第92話 グレンへの追及

「それにトトリの拉致と、俺に差し向けられた暗殺者の件ですが」

「!? どういうことですか? 拉致? 暗殺者? アリア先生?」


 どうやら校長にはまだ話は通っていなかったようだ。


「そのことですが……」


 アリア先生が申し訳なさそうに、俺とトトリに起きた顛末を話した。


「何故そのような大事、私に報告しなかったのですか!? アリア先生もですが、あなたもですよ、アオス!」

「……すみません」


 まあ俺も学校に通う生徒なのだ。叱られるのは当然か。


「はあ……二人とも無事に済んだから良いようなものを。生徒たちだけで行動を起こすなんて無謀にも程があります。確かにあなたは強いです。しかしアオス、あなたは私の生徒なのですよ。もっと大人を頼っても良いんです」

「……肝に銘じます」


 時間がなかったというのは言い訳でしかないことは分かる。それに生徒たちに起きた事件なのだから、校長としては把握しておきたかったはずだ。報告が遅れたのは俺の落ち度でもある。


「それでアオス、その暗殺者がどうかしたのですか?」

「はい。そいつらによると、仕向けたのはグレンだったようです」

「何ですって!? それは本当なのですか、アオス!」


 そう驚き声を上げたのはアリア先生だ。校長は目を細めて俺を見つめている。


「暗殺者どもから聞いたので間違いないと思いますよ。ただ……物証はないらしいですが」

「その暗殺者は?」

「始末しました」

「!? ……あなたが……たった一人でですか?」


 今度は校長が発した言葉だ。しかも相手が『影狼』と聞くとさらに驚愕した。


「『影狼』……暗殺者集団で名高い者たちですね。目的のためには手段を選ばない。たとえ仲間を犠牲にしてでも」

「校長は奴らを知ってるんですね」

「アオス、あなたが倒した暗殺者たちが本当に『影狼』だというのなら、よく一人で倒せたものです。それにトトリもよく無事でした。彼らの多くは元冒険者候補や、冒険者落ちなどで構成されているのですから」


 『影狼』というのは、俺が思っている以上に巨大な組織らしく、手際からまだまだ下っ端らしいということも分かった。


 もっと上の人間ならば、魔法を行使する輩が多いので、とてもではないが一人じゃ相手することができないとのこと。


 彼らはその粗暴さゆえに冒険者学校から追放された者や、犯罪を犯して冒険者資格を剥奪された者たちだという。


 弱いから冒険者になれなかったわけでも、冒険者資格を失ったわけでもない。ただ強いが故に、その強さを履き違えてしまった者たちなのだ。


 つまりは『影狼』という組織は、帝国すらも脅威と認知しているほどの厄介な存在だということである。


 グレンが雇ったのは下っ端。さすがに魔法士を動かすとなると、結構な報酬を要求されるのだろう。だからグレンはケチり、下っ端に仕事を依頼したというわけだ。


 しかしそのお蔭で、手強さもイマイチなところがあり、トトリも無事に確保することができたし、俺も苦労せずに倒せた面もある。


 もし上位の人間ならば、さすがに時間内にトトリを無事に確保できたかは分からない。


「……暗殺者の死体はどこですか?」

「すみませんが、試合が終わった翌日に確認に行ったんですが、死体の欠片もありませんでした」

「『影狼』は仲間の死体を放置しないとも聞きますから、どこかに潜んでいた仲間によって処理された可能性が高いですね。ですがアオス、やはりその日に私に事の顛末を伝えておくべきでしたね」

「すみません、校長先生。当日はいろいろあり過ぎて、正直暗殺者の件は忘れてしまっていました」


 まあ噓ではあるが。すでに灰化させてしまったので、遺体は残っていないし、奴らから物証がないという情報も取り出せていたので、俺にとってはもう用済みだった。


「しかしグレンが『影狼』を仕向けたというのは本当ですか? さすがにあなたの言葉だけでは証拠として弱いのですが」


 校長の言うことももっともだ。というよりも他の人間に頼るつもりもなかったので、結局処理しただけの話。まあ物証が残っているというのなら、それこそ憲兵にでも預けてグレンを陥れることもできたと思うが。


「はい。だから今すぐグレンを追い詰めることはできないと思います。しかしマークをつけておくことによって、いずれは尻尾を出す可能性はあります。ジェーダン……カイラが目覚めたら当然接触もするでしょうし」

「なるほど。今は泳がせておいた方が良いということですね」

「そうです、アリア先生。どうせ今問い質したって絶対に認めるわけもないですし、下手に警戒されてしまうかもしれませんしね」

「……アオスの言いたいことは分かりました。確かに証拠がない以上、何をしたところでグレンから有益な情報を聞き出せるわけではないかもしれません。ただ本当にグレンが今回の事件に関わっているとするならば、やはり放置するのも問題です。こちらでも情報を集めておくことにします」


 校長が動くというのならあとは任せておくだけだ。グレンも今回のことで、俺に生半可に手を出したところで無意味だということを理解したはず。これからはおいそれと挑発もしてこないだろう。


 なら俺はもう奴のことはどうだっていい。構うだけ時間の無駄だし面倒だ。

 ただもし次に動いた時、また俺に関わってくるようなら容赦はしない。今度こそ言い訳もできない状態で捕まえ、きっちりと処断してやるつもりだ。


 もう一つ気になってるのはジェーダン家のことだな。仮にカイラが死に、それにグレンも死んだらどうなるのか。


 当然後継ぎ問題が浮き出てくる。今回の件で、俺の存在はジェーダン家当主であるジラスに知れ渡っただろう。

 無いとは思うが、アレが俺を引き入れる可能性も……。


 いや、それはさすがに有り得ないと思って頭を振る。たとえ今更俺の方が子供の中で最も有能だと判明しても、あのジラスが掌を返すとも思えない。


 それに俺もジェーダン家に戻る気なんてさらさらない。俺は冒険者の資格を取って、世界中を旅し、すべての妖精さんと友達になるのが夢なのだ。

 煩わしい貴族なんかに関わっている暇などないのである。


「話は分かりました。また後日、今度はトトリ・オーダーからも話を聞くことにします。では最後にアオス、あなたのドラゴンを倒した方法について聞きたいのですが」




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