第117話 アレンとヨル①
〈
その能力は純粋な力を得るだけではなく、どうやら圧倒的なカリスマさえも手に入れてしまうようだ。
王族の血筋が完全に途絶えてしまったレステア。
そこで誰がレステアを率いていくのか……
兵士たち、そしてレステアに住む民たちがこぞってツクモの名前を上げた。
ツクモと会話した者、あるいは彼の実力を見た者はそれこそ〈
アルカナの力を持った者たちはその力の影響を受けないが、あの国のほぼ全員が彼に魅了されてしまっている。
「俺は嫌なんすけどね」
辟易した顔でツクモは俺にそう言う。
彼はナエと同じ世界から召喚されたらしく、二人は共通の話題で盛り上がっていた。
「アレンさん、ナエを元の世界に戻してやるらしいですけど……俺も一緒に帰してもらえないっすか?」
「まぁ、それが可能になったら一緒に送り帰してやるよ」
「そうっすか。じゃあ、それまでは王様でもやってやろうかな」
そんなこんなで、レステアの国王となったツクモ。
まぁ、臨時の王様だし、みんなが納得してるならそれはそれでいいんだけど……
話はここからややこしくなってくるのだ。
ツクモがなぜか勝手に俺の配下だと周囲に話しているらしく、俺は裏からフレイムールを牛耳る真の支配者だとか噂されるようになっているらしい。
それも四大魔王を統一し、四大大陸全てを支配する〈
なんで?
そんなの望んでないのになんで?
しかしシフォンの言った通りの展開になってしまたなぁ。
世界を統一するつもりもなかったけど、結果的に世界の王様になってしまった。
エルフたちの住むアースターは現在、完全に俺を認めているらしいし。
セントレインは新たな王が俺の配下だし。
ウィンディンは魔族の巣窟で、魔王である俺に従うらしいし……
本当、なんでこんなことになってしまったんだ。
俺は屋敷の外で、ターニャとケイトと共にのんびりとした時間を過ごしていた。
ポカポカ陽気の中、船を漕ぎながら設置された椅子に座る二人。
俺はターニャの胸の中で眠りについていた。
「アレン様……」
「ん……どうしたんだ、シフォン?」
俺を真剣な表情で見下ろすシフォン。
ターニャの体から飛び降り、俺は寝ぼけたままでシフォンを見上がる。
「何かあったのか?」
「……とうとう運命の時がやってまいりました」
「運命……世界を治めるか破滅させるか……みたいなことだったよな」
「はい」
「だったら、世界を統一したんだし、もう結果は出たんじゃないのか?」
「いえ……」
目を閉じ、シフォンは力強く首を横に振る。
「ビジョンが見えるのです……まだ、結果は出ていません」
「んー……と言っても、俺は世界を破滅させるつもりなんてないしなぁ……」
その時だった。
サーッと俺たちの体を撫でる涼しい風が吹き、それと共に一人の人物が山を上がって来た。
「……シフォン?」
その人物はシフォンだった。
いや……目の前にシフォンはいる。
やって来たのは、赤い髪のシフォンとは違い、波打つ黒い髪を持つ美女。
顔は、完全にシフォンと同じものだった。
誰?
「シーラ……あなた、生きていたの?」
驚愕するシフォン。
シーラと呼ばれたシフォンと同じ顔をした美女は微笑を浮かべ口を開く。
「久しぶりね、姉さん。私は姉さんの能力のおかげで生き延びることができたわ」
「姉さんってことは……シフォンの妹?」
「はい……彼女は私の双子の妹で、10年前に火事で死んでしまったはずなのですが……私の能力のおかげって、どういうことかしら?」
「私は昔っから、姉さんの真似をするのが好きだった……それでいつしか能力さえも、姉さんと同じ物を真似するかのように、同じ力を持っていることが分かった。〈双生の合わせ
「……それで、あなたは何をしにここに来たの?」
「私は姉さんと同じビジョンを見て来た……そして私はある時気が付いたの。二つのビジョンの正体に」
「ビジョンの正体?」
その時、ケイトが目を覚ましたようでむくりと起き上がる。
ターニャは依然として、気持ちよさそうにスース―眠っていた。
「……シフォンが二人……あんた、新しい能力にでも目覚めたのか?」
「違う違う。双子の妹なんだってさ」
「ふーん」
ふわっとあくびをしてケイトはシーラを見据える。
シーラはそんなケイトの視線を無視するかのように、会話を続ける。
「世界を統一する彼の姿と世界を破壊するもう一人の姿……それは、アレンという人物が二人いるということ」
「俺が……二人?」
何を言っているんだ、この人は。
俺が二人だなんて……分身なんて能力は持ち合わせていませんけど?
すると、彼女の背後から無音で山を上がって来る人物の姿が目に入る。
「……ヨル」
ケイトは白いローブ姿のその人物を見て、歯を噛みしめながらそう言った。
「ヨルって……確かみんなが負けたって奴だよな」
「初めまして、だな。アレン」
そう言ってヨルは、静かに頭のフードをめくる。
そこにあったのは――驚くほど俺と全く同じ顔であった。
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