第108話 深淵に繋がる穴
「ちっ、《万物操転》!」
俺は風を利用し、上昇気流を起こすことで、落下速度を軽減させ静かに降りていく。
「っ……これは!?」
宙に浮かびながら眼下に広がる光景を見て息を飲む。
何故ならそこには夥しいほどの骨があったからだ。しかも人骨はもちろんのこと、よく見れば動物……モンスターの骨なども多種多様に存在した。
そんな骨の上に降り立ち、俺は周囲を見回して呆気に取られる。
ここはまさに骨の集積場かとも思うような場所で、とても墓場と口にして良いところではない。
一体何故こんな場所が、かつての旧市街の下にあるのか。
「これは酷いわね。ケガレを生むはずだわ」
リコモが不愉快そうに顔をしかめながら言う。どうやら彼女も初めて訪れる場所のようだ。
しかもケガレはここら一帯から溢れ出ていて、それが大地を浸透して地上まで姿を現していたのだろう。
「リコモ……ここがどういった場所なのか分かるか?」
「え? 墓場でしょ?」
「まあそうなんだが、普通人の住む街の墓場は、人とモンスターを一緒に埋めたりはしない」
ペットならまだしも、中には巨大モンスターの骨まである始末だ。さすがにペットなどとは思えない。
「う~ん……よく分からないわね。アタシ、この街に住んでたわけじゃないし。それにここにある骨って、もう何百年も前のものじゃないの? さすがに生きてないわよ。アオス、アンタって『導師』なんだから何か知らないわけ?」
そんなこと言われても、俺だって初めてここに来たわけで……。
「……む? あそこ……他の場所と違ってケガレが濃くないか?」
不意に気づいたのは、視線の先にある骨山だ。そこからは他と比べても濃度の高いケガレが出ている。
「みたいね。もしかしたらあの下に、ケガレを生む直接の原因となったものがあるのかも」
「……確認してみるしかないか」
俺は骨山に向かって弓を引く。すでに骨となった存在を痛めつけることになるのは心苦しいが、今はそんなことを言っている場合ではない。
導力を込めた矢を放つと、矢は真っ直ぐ骨山の中央を貫き周囲の骨をケガレごと吹き飛ばした。
一時的にケガレが浄化されたかに見えたが、吹き飛ばした場所からやはりまだ溢れ出てくる。
俺たちは恐る恐る近づいて、どうなっているかを確認することにした。
すると骨山になっていた場所には、直径十メートルほどの穴があったのだ。まるで井戸のような人工的に造られた穴である。そしてそこからケガレが立ち昇っていた。
「何だコレは? この穴は一体どこに繋がってるんだ?」
何故墓地の下に、こんな広い空間があり、さらに地下に通じる穴まであるのか意味不明だった。
「ど、どうするのよ?」
「ケガレの根元はこの下からだ。降りてみるしかないと思うが」
「うげぇ……もうすっごく気分が悪いんですけどぉ……。それにあの子たちだって」
見れば俺が連れて来た妖精さんたちは、三人とも顔色を真っ青にしていた。
「多分強過ぎるケガレに当てられたのね。まだ二枚羽のようだし仕方ないわ」
「リモコはまだ大丈夫そうだな?」
「当然! アタシをそこらの妖精と一緒にしないでちょうだい! こう見えても百年以上は生きてるんだから!」
それは驚きだ。まさか俺と同年代とは……。こんな幼い身形なのに不思議なものである。まあ元々妖精という種は長命種なので、見たい目と年齢は比例しないが。
「妖精さんたち、君たちは外で待っててくれ」
「う……で、でもアオスさん……」
「はなれるなんてさびしいですよぉ。はぁ、これがえんきょりれんあいというものなのですね……」
「くっ……このわたしをこうまでおいつめるとは! おのれケガレめ!」
三人は俺と一緒に行動したいようだが、俺の目から見ても辛そうなのだ。
「すぐにケガレをどうにかしたら戻ってくるから。このままじゃ、三人ともケガレに飲み込まれてしまうかもしれないし」
俺は三人を説得すると、渋々といった感じだが地上へ戻ってくれるようになった。
妖精さんがケガレモノになるとは思えないが、もしそんなことにでもなったら大事だ。
「リモコもここから先は俺に任せてくれてもいいぞ」
「何を言うのよ! ケガレごときにこのアタシが尻尾を巻いて逃げるなんてできないわ! 最後まで付き合うわよ!」
「そっか。なら……俺の傍を離れるなよ?」
俺は導力で身体を覆うと、リモコと一緒に穴の中へと飛び込んだ。
先程と同じように上昇気流を上手く利用してゆっくり落下していくが……。
「どんどんケガレが濃くなっていくわね」
リモコの言う通り、闇の先からは悍ましい量のケガレが溢れ出ている。
それと同時に、凄まじい負の感情が蠢いているの伝わってきた。
憤怒、悲哀、嫉妬、後悔、憎悪、絶望、苦悩、無念、嫌悪。
そういった様々な強靭なエネルギーが混ざり合い、俺の心の奥をかき乱そうとしてくる。
「っ……!」
「大丈夫、アオス?」
「あ、ああ……問題ない。リモコはどうだ?」
「誰に百年以上生きてないわよ。これよりもっと強烈なヤツと対峙したことだってあるんだから!」
さすがは妖精の上位種だ。頼もしい。
それにしてもこれほどの負の想念。カイラが誕生させたドラゴンとは比べものにならない。一体何が原因でこんな莫大なケガレを噴出させているのだろうか……。
「……あ、下が見えてきたわよ!」
言葉通り、穴の終わりが見えてきた。
そしてどこに通じていたのか、その眼で理解することになる。
「――ここは……っ!?」
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