第93話 半分

「どういうことなのかしら?」


 モルタナは冷え切った氷のような声でそう聞く。

 俺たちはエルフとドワーフの主だったものたちと、メルバリーの城で対面していた。

 玉座に俺が猫の姿で座り、俺の眼前ではエルフとドワーフたちが互いに視線を合わせないようにこちらを向いてる。

 

「俺もぉ、不思議でならねえぇ。どういうことかぁ、聞かせてくれぇ」

「どういうことって言っても、こういうことだよ」

「それを聞かせてと言っているの、こちらは。なぜあなたたちにあれだけこっぴどくやられたというのに、誰一人として・・・・・・死んでいないの?」

「ドワーフの方もそうだぁ。誰も死んでいなかったぁ」

「お前たちを殺すつもりなんて最初から無かったからな」


 俺たちは両軍を倒しはしたが、被害が出ないようにと一人として殺してはいなかった。

 ナエに創ってもらった、殺傷能力の無い武器。

 皆にはそれを使ってもらい、エルフたちを殺さないように戦ってもらっていたのだ。


「でも……なぜそんなことを?」

「だって、殺すことが目的じゃなかったからな」

「……では、目的は何?」

「だから、アースターを占領することだよ」


 納得いかないらしいモルタナは、ほんの少し苛立ちを見せていた。

 オージも似たような反応をしており、こちらに厳しい視線を向けている。


「アースターを占領して、お前たちの戦いを止めさせてもらった」

「なるほど。それがあなたの狙いということね……でも、私たちはこの城を諦めるつもりはないわ」

「それはこちらも同じだぁ」

「え? 君たち降参したよね? もう俺の配下のはずだよね? だったら俺の言うことを聞いてもらわないと」

「……こんな形で、納得するとでも思っているの?」

「納得できないなら、また俺と戦うか?」

「…………」


 モルタナは静かな瞳の奥にわずかばかりの炎を灯す。

 やれるものならやりたいところだけど、俺には敵わない。

 そんなところだろうな。

 

「それでぇ、お前はこの城に住んで俺たちを監視するってわけかぁ」

「そんなこともしないよ。ナエ、頼むよ」

「はい」


 俺たちは一度城の外へ出て、その外観を眺める。

 

「外に出てどうするつもり?」

「こうするつもりなのです――〈創造せし魔術師マジシャン〉!」


 ナエが両手を城に向けて突き出すと――城が眩い光に包まれる。


「……これって」


 城は真ん中で分かれていて、エルフ側とドワーフ側で二等分になっていた。

 中央部分には互いに壁が出来上がっており、行き来はできない形になっている。


「この城もエルフとドワーフで半分こだ。仲良くしろとは言わないけど、喧嘩はするな。お互いに城が手に入ったのなら、戦う必要もないだろ?」

「…………」

「…………」


 オージもモルタナも、そして他のエルフ、ドワーフたちも何とも言えない顔をしている。

 まぁ、納得できない部分はあるだろうけど、これぐらい強引に決着をつけてやらないと争いを止めないだろう。

 そして最後にもう一度釘を刺しておく。


「言っとくけど、また争いをするというのなら、また俺がお仕置きにくるからな。その時はエルフとドワーフ、一緒に暮らしてもらうから」

「うっ……」

「それはぁ、困るなぁ」


 さすがに一緒に暮らすのは嫌らしく、渋々と言った顔で争いをしないという約束までこぎつけることができた。


 俺はため息をついて、横にいる仲間たちの方へと歩いていく。


「あなた……こういうつもりなら、なんで私たちに一言声をかけてくれなかったの?」


 イースが不機嫌そうにそう俺に聞いてくる。


「だって、同じエルフ同士だろ。こちら側についたら、これから先白い目で見られるだろうしさ。だったらエルフ側の者として俺たちと対峙した方がいいと思ったんだよ」

「……私たちのことを考えて、誘わなかったの?」

「ま、そういうことだよ」


 キョトンとしているイース。

 隣にいたウェンディもエドガーも、一本取られたみたいな表情をしていた。


「……うん」


 イースは一度頷き、俺を持ち上げ抱きしめる。


「最強で猫で人間で……悪くないかもね」

「って、何アレン抱きしめてんのよ!」

「そうだぞ、エルフ。さっさと離れろ」


 俺を抱きしめるイースに詰め寄るケイトとターニャ。

 キリンも近くでギロリと睨み付けて、レイピアに手を当てていた。

 やめなさい。それは物騒過ぎるから。


 俺はため息をついて、彼女たちのやりとりが終わるのをじっと待った。


 今回は思ってたより簡単に解決できたなと安心していたが……

 これは、これから起こる出来事の序章でしかなかったのだ。

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