タクトの悪夢

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――――――――――



「な、なんだ? 誰の声だ……?」


 突然に、頭の中に響くように聞こえた謎の声に驚き、顔を上げて室内を見回すタクト。

 その声はしわがれた老人のもののようであり、まだ若々しい少女のもののようでもある、得体の知れない声だった。


 よもや、嫉妬に狂った自分の精神が異常をきたし、幻聴を耳にしてしまったのでは……と、不安な気持ちを抱いていたタクトであったが、部屋の入口に視線を向け、そこに立っている少女の姿を目にして、驚きの表情を浮かべる。


「可哀想だね、英雄さま……ほんと、可哀想……!!」


「あ、や、や、やよい……っ!!」


 いつの間にか、物音を立てずに部屋の中に侵入していたやよいが、蠱惑的な笑みを浮かべながら近づいてくる。

 部屋の中で狙っている少女と二人っきりという、絶好のシチュエーションにごくりと涎を飲んだタクトへと、どこか煽情的な雰囲気を放つやよいが囁くようにして語り掛けてきた。


「慰めてあげよっか? 哀れで、悲しい、空虚な英雄さまを、さ……!!」


「な、慰めるって、どういう……!?」


「ふ、ふふ……っ! わかってる癖に。こういうことだよ……」


 笑みを湛えたままのやよいが、タクトにそう告げて着ている衣服を脱ぎ始める。

 羽織、袴、小袖……それらをタクトの興奮を煽るように脱ぎ捨て、徐々に滑らかな肌を露出していった彼女は、最後に残った乳押さえとふんどしをほぼ同時に脱ぎ捨て、生まれたままの姿を曝け出す。


「お、おぉぉぉぉ……!!」


 小柄で可愛らしい体躯に反して育った乳と尻が、傷一つない美しい肌が、そして、女性の最も大事な器官が、自分の前に曝け出されている。

 やよいの裸体を目の当たりにして感嘆の息を漏らし、興奮に醜い欲望をそそり立たせるタクトは、その願望のままにやよいへと手を伸ばしていった。


「や、やよい……やよいぃぃぃ……っ!」


 どうして彼女がこんな真似をするのかは判らない。ただ、こんなチャンスを逃すだなんて馬鹿な真似はしたくない。

 据え膳食わぬは男の恥。幸運の女神には前髪しか存在していない。理由はなんであれ、望む物を手にする機会が訪れたのだから、手を伸ばさなければ……と、裸のやよいに救いを求めるタクトであったが、全裸になった彼女はそんな彼を一笑に附すと、その手を払い除けた。


「あっ……!?」


「慰めてほしかった? あなたのものになってほしかった? ……だ~め。だってもう、あたしは他の男のものにされてるから……!!」


「う、うあぁ……!?」


 愕然とするタクトの口から、絶望に満ちた声が搾り出される。

 彼の目の前で、全裸になったやよいは、突如として出現した蒼の腕に抱かれ、恍惚とした表情を浮かべていた。


 たわわに実った双房を、柔らかく張りのある肌を、そして、彼女の最も大事な器官を……蒼の手が這い、弄る。

 その愛撫の一つ一つを受ける度に甘い声で喘ぐやよいの姿を呆然と見つめていたタクトに向け、頬を紅潮させた彼女が嘲笑うようにして吐き捨てた。


「あなたは、あたしに敗れた。あなたは、あたしより弱い。八岐大蛇を倒そうとも、英雄として祭り上げられようとも、あなたはあたし以下の男でしかない。そんな男に靡く女なんていない。あたしも、あたし以外の全ての女も、あなたなんか愛さない」


「あああ、あ、あうぅ……!!」


「ふ、ふ……! ねえ、見て。あたしを抱く彼のこの手、とても力強くて大きいでしょう? 国士無双と呼ばれ、国中から賞賛と羨望を集める彼こそが、真の英雄と呼ばれるに足る存在なの。あたしを組み伏せて、徹底的に求めて、躾けて、理解わからせて……そうやって、あたしのことをものにした、とっても強い男なんだよ」


