第54話 妖精大集合

 時計塔を登るには長い螺旋階段を上っていくしかない。

 だがいちいち階段なんて上っていられないので、


「――オルル、聞こえる?」


 俺は遥か彼方にいる森の女王へと話しかけた。


〝どうかされましか、アオス様?〟

〝妖精さんたちの力を貸してもらいたいんだ〟

〝! どうやら緊急事態のようですね。了解しました。ではさっそく〝ゲート〟を開きますね〟


 俺は彼女から了承を得ると、パンッと合掌する。


 すると俺の周囲の空間が歪み始め、そこから次々と妖精さんたちが現れてきた。

 一人、また一人と、次々と周囲を小さな存在が埋め尽くしていく。


「なにかごよーですかぁ?」

「よばれてきましたー」

「アオスさんのためなら、ひのなか、みずのなか、あのこの――」

「それいじょうはいっちゃダメー!」

「きゃはは! ひまつぶしにきましたぞー」


 などと妖精さんたちが楽しそうに声を上げている。

 きっと妖精さんたちの姿が見えたなら、この場は異様な状況になっていたことだろう。


「ありがとう、オルル。妖精さんたち、頼みがあるんだ」

「なんですかー?」

「なんでもござれですぅ」

「しかしおなかへったので、できればごほうびにきたい」

「あまいものー、おまいものー」

「わたしはいっしょにねてほしいです」


 俺の言葉に即座に反応する妖精さんたちに、思わず苦笑を浮かべてしまう。


「ああ、やってくれたらご褒美を用意するよ」

「「「「おおー!」」」」


 嬉しそうに空を翔け回っている。


「アオスさんからのごほうび!」

「うむうむ! これはきたいせざるをえない!」

「わ、わたしはあまいものとあたまナデナデがいいですぅ」

「ズルイ! だったらわたしは……えーと、えっとぉ……」

「とにかくそうぞうするだけでよだれがでてきますなー」


 あはは、本当に賑やかだな。でも今は一刻を争う。


「とりあえず聞いてほしい。今からこの鞭に残っている魔力残滓を感じ取ってほしい。そしてこの街のどこかにいるであろう、その魔力の持ち主を探し出してほしいんだ」


 トトリが襲われたのは恐らく俺と同じ昨日の夜。人一人担いでこの街から抜け出すのは目立つし、毎晩憲兵が門や外壁周辺を見回っている。


 だから恐らくはまだこの街に滞在しているはずだ。しかしだからといって、この街の規模は広過ぎる。すべてを調べ回っても、終わる頃には一日が終わっているだろう。


 だが妖精さんたちなら問題ない。元々感知する能力に長けている彼女たちなら、これだけの数がいればトトリもすぐに見つけ出してくれるはず。


「おやすいごよーなのです!」

「むむむ、これはひさびさにきあいをいれねば」

「アオスさんのおねがいはめずらしいので、がんばりがいがありますよー!」


 妖精さんたちもやる気を見せてくれている。


「じゃあすぐに頼む。俺はこの時計塔にいるから、見つけたらすぐに報告してくれ」

「「「「はーい! いってきまーす!」」」」


 まるで花火のように四方八方に飛んでいく妖精さんたち。

 あとは報告があれば、できるだけ速やかに行動できるように準備しておくことだ。


「トトリ……無事でいてくれよ」



     ※



 アオスさんと別れて、すぐに学校へと向かった私たちは、彼に言われたようにアリア先生を探して、トトリさんのことを伝えた。


「――それは本当ですか?」

「はい、アリア先生。今、アオスさんが必死に探してくれていると思いますけど」

「彼が? 一人でですか? この広大な街の中を?」


 そう言われてしまえば、どう考えても無謀に思える。たとえ私たちが一緒に探したとしても、一日かかっても見つけ出せない可能性が高い。


「アオスさんには何かしら探す手段があるらしいんです。すぐに見つけてここへ来るとのことでした」

「そんな手段が? しかし……やはり私も探しに行きます!」

「え、でももうすぐ〝攻略戦〟も始まりますし!」

「今はそのような些末なことよりもあの子の方が大事です!」

「アリア先生……」

「へへ、やーっぱアリア先生も、妹が好きなんだよな! 俺には分かってたぜ!」


 隣にいるお兄ちゃんがニカッと笑みを浮かべてグーサインを見せつけてきた。


「けどなアリア先生、安心しろって。あのアオスが一切躊躇なくダイジョーブだって言ったんだ。だったら……信じる価値はあるぜ」

「何を根拠に! 彼はまだ冒険者にもなってない候補生でしかないんですよ!」

「けどできないことをできるって言う奴じゃねえだろ?」

「そ、それは……」

「アイツには何か俺たちには言えねえもんがある。それが何か分からねえけど、先生も何となくそれに気づいてるんじぇねえの? だから俺たちのチームリーダーを任せたっぽいし」

「あなた……そこまで分かってて」


 お兄ちゃんの鋭さにアリア先生が驚いている。無理もない。お兄ちゃんは単純バカだとか猪とかよく言われてたけど、ちゃんと人を見る目だけはあるのだ。


 そしてたまにだが、本当に的を射たようなことを言う。いつもこうであったなら私も楽なのだが。


「もうそろそろ〝攻略戦〟まで三十分前だろ? 今から俺たちが出てってもタカが知れてる。だからさ先生、アイツを信じてやってくれよ」

「もし……ダメだったらどうするんです?」

「その時は、その時になった時に考えりゃいいじゃん!」

「シン助、あなたは……」


 ごめんなさい、先生。お兄ちゃんは基本的に何も考えてないんです。ただ思ったことを口にするだけで。


「……しかし一応憲兵には報告しておきます。今すぐあの子を探しに行きたいのは山々ですが、今はアオスを信じて教師としての義務を果たすことにしましょう」


 これで私たちの任務は終わった。あとはアオスさんがトトリさんと一緒に来てくれることを願うだけ。


 アオスさん……無事に戻ってきてくださいね。





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