聖川匡史

すいません。一つ前のお話で登場人物の名前が間違ってました。

聖川義→聖川匡史でお願いします。

――――――――――

「聖徒会って、まさか……!?」


「あの人、聖川会長だよ! 私たちの学校の、生徒会長の!!」


 匡史の挨拶と共に、彼の背後でばさっと音を立てて広げられた巨大な横断幕の文字を読んだ燈とこころがあんぐりと口を開ける。

 自分たちの前で演説を行う彼が通っていた学校の生徒会長であることを知っている二人は、毎月の学校集会で行われるそれと何ら変わらない堂々とした様子で武士たちに語り掛ける匡史の姿を呆然とした表情を浮かべて見つめていた。


「まずはこの戦いに参加することを決めた君たちの勇敢さに敬意を表しよう! 卑劣で非道な鬼たちによって、大和国の重要拠点である銀華城は落とされた! 奴らの手からこれを奪還しない限り、人々が安心して眠りに就くことは出来ないだろう! そういった人々の不安を取り除くためにも、我々は全ての力を出し切って、勝利を掴まなければならない!!」


「おお~~っ!!」


 戦いに対する意欲を掻き立てるような、そんな匡史の演説。

 自分たちが大義の下に戦うのだと、この国の人々のために戦うのだと、心を奮い立たせる言葉を選んで語り続ける匡史の弁術によって、軍団の士気は目に見えて向上していった。


「この戦いは厳しいものになるだろう! 多くの者が傷付き、命を落とす者もいるだろう! しかし、我々大和国聖徒会はその犠牲を抑え、勝利の可能性をより確固たるものにするためにここに来た! 諸君らが僕を信じて命を預けてくれるというのなら、僕ら聖徒会はその信頼に応えるべく、英雄としての力を全霊で振るい、この戦に参加した者たち全員に何にも勝る栄誉を与えることを約束する! 死した者はその名を永く語り継がれる栄誉を! 生き延びた者にはその働きに見合った恩賞を! 命を賭して戦った者に、大和国は報酬を惜しまない! 僕たち大和国聖徒会の下で、諸君らの力を存分に振るってほしい!!」


「……おい、おいおいおい。おかしいだろ? なんであの役目をがり勉会長がやってやがる? あれは、神賀の奴がやる仕事じゃ……!?」


「……どうやら、学校の方でも何か動きがあったらしいね。英雄たちの代表が交代せざるを得ない、何か重大なことが燈の友達の身に起こったみたいだ」


「重大なことって……! くそっ!」


「あっ!? 燈くんっ!?」


 英雄たちの代表として、王毅に代わって武士たちへと激励の言葉を投げかける匡史の姿に苛立ちと焦りを入り混じらせた感情を抱いた燈は、その想いに突き動かされるようにして駆けだしていた。

 演説を終え、お立ち台から降りた匡史へと駆け寄った燈は、周囲の武士たちには目もくれず、一仕事終えたばかりの彼へと大声で叫ぶ。


「おい、聖川っ!! ちょっと待て!」


「貴様、何者だっ!? 聖川さまに対して、失礼だぞ!!」


「いや、大丈夫だ。彼は僕の知り合いだよ。……そうだろう? 虎藤燈くん」


「お勉強が得意なお前のことだ、俺のことは忘れてねえと思ってたよ。じゃなきゃ、お前の唯一の取り柄がパーになっちまうからな」


「目上の相手に対する口の利き方がなってないぞ。まあ、粗暴で短慮な君に礼儀というものを期待する方が間違っているのだろうがね」


 ばちばちと火花が散るような言葉の応酬を続ける二人の姿を見れば、誰だって理解出来る。

 この二人、絶対に仲が悪い。それも犬猿の仲レベルの相性の悪さだ、と。


 実際に燈と匡史の関係は周囲の人間の想像の通りで、非常に険悪だった。

 規律を重んじる生徒会長である匡史は、不良であり、喧嘩を繰り返す燈のことを排除すべき対象と見ており、学校内外で問題が起きる度に、彼を目の敵のようにして真っ先に疑い続けてきたのである。


 暴行事件や器物破損、果てには地元商店での万引き事件など、母校の生徒が何かトラブルを起こしたとの知らせを耳にしたら、匡史は即座に燈へと疑いの目を向けた。

 証拠や証言が無くとも、まず真っ先に燈を疑うことから始める彼のやり口には、教師たちの中にも疑問視する声が上がったこともあったそうだ。


 結果としては、その疑いの全てが彼の勘違いという形で収束している。

 燈が行う悪行というのは、自分の名前を馬鹿にされた時に起こす喧嘩騒動のみ。

 弱い者苛めのような暴力も、脅しのために何かを破壊することも、ましてや何の関係もない地元商店から物を盗むなんてことにも、決して手を出すことはないのだ。


 だが、何度燈を疑い、その潔白が証明されるというやり取りを繰り返したとしても、匡史は彼に対する色眼鏡を外そうとはしなかった。

 実際、決して品行方正な優等生とはいえない燈は手放しで信用出来るような生徒ではないのだが、やはりその疑いの眼差しは常識の範囲を超えたものであると言わざるを得なかっただろう。


 潔癖が過ぎる匡史の性格が、その奇行の原因だったのかもしれない。

 平和でまともな学校の中で、問題を起こす生徒は大体決まっている。

 その中でも最も不快感が強かったのが燈であり、生徒の代表である生徒会長を務める匡史は、そんな燈のことを排除したいという気持ちを日に日に強めていたのかもしれない。


 不良生徒である燈を睨み続け、事あるごとに突っかかる匡史。

 そんな彼にうんざりするほどに濡れ衣を着せられ続け、やってもいない悪行に対する疑いの目を向けられ続けた燈。


 そんな二人の仲が険悪になるのは当然の話であり、それはこの大和国に転移しても変わることはなかったということだ。


「どうしてお前が学校の代表みたいな面してやがる。神賀はどうした?」


「何もおかしなことはないだろう。僕は生徒会長、我が学園の生徒の代表だ。そんな僕が、英雄となった生徒たちの代表となるのは当然の流れじゃないか」


「はっ! 笑わせんなよ。その割には、最初は神賀の奴にその座を奪われてたじゃねえか。今更どうして代表面してやがる? 神賀はどうしてるんだ?」


「ふんっ……! 幕府もようやく彼が力不足だということに気付いた、とだけ言っておこうか。先ほどの僕の紹介を聞いただろう? 今は、僕が学校の代表だ」


「んだと……!?」


 鼻を鳴らし、王毅を嘲笑った匡史は、自分に対して怒りの眼差しを向ける燈を一瞥すると再び鼻を鳴らした。

 そうした後、もうお前に構うつもりはないとばかりに供を引き連れて用意された宿泊先へと向かいながら、燈に対してこんな言葉を残す。


「まあ、今も君は僕の指揮の下で戦う兵士の一人だ。どうせ三軍の所属になるんだろうが、せいぜい頑張ってくれたまえよ」


 せせら笑いを最後に残して、匡史が燈の前から去っていく。

 自分たちの命を預かる相手が、自分の知る限り順平と並ぶレベルで信用出来ない人間であることに不安を抱いた燈は、同時に義に代表の座を奪われた王毅が無事であることを祈りながら、立ち去っていく指揮官の背を睨み続けるのであった。

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