「うぅぅぅぅぅぅぅぅ、うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」


「ほら、あなたはそうやって泣いてるばかり。目の前で好きな女が他の男に抱かれても、膝をついて泣き喚くことしか出来ない……やっぱり、あなたは英雄の器なんかじゃない。彼とあなたでは、月と鼈くらいの差がある。これからあなたはどんどん、どんどん落ちぶれて、無様に堕ちていくんだろうね」


「やめろぉ、やめろぉぉぉぉぉぉぉ……っ!!」


 仲睦まじく、自分の前で唇を重ねる二人の姿を目の当たりにしたタクトの口から、悲痛な呻きが漏れる。

 やよいに指摘されたくない胸中の不安を言い当てられ、それを否定することも出来ずに想い人を他の男に奪われる屈辱を味わい続けた彼の体に、変化が起こり始めた。


「あ、ああ……? なんだよ、これ? どうなってるんだよ!?」


 手が、足が、顔が……段々としわがれ、細くなり、非力な老人のものになっていく。

 若々しさを誇っていた肉体が一瞬のうちに老人のそれになってしまったことにタクトが絶望していると――


「タクトさま、タクトさま……」


「あ、ああ、あああ……? き、君、は……?」


 先程までやよいと蒼がいたはずの場所に、美しい女性が立っていた。

 自分の名を呼ぶ彼女に見覚えを感じたタクトは、呆然とした声でその名を呼ぶ。


「ゆ、百合姫、なの、か……?」


「何を仰っているのです? もう、頭まで弱ってしまったのですか?」


 自分を軽蔑したような、そんな眼差しと言葉を向ける女性に百合姫の面影を感じたタクトは、彼女の言動に衝撃を覚える。

 気が付けば、周囲の景色も鷺宮家の客室ではなく、どこか寂れた邸宅の一室へと変化していることに気が付いた彼が動揺する中、冷え切った視線を向けてくる百合姫がその眼差しと同じくらいに冷えた声色で侮蔑の言葉を投げかけてきた。


「私があなたの側室となってから、五年の月日が経ちましたね。その間、あなたは目立った功績もあげられず、他の英雄の影に隠れ続けた……」


「ご、五年? 何を言ってるんだ? ぼ、僕は、君とこれから結婚するところで――」


「……可哀想に。『黒雷』を使い続けた副作用で、そんなに呆けてしまいましたのね。まだ齢二十を過ぎたばかりだというのに、非力な老人になるまで落ちぶれてしまって……情けないことこの上ありませんわ」


「え? えっ……? ふ、副作用? 『黒雷』の、生命力を使う力のこと? そんな、だってあの人は、そのデメリットを帳消しに出来るって――」


「製作者の予想を超えた乱用を繰り返したのでしょう? あなたがどんな説明を受けたかは知りませんが、結果は何も変わりません。あなたは既に老いぼれ、刀を振るうどころかまともに立ち上がることすら出来なくなった。あとどれくらい生きられるかもわかりませんわね」


「そ、そんな……ぼ、僕が、そんな人生を送ってるだなんて……!?」


 もう、タクトには何もかもが信じられなくなっていた。

 全てが悪夢であるようで、紛れもない現実であるようにも思える。

 非力な老人へと落ちぶれてしまった今の自分自身を否定したくとも、心の何処かでこれは現実だという声が鳴り響いて止まらないのだ。


「ぼ、僕はどうすればいいんだ……? 教えてくれ、百合姫……!」


「……さあ、私にはどうでもいいことです。そんな話をするために、あなたの前に馳せ参じたわけではありませんので」


 五年前の優し気な少女としての姿を完全に失っている百合姫は、助けを求めるタクトの懇願を斬って捨てた。

 そうした後、形式上そうしなければならないから渋々そうしているという雰囲気をこれでもかと醸し出しながら、深々と頭を下げ、自身の要求を彼へと告げる。


。これにて、私とあなたの婚姻関係は終わりにしていただきたく存じます」

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