第91話 アレン対エルフ①

「こ……降参だぁ。もう仲間たちを殺さないでくれぇ」


 次々と俺の魔力に倒れていくドワーフたち。

 拘束されたまま動けないオージは、震える声で俺にそう悲願する。

 悔しさに歯を噛みしめながら、怒りに眉根を寄せながら。


「もっと早く降参していればよいものを。わはははは」


 俺は腰に手を当て、高笑いする。

 結構魔王って楽しいもんだね。


「では、仲間たちと共に抵抗を止め、後ほど我が魔王城へと来るがよいわ。わはははは」

「……いつまでそんな芝居じみた態度を取っているつもりなの?」

「あ、わざとらしいかな?」

「逆にわざとわしいと思っていないあなたが不思議だわ……」


 短く息を吐き、キリンは俺をジト目で見た。

 だがすぐにポッと顔を赤くする。

 え? そんな照れるような会話じゃないよね?


「とにかく、これでドワーフ側は終わりだ。ケイトたちの様子を見に行こう」

「ええ」

「じゃあ、後で城に来てくれよな」

「あぁ……」


 キリンの能力を解かれたオージは悲壮な顔で周囲を見渡し、倒れている仲間たちの姿を確認する。


「お、お前らぁ……苦しかったかぁ……守ってやれなくて悪かったなぁ」

「オ、オージ……」

「……えぇ?」


 仲間たちが生きていることにポカンとするオージ。

 俺はニヤッと笑いながらキリンと共に〈空間転移テレポート〉する。




 ◇◇◇◇◇◇◇



 メルバリーの城からエルフ領の方へ下山した辺り、森の中に飛んだ俺たち。

 そこで驚愕の光景を目の当たりにする。


 仲間たちが……やられていたのだ。


「ケイト……ナエ……シフォン!」


 全員エルフに捕らえられ、どこかに運ばれようとしていた。

 意識はないらしく、ピクリとも動かない。

 

「……アレン」

「ターニャ……」


 唯一ターニャだけが、無傷でいてくれた。

 しかし、黒く長い頭髪にイカのような足が10本ほど生えている男に後ろから首を掴まれている。

 なんか見たことあるやつだな……


「あの時はお世話になりましたね」

「その声……ン=ドウェン?」

「あはは……なんかこいつメチャクチャ強くなっちゃってさ……ケイトもサンデールもやられちゃった」


 青い顔でターニャはそう言った。

 顔が青いのは怖がっているというよりは、ン=ドウェンの手の感触が気持ち悪いといった様子だった。

 ぬめぬめしているのだろう。

 想像するだけで背中がひやっとする。


 しかしン=ドウェンの奴、一回り大きくなったような……

 俺みたいに。

 

「あなたたち、アースターを支配しようとしていたらしいわね」


 俺に声をかけてきたのは、モルタナだった。

 大勢の戦士を引き連れて、彼女は俺を取り囲む。

 キリンはン=ドウェンを能力で拘束しようとするが、周りから弓を向けられたためにそれを中断し、レイピアに手をかける。


「しようとしていたらしいじゃなくて、現在進行形。まだやっている最中だ」

「なら、ここで終わりよ。もうあなたたちの負けなのだから」

「そうかな?」


 冷静に俺を見据えるモルタナから視線を外し、その横で激しい形相をしているイースを見る。


「あんたの計画はこれでお終いよ。アースターはあんたなんかに渡しはしない」

「だから、まだ終わっていないんだよ。俺は必ず、エルフもドワーフもまとめて制圧してみせる。ドワーフの方はすでに完了したから、後はイースたちに勝ったらいいだけだ」

「なっ!」


 ザワつくエルフたち。 

 この短時間でドワーフを制圧してしまったことに驚愕している様子だ。

 余裕でこちらを見ているだけだったエルフたちも弓を構え、息を飲む。


「魔王アレン。残念ですけど、それは叶いませんよ」


 ン=ドウェンがニチャーっと不快な笑みを浮かべる。


「この子がどうなってもよいのですか?」

「うえっ……」


 首に両手を回されたターニャはこれ以上ないぐらいに不愉快な表情をする。

 やはり苦しいより、気持ち悪いが勝っているのだろう。


「こいつらもこちらの手中にあることを忘れるな」


 エドガーは少し辛そうな顔でケイトの首に短剣をあてがっていた。 

 傍らにいるウェンディもボーッとするのか頭を振っている。


「まずは、元の人間の姿に戻ってもらいましょうか」

「…………」


 言うことを聞かないわけにはいかない、か。

 しかたない。

 俺は魔魂石の力を停止し、人間の状態に戻る。

 ン=ドウェンはそれを見てさらに命令を出す。


「では……次は自害でもしてもらいましょうか」


 なんだか、権力を手に入れた三下にしか見えないなぁ……

 どっちにしても、こいつは絶対に許さない。


「アホか。そんなことするわけないだろ」

「……やらないのですか?」


 ン=ドウェンはターニャの首に力を込める。


 状況は絶望的。

 普通に考えたらもうひっくり返せないぐらいの状態だ。

 キリンがン=ドウェンの動きを止めたとしても、弓で穴だらけにされてしまう。

 俺が動いたらみんなが殺される。

 そりゃみんなを見殺しにすれば突破できるだろうけど……

 そんな鬼畜じゃないからな、俺は。


 ケイトたちの位置関係を確認するため、みんなに視線を移す。


 ケイトはエドガーの手元にいるが……他のみんなは一か所にまとめられている。

 あれならケイト以外は一瞬で助け出せるぞ。

 ケイトは……ごめん。先に謝っておく。

 この状況を打破するために、ちょっと痛い目に逢うかも。 

 できる限り怪我をさせないように頑張るから許してくれ。


 となればまずは、ターニャだ。

 ン=ドウェンに捕えらえれているターニャ。

 と言っても、これが一番簡単だったりするんだけど。

 一番難しいはずなのだが一番簡単。

 まぁある手段・・を使えばの話だが…… 

 できればこれはあまりやりたくないのだけど……一番確実な手札を切る。

 後が怖くてちょっとばかりゾクリとするが致し方ない。


「ターニャ!」

「な、何……?」


 大変真っ青な顔でターニャはこちらを見ている。

 そして俺は、大声で叫ぶ。


「好きだー!!」

「私も――」


 ブワッとターニャの力が解放されていく。

 目をキラキラさせ、よく分からない眩い輝きを放つ。

 突然巻き起こる力場にン=ドウェンは目を丸くさせている。


「好きぃ!!」


 そしてン=ドウェンの顎に、凄まじいアッパーカットが炸裂する。


「んはぁあああっ!?」


 天高く吹き飛ぶン=ドウェン。

 ターニャは俺でも反応しきれない速度で抱きついてくる。


「さあ。形勢逆転と行こうか」


 ターニャを抱きかかえながら俺はイースたちに向き直る。

 

「好き好き! 私も大好き!」

「…………」


 ターニャは俺の胸の中で頭をグリグリと押し付けてそう叫んでいる。

 これから決戦が始まろうとしているのに、皆呆れ返っている様子だった。

 やっぱりいまいち決まりきらないなぁ……

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