◆ 初めての冒険用具

 冒険者用具店も、先程の雑貨屋と同じくらいの大きさを誇る店だった。……というより、みたところ経営者が同じようなので同店舗の別棟という解釈でいいか。


 さっそく中に入ると、一般人ばかりだった雑貨屋とは打って変わって、厳つそうな見た目や強そうな雰囲気を漂わせている、それらしい人間ばかりとなる。

 まあ、そういう店なんだから当然だが。


 どうやらここでは物品の販売だけでなく、冒険者からの買い取りも行なっているのらしい。店内の四分の一はそのためのスペースのようだ。


 ただ、ダンジョンの宝箱から出てくる高級なものは取り扱ってくれそうになく、見た感じだと、主に道具の中古品や魔物から剥ぎ取った素材がメインなのかもしれない。

 俺たちがこの店のこのスペースにお世話になることはあんまりなさそうだ。



「いいね、私、こういうの好きだよ」

「竜族だしな。血がたぎるっ……て感じか?」

「うんうん」



 俺と出会う前も、時間潰しは武器屋巡りをしていたと言うし、彼女は可愛らしいモノより物騒なモノの方が好きなのかもしれない。


 ……大人しめなロナの性格でこうなら、偏見にはなっちまうが、他の竜族はみんなこんな感じかそれ以上だと考えて良いよな。


 となると、だ。

 俺はレディを導く方が好きなんだが、今回は逆に導いてもらった方がいいだろう。任せるべき時は、素直に任せる。

 部の弁え方ぶのわきまえかたを把握するのだって、クレバーな紳士には必要なんだぜ。



「俺は冒険者用品についての知識は浅めだからな。色々とロナに頼りたいんだが……いいか?」

「ん! ここでは一緒に行動してくれるんだね? いいよっ、私もそんな詳しい方じゃないけど。……ふふ、エスコートしてあげる!」

「あ、ああ……! よろしく頼んだぜ」



 ロナは自分の前髪より上部に軽く手を触れながら、ニヒルにニヤついている。

 紳士的に帽子を触る時の癖……俺の真似をしたつもりなんだろう。

 うーん、可愛い。



「私達は一応初心者だから、まずはセットとしてひとまとまりになってるのを買うと良いんだよ」

「なんだ、そんなのがあるのか」

「うん。こういうお店だと……こっちらへんかな?」



 ロナに先導してもらいながら、店の中を歩く。

 しかしまあ、凄いな。あちこちに陳列されている、冒険者御用達の品々が視線を奪ってくるんだ。


 パッと見で目を惹くようなデザインのナイフや、明らかに機能しか重視していない渋いランタン、俺じゃなにに使うかわからないゴツゴツした物体……。


 なんというか、ロナみたいなこういうのを眺めているのが好きな人間の気持ちがわかった気がするぜ。

 ワクワクするんだ。あの道具を持ってアレと戦ってる自分はどんな感じだろう、とか、そういうのを想像して。



「ん、これこれ、こういうやつ!」

「お、サンキュー。着いたか。どれどれ……」



 ロナの指した先には、たしかに「初〜中級ランク向け汎用アイテム詰め合わせセット」みたいな商品名が掲げられた大きめの鞄がずらりと並んでいた。

 おそらくこの鞄も普通のものでなく、魔法やらをつかって中を拡張しているヤツだろう。


 商品表記もあったので、そこから近くにある一つのセットの内容物を見てみると、たしかに今回の買い物で俺が揃えようと思っていたアイテムのほとんどが入っているようだった。


 値段は安いもので三万五千ベルから、高いもので六十万ベルほど。これはパッと見だから、もっと高いのはあるかもしれない。俺が内容物を見たやつは十一万ベルだ。



「はー、便利なもんだな」

「でしょっ? これ一つ一つ見ていって、内容に不足がなければそれを買えば良いんだよ」

「そうか。じゃ、一緒に周って見るか」

「うん! ……あ、これが友達とショッピング、なんだね!」

「ああ、そうなるな。明日もこんな感じだぜ……どうだ、なかなか良いもんだろう?」

「うんうん!」



 首を何度も縦を振るロナに、またキュンとさせられる。

 今日の彼女は仕草が大きい。どうやら「友達とショッピングをする」のが楽しくてテンションが高くなっているみたいだ。

 つまり、俺はちゃんとエスコート出てきてるってことだな。


 それから俺達は一緒にアイテム詰め合わせセットが入った鞄と、その内容を順繰りに見ていった。

 だいたい外の鞄のデザインと、内容物の基本的なデザインが統一されているものが大半のようだ。


 結果、ロナは白や茶色、クリーム色といった落ち着いた色を多く使ったデザインで、質が良く安定したアイテムが多く入った十五万ベルのセットを選んだ。

 で、俺は紺やら黒を使ったデザインの十⑧万ベルのセットを選んだ。内容物はほぼロナのに近いが、それに加えて外で調理できるような器具がそこそこ入っている。


 ロナの好みの色に関しては今まで着ていた服と、今のでだいたい把握した。明日の服選びに活用しよう。


 それからそのあと、俺は前のダンジョンの反省を活かして縄ハシゴや縄そのもの、ほかにも採取用ナイフや血抜き用ナイフといった作業用ナイフを数本追加で購入することにした。


 縄系のものはロナも納得してくれたが、ナイフに関しては俺に疑問を投げかけてきた。



「そんなにたくさん必要かな……? セットの中にもナイフ一本あったし、そもそもザンは『メディメス』っていうナイフの宝具もあるでしょ?」

「まあ、そうかもしれないが。俺はこう見えて綺麗好きでな」

「うん、それはわかってるよ」

「『メディメス』は回復したい人の体に突き刺して使うものだからエレガントじゃない使い方はできないしな」

「それは確かにね」

「そして調理と解体、野草の採取、護身……それぞれナイフを別にしたいんだよな」

「んー? セットの内容といい、ずいぶん料理に偏ってるけど……あ、まさか……!」



 さすが、料理が趣味の俺に対し、食べることが趣味のロナだ。

 俺がなにをしたいか気がついたみたいだな。ふふふ。



「ああ。ダンジョンの中とはいえ、この間のパンクボアだったか? あいつらの肉、もったいなかっただろ? 今後ああいうことがあった時……食事休憩をとれるようにと思ってな。能力のおかげで、食事すること自体が、ロナにとっての魔力回復ポーションみたいなものだし」

「おおお……!」



 たしかに、彼女の口元でジュルリという音が聞こえた。

 まあ、次行くとなっても、そこが食肉可能な魔物が出るダンジョンとは限らないが、冒険への意欲が高まったなら良いことだ。


 こうして俺達は互いの趣味で気分が高まり改めて意気投合しつつ、支払いを済ませて店を出た。

 そして、宿に戻ったり食事に向かったりするのではなく、調味料が置いてある食品店へ足を運ぶことになったのだった。

 

 なんにせよ、せめて塩くらいはないといけないだろ?









=====


また日を跨いでしまいました、申し訳ありません!


しかし野生やダンジョンで狩った魔物の肉でBBQをやってみるのって楽しそうですよね! その肉はジビエ…‥じゃないな、なんと形容すれば良いのかわかりませんが(笑)

冒険者達にとっては、一応、魔力回復のための真面目な行為でもありますね。

まあ安全じゃないので、やる人の方が少ない設定ですが。

ヘレストロイアはやったことあることにします。


非常に励みになりますので、もし良ければ感想やレビューやコメント、フォローなどをよろしくお願いします!



追記:

申し訳ありません、今日は気分が良く無いためお休みします。

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