第14話

 流行のブティックに行って、タヌ子に似合いそうな洋服を探した。


が、さっぱりわからない。タヌキに似合う洋服って何だ?


そもそも、このタヌキの体型で、普通の洋服が入るのか?


しかし、そんな僕の心配をよそに、タヌ子はいろんな洋服を試着している。


入るらしい!


着たところを自慢げに見せてくるが、僕には全く見えない。タヌ子が洋服を着たとたん、透明になったみたいにタヌ子の毛並みと同化している。


店員は、


「わー、モデルみたいですねー! お似合いですー!」


と言っているので、似合っているのだろう。


タヌ子は意見を聞きたそうに大きな目で僕を見ている。


「いいんじゃない。かわいいよ。」


と、言っとくしかない。


「じゃあ、これにしますー!」


タヌ子は嬉しそうだ。よかったよかった。




 買い物が終わって、大通りのオープンテラスのカフェでお茶にした。


「ヒロキ、ありがとっ!」


タヌ子はニコニコしてる。


嬉しそうだ。


「ヒロキ、何でタヌ子にこんなによくしてくれるの? そんなにタヌ子のこと好き? 一度聞いてみたかったんだけど、ヒロキ、タヌ子のどんなとこが好きなの?」


「んー……、そだな…。目がクリクリしてて可愛いよね。それから…毛並みがいい! フッサフサ! 撫でてて癒される!」


何だそれは? というようなクリクリの目でじっとこっちを見ている。


「あ! 散歩がいらないのがすごくいいよね! 忙しい時とか雨とか雪だと、散歩連れていくの大変じゃん! トイレトレーニングもいらないし、ほんとお世話いらないっていうのが、すごいよね!」


「…タヌ子ペットじゃありません…。」


そうだった。


タヌキに見えているのは僕だけで、ほんとは美女らしい。


「じょ、冗談だよ。タヌ子は可愛いし性格もいいし、料理も上手いし、一緒にいると癒されるよ。」


「それほどでも~。」


タヌ子は満足したらしく、照れながらパフェを食べ始めた。


最初はいきなり押しかけてきて戸惑ったけど、一緒にいればいるほどタヌ子の良さがわかってくる。


安心とか安定とか癒しとか。でもそれってペットってことだよな…。


タヌ子と僕は、恋人同士なのか?


同居人なのか?


飼い主とペットなのか???


「タヌ子は俺のどこがいいの?」


「いやだー!なんか、お互いノロケあってるバカップルみたいじゃーん!」


はぐらかされた…。


僕にだけ答えさせといて自分ははぐらかす気か? 


真面目に聞いた自分が恥ずかしくなった…。


まるで彼女にのめり込みすぎて周りが見えなくなっている彼氏みたいじゃないか! 


そんな僕の羞恥心をよそに、タヌ子は口の回りに生クリームをつけたままケラケラ笑ってやがる。


…ったく…。


かわいいんだけど、居心地最高なんだけど、俺たちこれからどうなるのだろう…。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る