第78話 カイラが手にしたもの

 一方B組の控室では、カイラとある人物が揉めていた。

 その人物とは――リムア・トロアである。


「何故勝手に〝代表戦〟での決着を飲んだの?」

「いきなり何だい?」

「今回の勝負はあなただけのものではなかったはずよ! それなのに勝手に一人で〝代表戦〟を受けるって決めるなんて!」

「別に構わないじゃないか。校長からの提案なんだしね」

「たとえ提案だったとしても、四人でダンジョンを攻略していたのだから、私たちに意見を求めても良かったでしょう! アオス・フェアリードだってそうしていたじゃない!」

「っ……アイツがしたから何だっていうのかな?」


 アオスの名前を出され、明らかに不機嫌になるカイラ。


「あなたたちだってそう思うわよね?」


 リムアは同意を得ようと、ジャヴとクーリエにも顔を向けた。


「う~ん、俺はどっちだっていいけどなぁ」

「僕は……その……ジャヴくんと同じで……」

「ほら見てみなよ。二人だって別に問題にしてないじゃないか」

「くっ……なら私が〝代表戦〟に出るわ!」


 その発言に対し、カイラは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。


「君が? そんなの無理に決まってるじゃないか。校長は僕を名指しにしたんだよ? 観客たちだって僕を望んでる。クラスメイトだってそうさ。君の出る幕はないよ」

「しかしあなたはこの〝攻略戦〟で、私とアオスが戦うのを了承していたわ!」

「〝攻略戦〟……ではね。けれどこれから始まるのは〝代表戦〟だ」

「〝攻略戦〟の延長戦のようなものでしょ! だったら私にも出る権利はあるはずよ!」

「はぁ……何でそこまでムキになってるんだい? フェアリードとそうまでして戦いたいの?」

「ええ、そうよ」

「理由は?」

「彼には特別な力がある。今の私にはない力が。それを知ることで、きっと私はもっと強くなれる気がするのよ」

「アイツに特別な力だって? アハハハハハ!」


 カイラは腹を抱えて笑う。


「何がおかしいのよ!」

「止めてくれよ。アイツに特別な力なんてないよ、あるわけがない!」

「何故そんなことが言えるの! 現に彼はその実力で特待生として選ばれているわ! 何も知らない、何も見えてないのはあなたでしょ、ジェーダン!」

「はは、僕が何も見えてないわけないじゃないか。断言してもいいよ。この会場にいる中でアオス・フェアリードのことを誰よりも熟知しているこの僕さ」


 カイラの言葉に、「……は?」と呆けたような顔をするリムア。


「アイツ自身に力なんてないよ。ただの『魔力無者』で、ちっぽけな存在さ。それを卑怯な方法で大きく見せてるだけ」

「あ、あなた何を言って……」

「ああもう鬱陶しいよ。これから集中するから出てってくれないかな? ジャヴ、クーリエ、頼むよ」


 カイラに頼まれ、ジャヴとクーリエがリムアの腕を取って、控室から出て行こうとする。


「ま、待って! まだ話は終わってないわよ!」

「あまり駄々をこねるもんじゃねえって、トロア」

「僕も……その……仲間同士で争うのは……ダメかと思う」

「は、離しなさい! ジェーダン、私は認めないわよ! アイツの……アオスの実力は本物よ! それを認識できてないあなたに、私たちのリーダーは務まらないわ!」


 そう言い放ちながらも、リムアはジャヴたちに引きずられ外へ出て行った。


「やれやれ、何も分かってないボンクラの相手は疲れるね」


 するとその時、扉がまたすぐに開いたので、


「はぁ、まだ何か文句でも……って、兄さん?」


 カイラの視線の先には、リムアではなくグレンがいた。


「よぉ、いきなり悪いなカイラ」

「別に構わないよ。もしかして何か嫌みでも言いに来た?」

「はは、まあストレートに勝ちを拾えなかったのは痛かったけどな。でもアオスを仕留められなかったのは俺の落ち度でもあるし」

「ああ、例の暗殺者の件か。別にそれはもういいよ。それで要件は何?」

「なぁに、お前に良いものをくれてやろうって思ってな」


 そう言ってグレンは、懐から小瓶を取り出した。小瓶の中には菱形の紅石が一つ入っている。


「それは?」

「これは俺が所属してるギルドが開発した薬だ」

「開発? ああ、そういえば兄さんは研究ギルドに所属してるんだったね。それでそれは何の薬なんだい?」

「まだ試作段階だが、コイツを服用すれば今の三倍以上もの強さを得られるって聞けばどうだ?」

「!? ……詳しく聞かせて?」

「お、興味出てきたな? コイツは――《竜彌薬りゅうびやく》っていってな、その名の通り、最強のモンスターとされるドラゴンの力をその身に宿すことができる代物だ」

「ドラゴンの?」


 この世界に存在するモンスターは数あれど、最強種と名高いのは『竜族』とされている。


「ただまだ試作段階だし、薬の効果も三分程度。終わった後は間違いなく動けなくなるだろうが、どうする? 使うか?」


 グレンが小瓶を振りながらカイラに見せつける。

 カイラは中でコロコロと転がる薬をジッと見ながら息を飲む。


「本当に今の三倍以上の力が手に入るのかい?」

「ああ。それはデータ上間違いねえよ。お前が三倍状の力を得られれば、たとえアオスがどんなマジックアイテムを使おうと敵じゃねえだろうぜ」

「………………いいさ、兄さんの実験に付き合ってあげるよ」


 そう言いながらカイラは小瓶を手にした。


「一つ忠告をしておくと、飲むのは一錠だけにしとけよ。それ以上はお前の身体が持たねえしな」

「まあ、こんなものに頼らなくても決着はつくと思うけどね」

「ハハ、じゃあ期待して見てるぜ。頑張れよ、カイラ」


 最後にグレンがカイラの肩を軽く叩き、そのまま控室から出て行った。

 残されたカイラは、小瓶に入っている数粒の紅石を見つめながら、静かに口を開く。


「これで準備は整ったぞ。アオス……お前を完膚なきまでに駆逐する準備がな」




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