼女たち相手に男性がエッチな気分になるのを抑制することができた。
妹の美玖もこの魔法で、特大の巨乳ぶりを誤魔化している。
ただし売り上げに響くので、ファンには使わないと決めていた。当然、『僕』の魔力にも限りがあるため、世間一般のムラムラを全部抑えられるわけではない。
『僕』は企画を実現させるべく下手に出て、アイドルたちのご機嫌を窺った。
「ま、まあまあ……イロモノ企画なのも最初だけだよ。それに全国をまわるから、ついでに色んなお仕事だってできるんだし。ね?」
「P君は着ないで済むから、そう言えるんです」
しかし恋姫はすっかりへそを曲げている。ハイレグ衣装ばかり強要される、日頃の鬱憤も溜まってのことらしい。
里緒奈は不思議そうに首を傾げる。
「そもそも、なんでリオナたちに黙ってたの? 今週には撮影が始まるんでしょ?」
「それは……お、怒られそう……だから?」
「当たり前じゃないですかっ!」
恋姫はぬいぐるみの『僕』を捕まえると、顔の部分が横長になるまで引っ張った。
「やめふぇえ? れんひひゃ~ん!」
「黙って企画を進めてた、Pくんが悪いのよ? んもう」
菜々留は落ち着き払って、お茶に口をつける。
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