第104話 クエストの受注
「……っ、…………え?」
俺の攻撃により気絶していたトリーナが目を覚ます。
「わ、私は……!?」
そして周囲の状況を見て、自分が俺に負けたことを認識し、悔しそうに顔を俯かせる。
「見応えのある模擬戦だったわ、トリーナ」
「! ソーカ様! ……申し訳ございません。お見苦しい姿を見せてしまい……っ」
すぐに居住まいを正したトリーナが頭を下げる。
「頭を上げなさい、トリーナ。私は褒めているのよ。また成長したわね」
「しかし……敗北してしまいました。男なんかに……っ」
「はぁ……あなたの男嫌いも筋金入りね。別に模擬戦なのだから問題はないわよ。それに敵に敗れたわけでもなし、ギルドの名に傷もつかないわ。あなたは私が満足する戦いを見せてくれた。だから誇りなさい」
ソーカがトリーナに近づいて彼女の頭を優しく撫でる。するとトリーナは次第に顔が蕩け始めていく。
「ショ~カしゃまぁぁ~」
これまで見せてきた表情とは一変し恍惚そうに歪み切っている。どうやらソーカに心酔しているようで、ただ頭を撫でられただけで上機嫌になっていた。
「アオス、あなたも見事だったわ。私のトリーナを打ち破るとはね」
私のと聞いて、さらにトリップ状態になるトリーナ。
「ご満足頂けたなら良かったですよ。もっとも、最初から誰かと模擬戦でもさせる予定だったような気もしますけどね」
「さあ、何のことかしらね」
不敵に口角を上げるソーカ。
初めての男の所属ということで、トリーナだけじゃなく戸惑った者は多かっただろう。何者か分からない以上は不安でしかない。たとえギルマスが認めたとしてもだ。
そこで俺という人間を伝えるために、模擬戦を仕掛けた。その対応で皆に俺を図らせたというわけだろう。
「さあ、これで皆も十分理解できたはずよ。このアオスは、十二分に我が『無限の才覚』にその身を置くに相応しいだけの実力があると」
ソーカの言葉に対し、他のメンバーも次々と納得気な表情を見せ始める。
そしてソーカが俺に対し正面を向く。
「ではアオス、これから仮所属ではあるけれど仲間よ。よろしく頼むわね」
「まあ、一度決めた以上は俺も途中で投げ出したりはしませんよ。短い間でしょうがよろしくお願いします」
差し出されてきた手を取り、力強く握手を交わした。
その様子を不満気味に睨んでいるトリーナは置いておいて、他の者たちは拍手をして歓迎してくれたのであった。
「ところでさっそくなのだけれど、あなたに仕事を依頼したいのよ」
「いきなりですね」
「今の模擬戦を見込んでの仕事よ。……オリビア?」
「! まさかあの件をアオスくんに、ですか?」
オリビアが驚いている。そんなに厄介な仕事なのだろうか。どうしよう、今すぐ逃げ出したい気になってきた。
「もちろん報酬は弾むわよ。どうかしら、やってくれる?」
「そう言われても内容を聞いていないので」
「あら、そうだったわね。オリビア、頼むわ」
促されたオリビアが、一つ咳払いをしたのちに説明し始めた。
「ここから東に旧市街の遺跡があるのは知っているかい?」
「旧市街? ……あぁ、確か帝国の前身となった街でしたっけ?」
「うむ。遥か昔に存在した街で、今では旧市街跡として遺されている」
俺も聞いただけの話だが、元々はここに住んでいる祖先たちが、その旧市街に住んでいたらしい。
しかし次第に街が活性化していき人も集まってきた。環境や立地面から、街を広げるのは無理があったようで、もっと広い場所であるココに移転してきたとのこと。
そうしてどんどん街は発展していき、今では帝国と呼ばれるほどの大国家へと成長した。
「その旧市街跡に何かあるんですか?」
「ああ、どうもそこを根城にしている何者かがいて、討伐クエストが発生しているのだ」
「まさかそれを俺に?」
「そうだ。元々私が一人で調査に行くつもりだったのだが」
「ちょうど良いからオリビアと一緒にあなたも行ってきなさい。『無限の才覚』としての初仕事よ」
ソーカが挑むような視線を向けてきた。どうやらまだ試験は続いているようだ。今度は俺がクエストをしっかり達成できるかどうか試したいらしい。
しかもオリビアを向かわせるということは、なかなか難易度の高いクエストなのだろう。
「……分かりました。期限は決まってるんですか?」
「諸々はオリビアに聞きなさい。じゃあオリビア、あとはよろしく頼むわね。あなたたちも仕事に戻りなさい」
ソーカとともに、他のメンバーたちもホームの中へと戻って行く。
するとオリビアに話があるからと、彼女と一緒にゆっくり話ができる部屋へと向かった。
そこは談話室となっていて、今は俺とオリビアしかいない。
「まずはご苦労だったな。驚いたぞ。あのトリーナ相手に勝つなんてな」
「いえ、相性が良かっただけですよ。それに……まだあの人も何か隠していたようですし」
「! ほう……さすがはアオスくんだな、それに気づいていたか」
「あーそのアオスくんじゃなくて、アオスでいいですよ。これからはもう同じギルドメンバーなんですから」
「ふむ、そうか。ではアオス、よく気づいたな。確かにトリーナにはまだ奥の手があった」
何となく感じただけだ。そもそもトリーナが使った魔法は一種だけ。他にもいろいろな魔法があるだろうし、それとチャクラムを組み合わせた技だって開発しているだろう。
もっとも彼女はそれを使わずともゴリ押しで勝てると思っていたみたいだが。だから油断を突いて勝つことができた。
「ただまあ《カイザーファング》を繰り出した時は焦ったがな。アレはBランク以上のモンスターを相手にする時の代物だしな」
それはまたとんでもない技を、たかが冒険者候補に放ったものだ。マジで殺すつもりだったのかもしれない。
「それよりもクエストの話を」
「ああ、そうだったな。では概要を詳しく説明するとしようか」
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