第69話 魔法デモ

■皇都セントレア

~第6次派遣2日目~


宿の前で待っていたのは、レンブラント商会の人だった。


「タケル様、突然押しかけ来て申し訳ございません。私はレンブラントの下で皇都の商いを任されているリムルと申します。こちらは、イースト商会のオーリン様です」


「こんばんは、リムルさん、オーリンさん。どうかしましたか?」


「はい、オーリン様からタケル様達が乗られた旅馬車の件で、問い合わせがありまして・・・」


「はじめまして、タケル様。いや、実は昨日もお会いしております。教会の前でうちの坊ちゃんを助けていただきまして、本当にありがとうございました。もう少しで命を落とすところでした」


(たしかに、見覚えがある)


「本来なら、その場でお礼を申し上げるところだったのですが、けが人を運ぶ段取りをしている間に、時機を逸してしまいまして、大変失礼申し上げました。その後で、色々とつてを頼って、タケル様達がレンブラントの手配した馬車に乗ったことがわかりましたので、ここまで追いかけてきた次第でございます」


「そうでしたか、それはわざわざご丁寧に」


「それで、私の主人-坊ちゃんの父上であるイースタン-が是非お礼にお食事をご一緒したいと申しておりまして、明日にでもお時間をいただけないでしょうか?」


(リムルの口ぶりではイースタンは大物だろう)


「ありがとうございます。ですが、明日は教会に行ってやることがあるので、終る時間がわからないのですよ」


「さようでございますか・・・、ですが、お時間はご都合に合わせますので、終わり次第と言うことでお願いできないでしょうか? 主人が是非にと申しておりますので」


「何時でも良いなら、喜んで。こちらは4名でも良いですか?」


「もちろんでございます。こちらに当家の地図と招待状をご用意しておりますので、是非ともよろしくお願い申し上げます」


(最初から断らせないつもりだったか)

(まあ、情報と味方は多い方が良いし、会いに行くか)


■皇都セントレア 

~第6次派遣3日目~


教会にはアキラさんとマリンダを連れて行くことにした。

ナカジーとダイスケは意気揚々と市内観光へ向かった。


昨日来ていたイースト商会は皇都で、いやドリーミアでも最も大きな商人だそうだ。


マリンダが言うには、皇都の外から入ってくるもの、出て行くものでイースト商会を通らないものはほとんど無いらしい。


この国で自由に動くためには、教会以外の力も利用した方が良いと考えていたタケルにとっては、会っておいて損の無い相手だろう。


皇都大教会は、この国の中で見た建物では、桁外れに大きかった。


中央の尖塔は10階相当の高さがあるだろう。

左右にも塔があるが、5・6階には届くと思う。


開かれた正面扉も隣の建物の2階ぐらいまである大きさだった。


中に入ると、吹き抜けの大きなホールで教会タペストリーが正面に吊るされている。

正面に向かって綺麗に並べられた長いすも、300以上はあると思う。


左奥にある部屋へ、マリンダが西條の紹介状を持って入っていった。

事務室になっていて、大司教に取り次いでくれるはずとのことだったが・・・


教会士と一緒に戻って来たマリンダは笑顔ではなかった。

あまり良い返事ではなかったようだ。


「2階の副司教のお部屋へ伺うようにとのことでした」


2階で会ったクルツと名乗る副司教は背の低い小動物のような男だった。


「それで、勇者殿はリーブス大司教にどのようなご用件でしょうか?」


「リーブスさんに教えていただきたい魔法があるので、お伺いしました」


「リーブス大司教ご本人に? ですか? 司教は初心者に魔法をお教えするお時間は無いと思いますが・・・」


「ええ、私が教わりたい魔法は教皇かリーブスさんにしか使えないと、サイオンさんが言っていましたので」


「・・・失礼ですが、勇者様はどの魔法をお使いになるのでしょうか?」


「魔法は、火、水、風、光・・・」


「いえいえ、知っている魔法を聞いているのではありません。お使いになる・・・」


「ええ、ですから私が使いこなしている魔法です。土魔法が良くわからないですけど、それ以外は何でも出来ますよ」


「・・そのような戯言は困ります。私ども教会魔法士でもそのように使えるものは教皇様か枢機卿以外にはおりません。ましてや、勇者様はドリーミアにお越しになって、まだ2月も経たぬと聞いております。いくらなんでも、ご冗談が・・・」


(この小役人には見せた方が早いな)


「じゃあ、魔法が使える広いところはありますか?」


小役人がタケル達を連れて行ったのは、教会の裏側から出たところにある広場のような場所だった。


建物から出る前に見た部屋に、様々な武具があるところを見ると武術と魔法の修練場なのだろう。


「なにか、ご要望はありますか?」


「お得意な魔法でけっこうですよ」


(じゃあ、出し惜しみせずにビビらすか)


「ファイア!」


「ウォーター!」


タケルは1メートルぐらいの火炎と水球を小役人の5メートル上に並べて浮かべた!


小役人の呆然とする顔を確認してからダメを押す。


「ウィンド!」


「ウィンド!」


火炎と水球に風が叩きつけられる!


-ブォッ- -バシィーン-


火は風に乗って伸び、水球は風で弾けた!


タケルの計算どおり、小役人はびしょ濡れになっている。


「他に何か見たいものはありますか?」


小役人は顔を濡らしたまま首を横に振った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る