面倒臭いことになる予感の相談

 修行の後と食後に続き、本日三度目の露天風呂への入場を行った栞桜は、そこにいた親友の姿にちょっとだけ驚きを露わにする。

 というのも、体を洗っているやよいは全身を泡で包んだ真っ白な姿を見せており、小柄な体格も相まって、今の彼女はまるで羊のようだと栞桜は思う。


 この時間帯に入浴していることも含めて、どうにも今日のやよいは普段とは違うような気がしなくもない。

 まあ、純粋に独りぼっちの入浴で暇を持て余して、遊んでいるだけという可能性もあるか……と、感じた違和感を拭った栞桜は、抱いている諸々の感情を必死に隠しながら、偶然を装ってやよいへと声をかけた。


「お、お、やよい。偶然だな。お前も遅風呂か?」


「んぁ……? ああ、栞桜ちゃんか。珍しいね、こんな時間にお風呂入るだなんて」


「ま、まあ、少しな。今日は稽古で汗をかいたし、少し体の臭いが気になってだな……」


「ふ~ん……そっか。そうなんだ」


 興味なさ気に適当な返事を口にした後、やよいはまたしても泡だらけにした手拭いで全身を擦って自分の体を洗い始める。

 念には念を入れてとばかりの執拗なその洗いっぷりには栞桜も少し首を捻ったが、今の彼女にはそんなことよりも大事な用件があるのでそれはそれで放置しておくことにした。


(相談、相談だ。今の私の悩みを、こいつに相談しなくては……)


 今、この風呂には自分たち以外の誰もいないし、この時間帯から入浴しようとする者もいないだろう。

 内緒の相談をするには絶好の機会。ここを逃すわけにはいかない、のだが――


(ま、待て。相談するとして、どう話を切り出す? どんな感じで話をすればいい!?)


 ――この時点になって、ようやく最も大事な話の切り出し方というものをどうするか考えていなかったことに気が付いた栞桜は、ひくひくと口の端をひくつかせながら最初にして最大の難題に頭を悩ませ始める。

 よもや、こんなところでいきなり躓くだなんて……と、自分の不用意さに歯噛みしながら、栞桜がどう話を切り出したものかと悩み続けていると……?


「……ねえ、栞桜ちゃん。ちょっと聞いてみてもいい?」


「お、おお? な、なんだ? わ、私で良ければ、話くらいは聞くぞ?」


 不意に口を開いたやよいが、自分がしようとしていた相談を持ち掛けてきたことに驚く栞桜であったが、どもりながらも快く親友からの願いを引き受ける。

 考えようによってはこれは好機だと、やよいからの相談を聞いた後に自分からもという形で相談を持ち掛ければ、割とすんなりと話が進むかもしれない。


 とまあ、そんな風に渡りに船とばかりの状況に少し希望を見出した栞桜だったが……次の瞬間、やよいが発した言葉を耳にした彼女は、盛大に噴き出す羽目になってしまった。


「それじゃあ、ちょっと変な話だと思うんだけどさ……男の子が自分とよく似ている女の人が描かれた春画を持ってた時、どうすればいいと思う?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る