五日目・昼



「一大事だ。蒼天武士団結成以来の大事件だぞ、これは」


 一刻後、逢引を中断して帰宅した燈と栞桜は、外出中のやよいを除いた蒼天武士団の仲間たちを集め、緊急会議を開いていた。

 先程甘味処の女将から聞いた話を仲間たちにも伝え、のっぴきならない事情を解説した後……一同は、この会議で最も重要なポジションに就いている男へと視線を向ける。


「おい、どうすんだよ蒼!? やよいに彼氏がいるかもしれねえんだぞ!?」


「どうするって言われても……別にどうこうする必要もないじゃないか。蒼天武士団の活動に支障をきたしているわけでもないし、僕がやよいさんの恋路を禁止する理由なんてどこにもないわけで――」


「はぁぁぁぁぁ……お前、お前なぁ。お前がそんなだからやよいも……はぁぁぁ……」


「ない、その反応はない。本当に、ない」


「蒼さんには悪いけど、私もそれは駄目なんじゃないかな~、って思います……」


「なっ、なんでさ!? 僕は蒼天武士団の団長として、扱く真っ当なことを言ったはずなんだけど!?」


 燈からの質問に答えた自分へと寄せられる三人娘からの辛辣な言葉に反発した蒼が、その場に立ち上がりながら疑問の声を上げた。

 なにも自分は間違ったことは言っていないはずだ、と……そんな風に自信を持って言い切る蒼であったが、そんな彼の親友である燈は、大きな溜息を吐いた後で諭すような口調でこう述べる。


「あのな……俺たちが聞きたいのは、蒼天武士団の団長さまのご意見じゃあねえんだよ。蒼、お前っつー男の正直な想いっていうか、本音を聞きたいわけ」


「ほ、本音って……だから僕は、さっきも言った通り――」


「やよいの恋愛を止めるつもりはねえって言いたいんだろ? 確かにお前の言う通り、別に蒼天武士団には恋愛禁止の法度はねえよ。あいつが本気で誰かを好きになったとして、それを止める権利はお前にも俺たちの誰にもないってのも同意だ。俺たちが言ってんのはそういうことじゃなくて、目の前でやよいが他の男に掻っ攫われそうになってるってのに、お前はなにもする気がないのかって聞いてるんだよ」


「………」


 親友の噛み砕いた説明に、口を噤んで視線を逸らす蒼。

 煮え切らないその態度に栞桜は苛立ちを募らせているようだが、こころたちからの目配せによって何とか怒鳴り付けたくなる気持ちを抑え込んでいるようだ。


「……逆に質問するけど、君たちは僕にどうしてほしいんだい? 今から逢引に出掛けたやよいさんを追いかけて、連れ戻してくれば満足するかい?」


「別に、そんなことは望んじゃいねえよ。俺たちはただ、お前が後悔さえしなけりゃあそれでいい」


 半ばやさぐれたような意見を口にした蒼へと、真剣な眼差しを向けながらそう告げる燈。

 似たようなことを師匠である宗正からも言われていた蒼は、その言葉に居心地の悪さを感じて、また押し黙ってしまった。


「別に、お前が本気でやよいのことをただの仲間だとか、頼りになる副長としか見てねえってんならそれで構わねえさ。でも、傍から見てるとそうは思えねえんだよ。ここでまごついて、手をこまねいている間に取り返しのつかないことになって、お前は後悔しないか? それでもいいって、本気でそう思えるのか?」


「………」


 本心に問いかけるように発された燈の言葉に、何も言わずに黙る蒼。

 やはり煮え切らず、男らしくないその態度に栞桜の堪忍袋の緒が切れようとした瞬間、彼女に代わって涼音が口を開いた。


「一つ、質問してもいい? あなたとやよいが同じ部屋で夜を過ごすようになって、もう四日は過ぎたはずだけど……その間に、何か進展はなかったの? というか、やよいがあなたを誘うような言動を取ったことはなかった?」


「………」


 涼音からの質問にも何も答えず、顔を逸らすだけの蒼。

 しかし、そんな彼の態度こそが全ての答えだと納得した彼女は、目を閉じて大きく頷くと共に正直な感想を述べてみせた。


「そう、そうなのね。女の立場から、はっきり言わせてもらうと……やよいが可哀想よ。あなた、本当に酷いことしてるわ、蒼」

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