第12話 15階層①
新たな階層に足を踏み入れると、大きな大きな扉が一つあった。
高さは5メートルほどあるだろう。
少々ヒビが入っていたり所々に焦げ跡がある石造りの巨大な扉。
それは人の行く手を阻むようにそこに在るようだった。
「どう考えても……この中は危ないよな」
「敵のいない静かなフロアに堂々と存在している扉。どう考えても安全ってことはなさそうだね」
そりゃ、扉を開いたら寝床や食料が用意されていたなんてことがあれば嬉しい限りだけど、それはないだろ。
だって、元々は魔王の根城だ。そんな親切仕様にはできてないはず。
「で、どうするのさ」
「どうするって……行くしかないでしょ。俺一人で崖を上がって行っていいと言うのならそうするけど。そのほうが安全だし俺としてはそうし――」
「そうするわけにはいかないだろ。さ、扉を開いて先に進もうじゃないか」
俺が言い終える前にかぶせて来た。
さすがにケイトも、こんなところに放っていかれるのはよろしくないと思っているようだ。
一度大きく深呼吸し、ケイトの肩に飛び乗る。
「じゃあ、扉を開けてくれ」
「猫の姿でも、これぐらい開けれるだろ?」
「猫が開けたら、様にならないだろ?」
「ふっ。たしかにそうかもな」
苦笑し、ケイトは扉に手を添える。
そして、力の限り押し始めた。
「ん……中々重いな」
「俺も手伝うよ」
ケイトの肩の上から愛くるしい前足で扉に手をつき、力を乗せる。
観音開きの扉の右側が、ゴゴゴッとゆっくり開き出す。
開いた扉の先には明かりがともっていた。
その眩しさに、俺たちは目を細める。
暗闇に慣れていたので、光が痛いぐらいだ。
「っ……なんで光があるんだよ」
「魔王が造ったんだからな」
「不思議があってもおかしくない、か」
光に慣れてきて中を確認してみると、そこは広々とした空間であった。
いくつかの柱があり、ここだけ塔だった名残が強く残っていて、壁も床も規則性がある白色の石造りでできている。
そこの天井、床、壁、全面が光を放ち、明るさに満ちた広間となっていた。
「あれ……ゴーレム?」
「ゴーレムのようだね」
空間の中心には、大きなゴーレムがいた。
人の倍ぐらいの身長に、この広場と同じような石造りの体。
ただし色は青白い。
動く気配はなさそうだ。
俺はホッと胸を撫で下ろし、ケイトの肩から降りてトコトコと近づいて行く。
「また、急に動き出して戦闘が始まるのかと思ったよ。ここを守る番人として、侵入者を襲うとかさ」
「なんだ。つまらないね」
「相変わらず他人事だね。どうせ戦うとしたら俺だけだろ?」
俺はゴーレムを前にして、ケイトの方に視線を移す。
「アレン」
「分かってるよ。モンスターと戦えば俺も強くなるんだし、文句はないさ。でも、たまには手伝ってくれてもいいだろ?」
「アレン」
「後、ケイトがどれぐらい強いのかも知っておきたいんだよ。能力が分かってる方が、いざとなった時に協力しやすいだろ?」
「アレン! 後ろ!」
「え?」
ケイトの怒鳴り声にそーっと後ろを向くと、さっきまでは真っ黒だったゴーレムの瞳に、赤い光が灯っていた。
「うおわっ!」
ゴーレムの大きな拳が振り下ろされる。
俺は〈
ゴーレムの振るった拳は地面に突き刺さり、激しく足元を破壊する。
「?」
拳の軌跡には、何か黒い光のような物が発生していた。
あれが嫌な予感の正体か。
なんとなくだが、あれを喰らうのはマズい気がする。
「魔王は自身を守るために、空間を操る力を授けたゴーレムを2体造ったと聞いている。これはその2体のうちの1体だろうな」
「空間を操る……? じゃああれは、空間を切り裂いている……ってこと?」
「断言はできないけど、そうだろうな。お前でも当たったらただではすまないだろう」
なんちゅー物騒な能力を持ってんだよ、このゴーレムは。
こんなバケモン残した魔王め……恨むぞっ。
俺は相手の攻撃の餌食にならないように、敵の周囲を駆け巡る。
ゴーレムの動きは早くない。
それに、あまり考える能力は高くないらしく、ブンブン拳を振り回しているだけだ。
だがその拳に追従する黒い光が、何とも恐ろしく感じる。
今は攻撃を喰らわないように動き回るしかない。
そして走り続けているとチャンスが巡った。
俺の動きを追いながら単純に拳を振り回しているだけだったゴーレムは、足をもつらせて床に倒れ込んでしまう。
「今だ! 〈
ゴーレムの体が炎に包まれる。
「ふー……終わった」
「終わってないよ」
「はっ?」
燃えたままゆっくりと立ち上がるゴーレム。
そしてその炎を、体を回転させてかき消してしまう。
図体からは想像できないような、早い動きだ。
「き、効いてない? どうしよう……」
まるで人が変わったかのように、素早い動きで俺に向かって走り出すゴーレム。
「え、何で? さっきまでそんな動きしなかったろ!」
「どうやら、相手によって戦い方を変えるタイプのようだね」
なんと面倒な。
ゴーレムならゴーレムらしく、単純な動きをしていてくれよ。
俺はサッと逃げ出し、ゴーレムとの鬼ごっこが始まる。
ドスドス大きな音を立てながら走るゴーレム。
スピードも遅くはない。
正直逃げ切れる速度ではあるが……逃げてるだけじゃ一生終わらないぞ。
こんな猫の体じゃなけりゃ……さっきのグリフォンみたいな体だったら正面からぶつかって戦えるのに……
なんで猫なんだよ!
今になって、猫の体に怒りが湧いてきた。
俺もこいつみたいにでかい体だったら、こんな逃げ回るような真似しなくてよかったのに。
そう憤怒の思案をした時――
自分の体がパーッと輝き出した。
「な、何? 何が起こってるんだ?」
急に目線が高くなる。
ゴーレムの顔と同じ高さになった。
何? どうなってるんだ?
「アレン……」
「なんだよ!?」
唖然とするケイトを見下ろす俺。
「お前……体がゴーレムになってるぞ」
「……ゴ、ゴーレム?」
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