第48話 嘘も方便

 翌日に〝ダンジョン攻略戦〟を迎える。


 今日はそのための仕上げとしての最後の攻略実習としてダンジョンへやってきていた。


 もちろん背後には、俺たちの一挙手一投足を逃すまいと厳しい目つきで監視しているアリア先生もいる。


 アリア先生曰く、今日は自分からは何も言わないので、これまでの成果を四人で力を合わせて見せてほしいとだけ言われていた。


 とはいっても、まだまだチームとしての力なんて最低ランクのままだ。


「よーし! 今日も張り切ってモンスターを殲滅してやるぜ!」


 その原因の一端を担っているシン助は、いつにも増して個人技を披露する気満々だ。


 九々夜が言うには、先日の俺の模擬試合を見てから、自分も負けていられないと、ずっとテンションがおかしいらしい。


 いや、コイツのテンションは常におかしいから。


 思わずそうツッコむと、九々夜も何も言えずにただ空笑いをするだけだった。


 ただ控室でアリア先生に言われてから何もしてこなかったわけじゃない。比較的チームワーク型の九々夜と話し合って、シン助をどうコントロールするか意見を出し合ったのだ。


 やはり兄妹ということもあって、彼女からは有益な情報を得ることはできたものの、問題はトトリだった。


 そもそも彼女は、できれば冒険者になどなりたくはないし、本当に最低限のことしかしてくれない奴である。

 まだやる気があるシン助の方が扱いやすい。


 やる気のない奴にやる気を出させるのは困難だ。何とかして強制力を持った案が必要になってくる。


 一番簡単なのは、孤児院の子供たちを人質に取って言うことを聞かせる手法だが、これは完全に悪手だ。一時的には良いかもしれないが、すべてが終わったあと、俺は衛兵に突き出されて牢屋行きだろう。さすがにそんなリスクは冒せない。


 ただまずはシン助の猪突猛進ぶりを何とかしないといけない。


「なあシン助、ちょっといいか?」

「んお? 何だ何だ?」


 俺は皆から少し離れた場所にシン助を連れて行く。


「攻略を始める前にお前に頼みがあるんだ。……お前を男と見込んで、な」

「!? 俺を……男と見込んでだと?」 


 プルプルと身体を震わせ、パァッと笑顔になるシン助。


「よっしゃ! いいぜ! 俺を頼ってくれ!」

「そうか。実はな、ある教師に俺は目を付けられてしまってるんだ。今度の〝攻略戦〟で俺がリーダーになって、メンバーをちゃんと活かせなきゃ……特待生を止めさせるって」

「ある教師? 誰だよ?」

「それは言えない。言えば……お前にも迷惑がかかる」

「んだよそれ! 水臭えぞ! 友達じゃねえか!」


 ……よし、食いついてきたな。


「ああ、そうだな。でもだからこそだ。俺も友達だって思ってくれてるお前に迷惑をかけたくないんだ」

「アオス……お前」

「それにちゃんとできれば問題ないんだ。シン助、俺は特待生で居続ける必要があるんだ。そうしなきゃ、悲しませる人がいるから」

「…………!」

「お前は強いし、誰かに指示を出されて動くのは性に合わないかもしれない。でも……でも、頼む! 今回の〝攻略戦〟だけでいいから、俺の指示通りに動いてはくれないだろうか?」


 俺がスッと頭を下げると、しばらくしてシン助が俺の肩に手をポンと置く。


「頭を上げやがれアオス! ダチにいちいち頭下げてんじゃねえよ!」

「……シン助?」

「お前はこの俺が認めた奴だ! だから任せろ!」

「じゃあ俺の指示に従ってくれるのか?」

「おうよ! けどあまりにも酷い命令はゴメンだぜ!」

「おお、ありがとうシン助!」

「ナハハハハハ! 礼なんていいっての! 俺にドンと任せろ! ナーッハッハッハ!」


 ……ああ、バカで良かったぁ。


 もちろん今俺が話したことは全部嘘である。


 俺は機嫌良く高笑いするシン助から、視線を九々夜へと移す。彼女は「やりましたね!」と言わんばかりに大きく頷く。


 シン助をコントロールするには、その人情に訴えかけるのが一番だ。

 そう九々夜に聞かされていた。


 普通なら今の話なんておかしいところが多いので、すぐに疑問を持ったりするものだが、単純バカのシン助は基本的に物事を深く考えないのだ。


 彼にとって大切なのは、自分にとって正しいか正しくないかだけ。

 俺が失敗すれば困る。友人だと思ってくれているシン助も困ってしまう。だから助ける。


 そんな単純な思考で彼は動いているのだ。故に今のような流れを作ってやれば、彼は素直に言うことを聞いてくれるというわけである。


「むぅ、ウソはいけないとおもいますよ!」

「でもぉ、ウソもホウベンっていいますし。それでアオスさんがしあわせになれるなら、わたしはいいとおもいますよ~」

「ウソはやがてどんどんおおきくなっていく! ときにはとりかえしのつかないことになりかねないこともある! それをキモにめいじておくのだ!」


 まあ俺だって好きでついているわけじゃないしな。ただまあ今回程度の嘘なら別に良いとも思う。バレても多分、シン助なら「ちっきしょー、騙されちまったぜー!」とか何とか言って笑い飛ばすだけだろうし。


 それでも妖精さんたちの言っていることも間違っていないので、確かに肝に銘じておこうと。


 さて、あとはトトリだが、彼女を俺の思う通りに動かすにはどうすれば良いか。



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