第42話 元助手と元幽霊の最強チーム
「私が五瀬教授の助手になったのは五年前、まだ『アップデーター』の存在も知らなかったころよ」
四家さんは僕らとバギーを乗せると、少し離れた公共のパーキングエリアに車を停めた。
「五瀬教授の師である七森博士が『意識をエネルギー化して物質の中に保存する』っていう研究を始めた時で、まだ大学院生だった私にぜひ、手伝ってほしいという依頼がきたの」
四家さんが七森博士の名前を出すと、杏沙の表情が微妙に硬くなった。
「父の研究に本気で興味を示したのは、五瀬さんだけでした。父もなかなか成果の出ない研究を手伝わせることを心苦しく思っていました」
「でもやっぱり興味があったのよ、私も五瀬教授も。それに実際『アップデーター』たちが現れたことで、意識を封じ込めたりそこから出て『幽霊』になったりする人が現れたわけでしょ。意義はあったと思うわ」
「そうですね、そのおかげでこうして『ジェル』の身体も手に入ったわけだし……」
杏沙は人間の形を意識したのか、『ジェル』の身体をひゅっと縦に伸ばした。
「四家さん、僕らは何とかして五瀬さんを助けだしたいんです。力を貸してくれませんか」
僕が頼みこむと、四家さんは眉を寄せながら「もちろん、私もそうしたいわ」と言った。
「……だけど、しばらく研究から離れていた私に何ができるのが正直、見当もつかないの」
四家さんは僕ら二人とバギーを交互に見ると、ふうと小さく息を吐いて目を伏せた。
「私たちも二人だったから何とかやってこられました。あと少しで自分そっくりの『身体』が手に入るところだったのに……」
杏沙が心底、悔しそうに言った。口にこそ出さなかったが、僕も全く同じ気持ちだった。
「私も侵略者の噂だけは聞いていたけど、さすがに身近にいるとは思わなかったの。……でもあなたたちの話を聞いて、ここに来るのがもう少し遅かったら私も侵略者に身体を乗っ取られていたかもしれないと思ったわ」
四家さんは冷静にそう振り返ったが、目には未知の敵に対する恐怖の色が浮かんでいた。
「五瀬さんも人間を装った『アップデーター』を、うっかり家の中に入れてしまいました」
「私も近頃、なんだか周囲の人たちがおかしいなとは感じていたの。会話がかみ合わなかたり……でもまさか、そんなに多くの人が『アップデーター』と入れ替わってるなんて思いもしなかった」
「もしあそこで私たちと出会わなければ、五瀬さんの身体を乗っ取った『アップデーター』が四家さんを出迎えていたかもしれませんね」
「その可能性は大いにあるわね。たぶん五瀬教授を装った敵に気づかないまま、私は意識を抜きとられていたと思うわ」
四家さんは最悪の状況を思い浮かべたのか、身体をぶるっと震わせた。
「でも来てくれて本当に助かりました。正直、脱出できたはいいけどこれからどうしたらいいか、途方に暮れていたんです」
僕が言うと、四家さんは「何か予感があったのかもしれないわ」と真顔で返した。
「周囲の様子に違和感を覚えた時、なぜか五瀬教授から聞いた『侵略者』の話を思いだしたのよ。それで忙しかったんだけどもう一度、話を聞いてみたくてお休みをもらったの」
「四家さん、奴らに気づかれずに五瀬さんを助けだすには、どうしたらいいと思います?」
杏沙に問いかけられ、四家さんはしばしの間、黙って何もない一点を睨んだ。
「とにかく敵と互角に渡り合うには、『アンドロイドの身体』を手に入れることが先決ね」
僕は頷くと「まだ僕らにも、いくらかチャンスは残ってるってことですよね」と言った。
「きちんと作戦を練って研究所に戻りましょう。あなたたちの『身体』をとり戻すために」
四家さんは肩越しに振り返って研究所の方を見ると、強い決意を秘めた表情で言った。
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