瞬間制圧
物騒……いや、それ以上の不穏な気配を持つ言葉を発した生徒たちが武神刀を構えながらじりじりと距離を詰める。
燈と、蒼と、他の仲間たちと……未だにこちらに対抗する動きを見せない蒼天武士団の面々を睨む彼らは、完全に思考を放棄している様子だった。
「おやめなさい! そんなことをしてなんになるのです!?」
「先生は黙っててくれ! これは俺たちが平和に生きていくために、どうしてもやらなくちゃならないことなんだ!」
「そうよ! こいつらさえ消えれば、私たちは――っ!!」
昼間、燈たちと話した男女が手にした武神刀を強く握り締めながら叫ぶ。
仲間たちの先頭に立つ彼らは、威勢のいい言葉を発することで自分たちを鼓舞し、人を斬るという行為を何とか実現させようとしているように見える。
やらなきゃやられる、自分たちの生活を守るためだ、これは仕方がないことで、悪いのは自分たちに情けをかけてくれない燈たちの方なんだ……と、自分たちの行動を正当化し、燈たちを斬るべき敵だと自分に言い聞かせる生徒たち。
そんな彼らの興奮がピークに達しようかといったところで、不意に燈が口を開く。
「……いいんだな? 本気で俺たちを斬ろうっていうんだな?」
「そ、そうだ……! おおお、お前らが悪いんだからな! お前たちさえ黙っていてくれれば、こんなことにはならなかったんだ!」
「……そうか、なら仕方ねえな。蒼、悪い。椿のことを頼む」
「……ああ、わかった」
自分たちの中で唯一戦闘能力のないこころを庇うように蒼が自身の立ち位置を移動すると共に、ここまで一切動きを見せなかった燈がすっくと立ちあがる。
そのまま、腰の『紅龍』へと手を伸ばした彼は、その柄を握ると共に改めて視線の先に立つ男子生徒へと問いかけを発した。
「本当にいいんだな? お前たちは、本気で俺たちを斬ろうとしている。つまり俺らと命のやり取りをしようって言ってんだな? まさか、俺たちがなにも抵抗せずに斬られるだなんて思ってるわけじゃあねえよなぁ!?」
「ひっ……!?」
一気に解き放たれた燈の威圧感と殺気を浴びた生徒たちが、小さな悲鳴を上げた。
自分たちの中で膨れ上がっていた殺意を凌駕するその気に、燈が発する強者の覇気に、格の違いを思い知らされた彼らは瞬時に戦意を萎えさせ、全身をぶるぶると震わせて恐怖し始める。
「……そういうことだ、お前らが言ってるのは。殺される覚悟もねえくせに、他人を殺そうとするんじゃあねえよ。そんだけの気概があれば、学校でも上手くやれただろうに」
「う、うわあああああああああああっっ!!」
安全な学校の中でぬくぬくと過ごしてきた生徒たちと、厳しい修行を経て力をつけ、幾度となく視線を潜り抜けてきた燈。
両者の力の差は圧倒的であり、天と地という表現すらも生温い格差が存在している。
殺す覚悟も殺される覚悟もなく、むやみやたらに力を振りかざして相手を威圧しようとする脱走者たちを気当たりのみで制圧した燈であったが、先頭に立っていた男子生徒はそんな彼の優しさを無視するようにして、半狂乱の叫びをあげながら駆け出した。
狭い部屋の中で上段に武神刀を構え、その腕の支えは鍛えていないが故に心許なく、更にいうならばまともな構えすら取れていない彼が、気力を垂れ流しながら燈へと距離を詰める。
自分が何をしているのかも理解出来ないまま、ただ狂った心のままに燈を斬り捨てようとした男子生徒であったが……彼が武神刀を振り下ろすよりも早く、握り締められた燈の拳がその腹に叩き込まれた。
「ぐえっ……!?」
鍛えていない柔らかい腹部に強烈なブローがめり込み、その威力に体をくの字に曲げた男子生徒が苦悶の呻きを漏らす。
そのまま、がっくりとその場に崩れ落ちた彼の手から零れ落ちた武神刀を蹴り払った燈は、それを涼音が回収したことを確認してから残る生徒たちへと言った。
「これが最後の手加減だ。次はねえ。本気で死にたい奴だけ、かかってこい」
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