第114話 ネリアナの絶望①
「ちょっと、いつまで時間かかっているのかしら?」
ネリアナは設置された椅子に座り、爪を噛んで組んだ足をユサユサ動かしていた。
ツクモの能力を知るネリアナは、彼が負けるわけないと考えていたのだ。
〈
それは仲間の数が多いほど、仲間が強ければ強いほど強大な力を発揮するというものだ。
これだけの数の味方がいるツクモ。
彼なら、アレンとあの白髪の女にどれだけの仲間がいようとも負けるわけがないのに……
だというのに、勝利の報告はまだ届かない。
「ぜ、前線の方に確認して来――」
「? 何?」
ネリアナと話す兵士は、突如目の前で起きている出来事に絶句する。
ネリアナはそんな彼を見て、怪訝そうに同じ方向に視線を移す。
遠くに見えてきたツクモの姿。
ネリアナはそれを見て歓喜に振るえる。
が、その後に現れた超魔王――アレンの姿を見て背筋を冷やした。
まさか……ツクモが負けるなんてことは……
そんな彼女の不安は的中した。
ツクモがアレンに倒される姿を見て、ガタンと椅子から立ち上がる。
「…………」
まさか……ツクモが負けるなんて……
しかしネリアナはニヤリと邪悪にピンク色の唇を歪める。
だけど私には、まだ人々を操れる能力があるのだ。
たとえアレンたちがどれだけ強かろうと、私に逆らうことはできやしない。
あいつらにはそれを知る余地もないだろう。
だって私の能力を知る者は、全部私の手中に収めているのだから。
アレンの姿がネリアナたちから見えなくなったと思うと、今度は遥か先でボンボンと爆発が起こり、兵士たちが次々に吹き飛ばされる姿が見えた。
来る……誰かは分からないけれど、私の下にやって来る。
兵士たちを倒し回っていたのはアレン。
そして、兵士の隙間を縫うようにして、ネリアナに接近する影が一つ。
それは、大鎌を持ったケイトであった。
「白髪の女……」
鋭い目つきで駆けているケイト。
ネリアナはそのケイトの姿を見て一瞬恐怖に慄くが、すぐに冷静に戻る。
「ふん……やって来るがいいわ。お前も私の家来にして、男の前で裸踊りさせてあげるわ」
敵を倒しながらケイトはネリアナに接近して行く。
そして、100メートルほどの距離までやって来ていた。
「ははははは! 白髪の女!」
ネリアナは宣言する。
ケイトは依然として全速力で駆け続ける。
「私の――家来になりなさい!」
「…………」
これで私の勝ち。
そう思案したネリアナであったが――ケイトの動きは止まらない。
「えっ――」
最接近したケイトはそのままの勢いで――
ネリアナの喉を斬り付けた。
「がっ……」
ネリアナの喉からドボドボ血が流れ落ちる。
喉を潰されたことに声が出ない。
能力が発動しなかったこと、そして喉が潰された痛みに顔を歪めながらケイトを睨むネリアナ。
「――――」
何で? と聞くはずだったネリアナの声は誰にも届かない。
口をパクパクさせるネリアナの姿を見て、ケイトはふんと鼻で笑う。
「悪いけど、さっき鼓膜を潰してね。お前が何を言っているのか分からないんだよ」
「――――」
驚愕し、喉を抑えながら後ずさるネリアナ。
何で……何で私の能力を予め把握していたのだ?
何故私の能力に対処するようにそんなことをできたのだ?
何故……何故……
しかしネリアナにはそれを聞く声が失われている。
するとフッとケイトの隣にアレンの姿が現れる。
一緒に〈
チェイスとトレイニーだ。
チェイスは古代魔導書を手にしており、現れるや否や、呪文を開始する。
――その魔導書は!
ネリアナは見覚えのある魔導書を見て、目を丸くした。
「〈トランスプラント〉!」
ネリアナの体が光り――その光がトレイニーに吸収される。
絶望の瞳でアレンたちを見るネリアナ。
そしてトレイニーは大声を草原に響かせる。
「皆さん! 正気に戻って下さい! もうあなたたちは自由です!」
兵士たちは正気に戻り始め、周囲を見渡していた。
「なんで俺たちは……あの女の命令を」
ざわざわ困惑の声を上げる兵士たち。
アレンたちはそれを気にすることなく、ネリアナに視線を向けたままであった。
「ネリアナ。年貢の納め時だ。お前はやり過ぎた。これだけの人を動かし、そして罪もない人を殺してしまった。もう許すだけの余地はない」
嘘だ……嘘だ……
私が……私が終わるなんて。
こんな終わり方が訪れるなんて、信じられない。
そうだ! アレンを懐柔すればいいんだ。
男なら誰だって私の言うことを聞くはずなのだから。
ネリアナはアレンにしがみ付き、口をパクパクさせている。
アレンは溜息をつきながら、まずはケイトの耳を治した。
「往生際の悪い女だね。まだ生きようと必死になってる。滑稽もいいところだよ」
ギロッとケイトを睨むネリアナ。
ケイトは肩をすくめながらネリアナに冷たく言い放つ。
「お前はここで終わりだよ。死なないにしても……残りの人生は地獄だと思っておけ」
氷のような視線を向けるケイトに、ネリアナは絶望に満ちた瞳で見上げていた。
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