穏やかな休日の過ごし方



「……やよいちゃん、いる? そろそろ晩御飯の時間だから、呼びに来たんだけど……」


 数時間後、日が沈んで空が暗くなり始めた頃、こころは夕食の支度が終わりかけても居間に誰一人として姿を現さない友人たちを探していた。

 取り合えず、まずは各員の私室を確認しようと部屋を回っていた彼女は、人の気配があったやよいの部屋の扉を開け、その中に広がる光景に驚いて口を塞ぐ。


 そこには、正座をしたまますやすやと寝息を立てるやよいの姿と、そんな彼女の膝の上で眠りに就く蒼の姿があった。


 何処か嬉しそうに笑みをたたえたまま寝ているやよいと、彼女に頭を撫でられながら眠っている蒼。

 見ているだけでどこかほっこりしてしまう二人の様子に暫し見入った後、こころはふふふと楽し気に笑って呟く。


「蒼さん、いい休日を過ごせたみたいですね。二人の分のご飯は取っておくから、もう少しゆっくりしててください」


 眠っている二人を起こさぬように小さな声で言ってから、部屋の扉を閉める。

 他の仲間たちにこのことを伝えるかどうか悩んだが、まあその辺は二人の(というよりやよいの)判断に任せることにしようではないか。


 色々と……本当に色々と、蒼は抱え込む癖がある。

 それを吐き出して、楽になって、落ち着くことが出来る居場所を見つけられたことは、こころにとっても喜ばしいことであった。


(昼間は恋人みたいって言ったけど、あれはもう夫婦だよね? そっちの方がぴったりだもん)


 甘酸っぱい雰囲気よりも、お互いのことを理解し合っている落ち着いた雰囲気の方があの二人の関係性としてはしっくりとくる。

 あそこまでの信頼を置いた関係性ならば、最早いちゃつくとかそういうことではなく、純粋に相手への好意や信頼度が振り切れているのだろうなとこころは思った。


 それはきっと、お互いの相棒である燈や栞桜に対するそれとよく似ていて大きく違う感情。

 同性ではなく異性であるからこそ、また別の意味を持っているのだろうと、それなりに耳年増な彼女は小さな笑みを浮かべながら満足気に頷く。


 あとはまあ、どちらかがその関係性から一歩踏み出すかの話だが……それには少し、時間がかかりそうだ。

 これからは武士団としての活動にかかりきりになるし、押せ押せのやよいも案外肝心な部分でヘたれたりすることが多い。

 だから多分、蒼の方が積極性を出さなければ進展はしない関係なのだとは思いながらも、もう十二分に深まった間柄を必要以上に発展させる必要もないのだろうと思ってもしまう。


 下手に周りが騒がずとも、最終的にはくっつく気がしてならない二人だ。

 自分たちは手出しはせず、黙ってその関係を見守るのが最適解なのだろう。


(私も、私の恋路を頑張ろう! ライバルも増えちゃったし、負けてられないよね!)


 想い人の顔を思い浮かべ、そう決意を新たにしたこころは、彼を含む他の仲間たちを探して廊下を歩む。

 普段より幸せそうなその足取りは軽く、友人たちの幸福そうな姿を見たことで彼女が浮ついているのは一目瞭然だった。








 ……だが、この時のこころは知らなかった。

 今、この瞬間、彼女の知らぬところで、自分の想い人がライバルたちととんでもないことになっているということを。


 その話をするために、少しだけ時間を巻き戻そう。

 時は、今よりおよそ半刻ほど前に遡る――

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