第66話 心細い僕らと逃げる正直者
「そういうことだったのね。まさか自分が探されてるなんて夢にも思わなかったわ」
瞳さんは『宝城運送』の車庫で、逆さまにしたコンテナを椅子にため息をついた。
「僕らだってまさか宝城さんが『正直トミー』だなんて、今だに信じられません」
「瞳でいいわ。……でもあなたたちのお話を聞かせてもらって、このところ感じてた違和感の理由がわかったわ。アンドロイドがどうこうっていう部分はよくわかんないけど」
瞳さんは人懐っこい笑みを浮かべると、安全な自前のキャンディを口に放り込んだ。
「瞳さん、僕らの話を信じてくれるなら、ジャックを探すのを手伝って下さい。お願いします」
僕は会って間もない瞳さんに、なりふり構わず頭を下げた。
「もし本当にこの街が『偽物』に乗っ取られかけてるのなら、私だってひと肌脱ぎたいとこだけどさ、具体的にどうすればいいの?その病院ってのは敵だらけなんでしょ?」
「それは……」
僕が言葉に詰まった、その時だった。開放されたシャッターの向こうでクラクションが鳴り、車が停まる気配があった。
「やべえ、親父が帰ってきた。……ちょっと一緒に来てくれる?挨拶にうるさい人なんだ」
瞳さんはそう言うと、立ちあがって外に目をやった。僕らは顔を見あわせた後、おそるおそる瞳さんの後に続いた。
「お帰りー。……あれっ?ジンさん、ミキちゃん、それにマサさんまで……どうしたの?」
シャッターの外に出た瞳さんは、車から降りてきたらしい人たちに大声で呼びかけた。
「ちょっと、真咲君。あの人たちの目……」
ふいに隣で杏沙が囁き、僕ははっとした。こっちに向かって来る数人の男女の目が、赤い光を放っていたのだ。
「まずい、敵だ!」
僕が叫ぶと、瞳美さんが振り返って僕らの方を見た。
「敵って……親父たちのこと?」
瞳さんは険しい表情になると、早足で車庫の中に戻ってきた。
「今の言葉が本当なら、逃げなくちゃ。親父まで別人にされたら、家にはいられないわ」
瞳さんはそういうと僕らを奥にある別の扉へとうながした。
「トラックは目立ちすぎて使えないわ。こっちに軽があるから、それで移動しましょう」
瞳さんと僕らは車庫の裏口から外に出ると、近くに停めてあった軽自動車に乗り込んだ。
「どこに行くんですか」
「とりあえずダチと連絡を取ってみるわ。この街はもうやばいから隣の『月景町』の方がいいかも」
瞳さんはそう言うとキーを回し、軽自動車のアクセルを踏みこんだ。
「お友達は大丈夫なんでしょうか」
助手席の杏沙がこわごわ尋ねると、瞳美さんは硬い表情のまま「わかんない。……でも、元不良が多いし、そう簡単にわけのわからない連中に乗っ取られるタマじゃないと思う」
瞳さんはそう言うと、住宅地の細い裏路地を豪快なハンドルさばきで飛ばし続けた。
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