第59話 セシルと死の島①
「ねえねえナエ。その服可愛いね。私も着てみたいなぁ」
「こ、これですか? これは学校の制服で……」
俺たちは取っていた宿に戻って来ていた。
〈
外はもう暗くなっていて、空には雲がかかっていて星が全く見えない。
ザザーッという波の音だけが、静寂な町に鳴り響いている。
ターニャとナエは仲良くなったみたいで二人で楽しそうに会話をしていた。
俺はシフォンに抱かれながら、窓際から二人の様子を見ている。
ケイトは早々と眠りについてしまい、寝息を立てていた。
「で、これからどうするかだな」
「ワクシリル……倒す手段として、今考えられるのは……」
「セシルのみ、か」
勇者に匹敵する光の力を持つセシル。
だが、セシルだけではワクシリルを倒せないとシフォンは言う。
「村で戦った感じじゃ、セシルだけでも十分倒せそうな様子だったけどな」
「ええ。その時のワクシリルが全力ならば……ですが」
「……全力じゃなかったってこと?」
「おそらくは」
強がりかどうかは分からないけど、あいつも俺に勝てるって豪語してたし。
本当にあの時は、持てる力を出し切っていなかったのかも知れない。
くそっ、舐められた気分だ。
今度あったら完膚なきまでに倒してやる。
あ、それができたら苦労しないんだった。
「俺がサポートしながら戦えば、あるいは勝てるかも知れないな」
「ですが問題は、奴を『消滅させる力』なので、セシルにそれだけの力を発揮できるかどうか……」
「なるほど。勝敗とは別に、あいつをかき消すだけの光が必要ってことか」
しっかし、本当にどうするかな。
俺はターニャの横顔を見ながら思案する。
明日が終わるまでにワクシリルを倒さないとターニャが……。
それまでになんとかあいつを倒す方法を見つけないと。
俺は肺の中の空気を、不安に感じる気持ちと共に全て吐き出す。
可能性はいつだってゼロじゃないはずだ。
信じるんだ。自分自身を。
自分自身の力と運命を。
「た、大変です!」
バンッとチェイスが部屋の扉を勢いよく開いて入って来る。
「どうしたんだよチェイス。そんな慌てて」
「セ、セシルさんが……セシルさんたちが単独で死の島に向かったらしいんです!」
「セシルたちが?」
◇◇◇◇◇◇◇
セシルたちは小舟を使い、死の島へと上陸していた。
そこは木々など一本も生えていない、生命の活動を一切感じない、まさに死の島だ。
山とはまではいかないが、島の中央辺りが一番高くなっていて、そこに洞窟のようなものが見える。
足元には、ぼんやりと魔法陣が描かれていた。
「ここが死の島か」
「ま、私たちだけで楽勝じゃない?」
「ああ。そのつもりだ。勇者なんていなくても……俺がワクシリルを倒してやる!」
拳を握り、洞窟の方を睨むセシル。
セシルは、勇者に憧れていた。
光の力を持つ自分なら、もしかしたら勇者になれるかも知れない。
いつも心の隅でそう考えていた。
だが聖魂石に触れても、何も起こらなかった。
ナエに石が反応を示さなかった時、もしやと思ったが……
それはセシルの思い違いであった。
憧れていた勇者になれなかったセシルは一人静かに怒りを感じ、勇者になれなくとも、自身の光の力でだけで勇者を超えてみせる。
そう考えたのだ。
そして仲間たちと共に、死の島へと上陸した。
自身の力を証明するために。
自身の正義の力を証明するために。
「……セシル、ヘレン。気をつけろよ」
「どうしたのよ、ホルト」
「敵が現れた」
「?」
洞窟の方を目を凝らして見るヘレン。
しかし、洞窟から敵が出て来るような様子は無かった。
「ちょっと敵なんてどこにもいないじゃない」
「上じゃない。下だ」
「下ぁ? 下……って」
ヘレンが視線を下げると、足元辺りから腐った手が何本も伸びてきていた。
「えええっ!? ちょ、何よこれ!」
驚くヘレン。
が、普通の女子のように逃げ回るような真似はしない。
背中に背負った槍を手に取り、自分の足を掴もうとしていた手を突き刺す。
「ゾンビが……大地から……」
セシルは腰から剣を抜き、臨戦態勢に入る。
「なんか、産卵でも見てる気分」
「そんな呑気なことを言っている場合じゃない。気をつけろ、ヘレン」
「分かってるって、ホルト。あんたも気をつけなよ」
「ふっ。俺はお前ほど慌て者じゃない」
「言ってくれるねぇ」
「二人とも、行くぞ!」
「「おおっ!」」
ワラワラと地面から大量発生するゾンビ。
セシルは剣に光を宿し、突撃を開始する。
「〈
燃え上がる聖炎。
セシルは光る炎を横薙ぎに払い、一度に数匹のゾンビを燃やし尽くす。
「やるね、セシル! 私だって負けないよっ!」
セシルの光に続くように、ヘレンとホルトも力を解放して戦闘を開始する。
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