第58話 俺達と魚介と刃物のダンジョン 後編

「手強そう。よし、月光ふうっ……」



 どうやらロナはこの壺の中の魔物に対し、〈月光風斬〉を使用するようだ。

 それならまず間違いなく倒しきれるだろう。


 ……が、なんだ?

 それが何故だか間違っているような、そんな気がしてならない気分になってきた。嫌な予感ってやつだ。


 クレバーに考えろ、いったい何が俺の心を引き止める?

 

 魔物本体は別に問題なさそうだ。違和感を覚えるのは壺の方。

 壺の中には宝箱があって……。ああ、そうか。



「まて、ロナ!」

「ざッ……ふぇ⁉︎ あ、危ないよザン! 何してるの!」



 俺は少々手荒だが、彼女の前に立って大技の発動を止めた。

 ふぅ、ギリギリだったな。



「いや……悪い、もっと早く気がつけばよかったぜ」

「な、何に?」

「……ここには宝箱の反応があるだろ?」

「う、うん」

「だが目視はできない。つまり、あるとすれば壺の中だが……もし、そんな状態でアイツが入ってる壺に目掛けて強力な技を放ったら、その拍子に宝箱が開くかもしれない。それが仮にパンドラの箱だったらエライことになるぜ」

「あ……そ、そっか!」



 宝箱を守る魔物と遭遇した時、戦いの飛び火がパンドラの箱にもかかるかもしれないという恐怖。

 なるほどな、これが【呪い呼びの呪い】の本質なのか。


 今までは俺達に限った話ではあるものの、中身がいい宝箱の出る可能性を上げる……そんなメリットしか無い呪いであるとすら思っていたんだがな。

 やはり呪いは呪いのようだ、な。



「ま、俺が開ける分には問題はないんだよな。まず俺がアイツを壺から引っ張り出すぜ」

「う、うん! 任せたよ」

 


 俺は『ソーサ』で小屋サイズの壺ごと中の魔物を持ち上げる。

 かなり重いが、《大物狩り》と戦った時の『バイルド』ほどではない。

 なるほど、あの経験から俺は、このぐらいなら集中すれば割と持ち上げられるようになったみたいだ。


 ある程度宙に浮かしたところで、壺を逆さまにし、上下にシェイクする。

 やがてボトッという音を立てて宝を守る魔物が地に落ち、その全体像を俺達の前に現す。それと共に宝箱まで一緒に出すことに成功した。


 ……予感的中、やっばりパンドラの箱だ。

 はあー危なかった。いや、マジで。


 俺は壺の操作を解除しつつ、さっさとパンドラの箱を回収する。

 支えのなくなった壺は巨大な魔物の上に落下し、パックリと何等分かに割れてしまった。



「さ、もういいぜ」

「ありがと! 月光風斬っ!」



 あいつは見た目的にAランクだかBランクだか、そのくらいだろうか。とにかく、そこそこ強そうだった大きな魔物は細切れになりながら爆ぜてしまった。

 やっぱりこの技は火力が一味違うぜ。



「……この威力、いつか究極術技以外でも出せるようにならないと。それにしても本当にありがとうね、危なかったよ」

「なぁに、もとはと言えば俺の呪いが原因だしな。次からは何かしら対策を考えておかないと……。とりあえず次進もうぜ」

「うんっ!」



 四つの分岐の最後である右端の道に行くと、ただ魔物が待ち構えているだけの行き止まりにたどり着いた。

 相手はカージキリング二匹だったため前の個体と同じで、美味しくいただけるよう気を配って倒し、回収した。もちろん二匹共。

 

 その後、先が続いていた左端の道に戻り、そこにあった幾度目かの分岐の一方をさらに進む。するとそこには、またまた分岐が……。



◆◆◆



「大丈夫?」

「な、なんとかな」



 俺が分岐の数をかぞえるのをやめてから、どれくらい歩いたのだろう。

 紳士といえど疲れが表情に出てきてしまうほどに溜まっている。

 竜族だからかピンピンしているロナとは、まるで大違いだ。


 何回かに分けてそれなりに休憩はしてきたはずなんだがな。


 例えば、三十匹ほどがカタまっているスリー・マーの大群に遭遇し、そのうち半分を塩焼きにして食べたり。


 あと、両手のハサミがナタのようになってるロブスターと出会い、そいつの茹でた身をホワイトソースに絡めて食べたり。


 それに、口から剣を突き出してくる変な魚を素揚げにして食べたり……。


 あ……そうか。

 これ、ただ歩いて疲れたわけじゃないんだな。単純に作業のしすぎで疲れてるんだ。


 いくら料理が得意とは言っても節度は守らなきゃダメだろうに。

 ロナの喜ぶ顔が見たいからって、無茶をしたな。クレバーな俺としたことが。


 とはいえ、このダンジョンもあと少しで攻略できる。

 すでに俺達は、ボスの部屋へ行ける光の塊の目の前まで辿り着いているんだ。



「よ、よし。じゃあ入るか」

「だね!」



 俺とロナ、一緒になってその光に足を踏み入れる。

 今回のボスは……剣のようなイカだ。


 だが、明らかに今まで対峙してきたそれとは違う。


 体は一回り大きく、鋼のような身はよりいっそう輝いており、そして十本全ての触手一つずつに巨大なダンビラが握られている。

 それが、二匹。



「……出し惜しみはしない方が良さそうだね」

「魔力に余裕はあるのか?」

「うん、ザンがたくさんご馳走してくれて、その都度回復したから大丈夫! ほぼ満タンだよ」

「そうか」



 ははは、それなら飯を作り続けた甲斐があったってもんだぜ。

 ……そうしてロナは躊躇することなく、一気に〈月光風斬〉を三発も放ち──── !











=====


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