戦いが終わった後に
「……まあ、そうなるわな。仕方がない、か」
「……ごめんなさい。私のせいで……」
「言うな。責任は俺にもある。お前一人が悪いわけじゃねえよ」
涼音の謝罪の言葉にそう返し、燈は地面に突き刺さる刀の下へと近付いた。
仮面の女の置き土産であるそれをまじまじと見つめた燈は、その正体に気が付くと眉を顰めた。
「『泥蛙』、だと……? どうして、これを……!?」
仮面の女が残していったのは、彼女が鼓太郎に手渡し、その驚異的な力で敵討ちを果たさせようとした妖刀『泥蛙』。
わざわざ燈の前に姿まで晒し、回収したはずの妖刀をこの場に残した彼女の行動に違和感を感じた燈は、一瞬の逡巡の後にその柄を手にし、鼓太郎の腰から回収した鞘の中へと納めた。
「どういうつもりだ? 俺たちを挑発するためにこんな真似をした……ってのは、ありえねえ、よな……」
「……何かの罠、って考えるのが自然。ただ、それにしてはあからさま過ぎる」
「だな……。だが、俺たちが取る手は一つしかねえ。こいつは、俺たちが回収する。そのために――」
鈍い茶色をした鞘と、そこに納められた刀を見つめながら呟く燈。
そこで一度言葉を切った彼は、視線を前に向けると……強い決意を見せながら、こう言った。
「あいつに話をつけなきゃ、な……!!」
「う、あ、ぅ……ここ、は……!?」
「よう、目ぇ覚ましたか」
痛む体を擦りながら体を起こした王毅は、自分へと投げかけられた声を耳にしてそちらへと顔を向ける。
そこに不良座りをして自分のことを見つめる燈と、その仲間たちの姿を目にした王毅は、驚きと警戒の感情を半分ずつ入り混じらせた想いを抱きながら彼へとこう問いかけた。
「虎藤くん……!? お、俺は……そうだ、妖刀使いたちに負けて……!! 花織は!? 妖刀使いたちはどうした!? まさか、君が彼らを……!?」
「落ち着いて、神賀くん。あなたが考えてるようなことは起きてないから。私たちはあなたをどうこうするつもりはない。ただ、話を聞いて欲しいの」
「君は、椿さん……!? 学校から脱走したはずの君が、どうして虎藤くんと……?」
何もかもが理解出来ないといった様子で、矢継ぎ早に質問を投げかけてくる王毅に対応したのはこころだった。
またしても予想外の人物が登場したことに驚きを露わにする王毅であったが、多少は見知った相手が前面に出てきたことで警戒心が解れたのか、それとも気絶して無防備だった自分が何も危害を加えられていないことで燈たちに敵対する意思がないと判断出来たのか、こころの話に耳を傾ける余裕が出来たようだ。
「石動くんたちも無事だよ。ただ、七瀬さんは重傷で、竹元くんは行方不明だけど……」
「……何が、あった? 俺が意識を失っている間に、何が……?」
「えっと……その話をする前に、私たちがこれまで何をしてたかを聞いて欲しいんだ。少し時間がかかるけど……聞いてくれるかな?」
「……ああ、構わない。どうやら俺は、何か思い違いをしているみたいだ。その辺りの事情を正すためにも、君たちの話を聞かせてもらえないだろうか?」
少し下手に、自分の知っている情報と実際の現状についての乖離を擦り合わせるために、こころに事情を尋ねる王毅。
ようやく、自分の話を聞いてもらえる機会が出来た。ようやく、燈と王毅たちとのすれ違いを正す機会が訪れた。
そのことに感激しつつ、その感情を表情に表すことはしないまま、努めて冷静に振舞ったこころは、静かに口を開き、話を始める。
「えっと、あのね――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます