力と恋人の故郷編
第23話 運命の輪
「うーん。やっぱり太陽はいいな。太陽を浴びると、生きてるって実感できるよ」
「猫として生きてるみたいだけど?」
「これ、ケイトの要望だからね。好きで猫の姿になってるわけじゃないからね」
「そう? でも可愛いからいいじゃないか」
「可愛いなんて、俺には褒め言葉でもなんでもない」
「私は言われたら嬉しいけれど」
「男と女を一緒にしないでくれ」
森の中で野宿をして目覚めた俺たちは、眩い太陽の下でそんな会話をしていた。
現在の俺の姿は猫。
もちろん、好きでこんな格好しているわけではない。
ケイトがどうしてもと言うからだ。
命の恩人の頼みなんだ。
無下にはできない。
それに昨日約束しちゃったし……
俺は柔らかい彼女の胸に挟まれながら、その綺麗な顔を見上げている。
好きでこんな格好をしているわけではない……が、こんな素晴らしい体験をできるのなら悪くはないのかもしれない。
「…………」
「どうしたのさ?」
「あ、いや……」
柔らかい胸を堪能しすぎていたのか、無言になってしまっていた。
察しの良いケイトではあるが、なぜかこんな俺の思考は読めないようだ。
いや、読まれたら恥ずかしいから読めないのならそれでいいんだけど。
「……これからどうしようか? 復讐のためにヌールドを追いかけるか? それともケイトの呪いを解く手がかりを探しに行くか?」
とりあえず、誤魔化すようにそう話を振る。
「これからか……ああ。そう言えば、〈運命の輪〉が、アディンセルで待ってるって言ってたけど……どうする?」
「アディンセルって……」
「何? 知ってるのか?」
「知ってるも何も……俺の生まれ育った村さ」
そう。
俺の出身地、アディンセル。
ここから南西にある、のどかな村。
「そうなのか。だったら一度行ってみるか? あいつには一度会っておいた方がいいと思うし、故郷なら帰っておきたいものだろ?」
「まぁ……そうかな」
ケイトの胸を枕にして、雲一つない青すぎるぐらい青い空を見上げる。
故郷だけど、ネリアナとの記憶が多すぎて、正直ちょっとだけ辛いものがあるんだよなぁ。
それはまぁ、別にいいっちゃいいんだけど……問題はもう一つある。
だから俺は猫の姿のままで帰ることを決断した。
「じゃあ、帰ってみようかな」
ケイトは俺の言葉を聞いて、微笑する。
「ここから村まではどれぐらい時間がかかるんだ?」
「まぁ……そこそこ時間はかかると思うよ」
「……面倒だな」
「歩いたらね」
「……ああ」
ケイトは俺の考えを理解したようで、ホッとしているようだ。
そりゃ歩きっぱなしなんて嫌だよね。そうだよね。
俺だって嫌だ。
しかし俺には〈
二番目のゴーレムを倒したことにより手に入れた能力。
自分の視覚範囲と行ったことある場所に瞬間移動できるという能力だ。
なんて便利な。
俺は深呼吸し、〈
歩けば結構な時間がかかるが、〈
目の前が一瞬真っ暗になるが、パチリと瞬きをするとそこはアディンセルだった。
片田舎の村で畑などがあり、面積は無駄にでかい。
古めの家が多数建ち並び、その中でポツンと一つだけ大きな屋敷がある。
「〈
「俺も半信半疑の部分はあったけど……本当に飛べた」
自分の能力に感動しつつも、俺は屋敷から目を逸らす。
ケイトはそんな俺の反応に気づき、首を傾げて綺麗な声で訊ねるてくる。
「どうしたんだ?」
「……あれ、ネリアナの家なんだよ」
俺は肉球で屋敷を指し、ケイトに伝える。
ケイトは「ああ」と短く言い、それ以上は何も言わなかった。
「さてと。あいつを探すか……って」
「久しぶりね、ケイト」
赤いヒールをコツコツ鳴らし、赤く長い髪を揺らしてこちらに向かってくる女性。
真っ赤な口紅を引いて妖しさを含む美貌をし あまりお目にかかれないほどの大きな胸の持ち主。
ぴっちりした黒い服を着ていて、そのプロポーションがハッキリと分かる。
その人は俺の前まで来て、ジーとこちらを見下ろしてきた。
あまりの美しさに、俺は照れて目を逸らす。
この人もケイトに負けず劣らず美人だなぁ。
「この可愛い子猫ちゃんが、私たちの主なのね」
「主ぃ?」
俺は裏返った声で聞き返す。
何を言っているんだ、この人は。
「紹介が遅れました。私はシフォン。〈
「アレン様って……」
〈
彼女はさも当然のようにそう言った。
俺の下に集うって……ケイトもそんな風なことを言ってたな。
「俺が、その、世界をどうのこうのって話したのって……あなた?」
「ええ。そうです。私には未来が視えていて、あなたが世界を統一しているのが見えるのです。だけど……」
「だけど……どうなっているのかは分からない、と」
「ええ。世界を治めているのか、世界を滅ぼしているのか、それはまだ視えません」
「あのさ、世界を滅ぼすかも知れない男の下に来てどうすんのさ? そんな奴は、その、始末した方がよくない?」
「それを決めるのは世界そのもの。私はただ運命の流れに身を任せるのみ」
シフォンはあまり抑揚の無い声でそう言う。
運命の流れって……できるなら静かで穏やかな流れがいいんだけど。
激流に流される人生は勘弁して下さい。
二コリと笑みを向けるシフォンに笑みを返し、とりあえず俺は嘆息しておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます