論功行賞・後

  


「続いて……総大将を務めた聖川匡史、前へ!」


「………」


 王毅たちに続いて高官に呼ばれたのは、戦の指揮を執った匡史だ。

 部下も引き連れず、たった一人で高座に上がった彼に対して、幕府が用意したサクラが一生懸命に拍手と歓声を送るも、王毅たちが壇上に上がった際に発せられたそれと比べると些か見劣りしてしまう。

 むしろ、罵声や嘲りの言葉が飛んで来ないだけでも御の字だと、そんな雰囲気に包まれる会場の中で、高官は匡史の功績を賞し始めた。


「ええ~……総大将、聖川匡史。其方は初陣ながらも立派に軍を指揮し、多数の鬼たちの首を取り、奴らを追い詰めた。その功を賞して、二番手柄とする!」


「……ありがたき、幸せで、ございます……!!」


 数少ない手柄を希釈し、一生懸命に誇張した結果に得られた二番手柄の座だが、それに匡史が満足するはずもない。

 本来ならば、数多の犠牲者を出し、奪還目標であった銀華城も満足な状態で奪い返せなかった彼が、二番手柄を得るどころかこのような論功行賞の場に姿を現すこと自体がおかしいのだ。


 これはつまり、匡史の後ろ盾となった幕府が必死に彼を盛り立て、何とかして王毅たちよりも多くの手柄を立てたというイメージを民衆に植え付けようとしているという証であり……同時に、そんな幕府の権力をもってしても、一番手柄の座を得ることが出来ないということも意味していた。


 危機に陥った兵たちの救出。近隣の村々の援護と東の防衛線の構築。鬼たちの南下の妨害。

 それら全てを完璧にこなしてみせた者たちから一番手柄を奪い取るだなんてことは土台無理な話だ。

 しかも、それが匡史のような手柄よりも失態の方が目立つ将が対抗馬ならば猶更である。


 そうして、屈辱と共に高座から降りていく匡史のすぐ隣を、蒼を先頭とした一団が歩んでいく。

 降りる匡史と昇る蒼たち。

 その姿は、彼らのこれからを暗示しているかのような光景であった。


「そして、最後に……蒼天武士団、前へ!」


 一際大きく声を張り上げた高官の前に、六つの影が並ぶ。

 まだ若く、少年少女といっても過言ではない年齢の武士たちの姿を目の当たりにした民衆はにわかに湧き立ち、自分たちの代表として壇上に立つ仲間に向け、三軍で共に戦った武士たちも惜しみのない歓声を上げて喜びを表現している。


 会場がひとつ前の匡史の時とは比べ物にならない興奮と賞賛に包まれる中、高官は武士団の代表である蒼に対して、その功績を賞する言葉を口にし始めた。


「蒼天武士団団長、蒼。其方は鬼の大将である金沙羅童子を討ち果たし、その角を持ち帰るという功績を挙げた。また、優れた指揮によって鬼の策略で混乱に陥った軍を纏め上げ、近隣の村を救い、この昇陽への進撃を封じ、更には鬼たちの逃亡を防ぐという働きを見せた。それぞれの活躍の中心となった其方たちを一番手柄とし……三軍全体に褒賞を取らせるものとする!」


 蒼が褒美の目録が記された書状を受け取った瞬間、寺院に集まった人々から大きな拍手が立ち昇る。

 王毅たちクラスメイトや、三軍の兵士たち、自分たちを救ってくれた蒼天武士団の晴れ舞台を見に来た銀華城周辺の村に住んでいた人々、そして、巫女としてこの場に参加していた栖雲など、多くの人たちから天も割れんばかりの拍手を送られた蒼たちは、軽い会釈でそれに応えた。


「本当に若い連中だな。あんな子供たちが勝利の立役者になるなんて、信じられんよ」


「年齢もそうだが、性別も不思議だ。女の方が多い武士団が斯様な手柄を立てるとは、時代のうねりを感じるな」


「年齢も性別も、その構成も妙に見えるが……彼らの実力は確かだ。お前たちも戦場で奴らの活躍を目にすれば、嫌でも納得するだろうよ」


 まだ若く、女性も多く含まれる異質な武士団。

 しかし、人並外れた実力と才覚を持つ彼らの活躍は、銀華城奪還戦の武功と共に多くの人々に知れ渡ることとなる。


 一騎当千。百体にも及ぶ鬼たちをただ一人で斬り伏せた紅の鬼神、虎藤燈。


 雄大豪壮。女性でありながら鬼たちと真っ向から渡り合えるだけの腕力を持つ女流剣士、西園寺栞桜。


 天衣無縫。小柄な体躯に反した確かな実力と明晰な頭脳を併せ持った神算鬼謀の悪童、西園寺やよい。


 疾風一閃。彼女の前に立つ敵は吹き抜ける風と共に瞬く間に屠られる。千年に一人の天才、鬼灯涼音。


 内助乃功。多くの兵たちの命を救い、血と膿に塗れながらも裏方の業務を引き受け続けた戦場の天使、椿こころ。


 そして、そんな一癖も二癖もある仲間たちを纏め上げる団長……国士無双の男、蒼。


 彼らの武勇は蒼天武士団の名と共に大和国中に広がり、英俊豪傑揃いの武士団として多くの人々からの注目を集めることとなる。

 こうして、燈たちの初陣はこれ以上ない程の華々しいものとなり、彼ら自身の名を大きく上げることとなったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る