凍て氷る強襲【フリーギドゥス】
【
眉ひとつ動かない、磁器のように整った美しくも物憂げな顔。その中で薄く引かれた唇だけが、微かに揺らめき言葉を紡ぐ。
「なぜなら――
そう言うノエの掌が軽く握り締められ、人差し指と中指だけが突き立てられ、拳銃のジェスチャーのような形を作る。真っ直ぐに伸ばされた指先は、白に近い薄青色の光を帯び、光の中から僅かに覗くのは、鋭く尖った氷柱のような塊。まるで、冷気を纏った氷の弾丸。
「――
詠唱とも掛け声ともとれる、短い呟き。
ドンッ――という銃声に似た響きと共に、氷の弾丸が放たれる。
粉雪のようなきらきら光る粒子の軌跡を曳きながら、冷気と氷の塊は、音速にも近い速さで一直線に瑞穂へと飛んでいく。その鋭く尖った先端が、白いもやのように纏われた冷気が、瑞穂の肩を抉り凍てつかせようとするその間際――それは閃刃の一振りによって薙ぎ払われていた。
『ちょっ――ちょっと、もっちー?! 音だけだと状況がわかんないんだけど、もしかして何かに襲われて――』
「ええ、その
『やっ――ヤバイじゃん、それ! とっ、とりあえずあたしはショウマくんに連絡入れるよ。彼が来るまで、何とか持ち堪えて――』
ドンッ――再びの銃声が、
拳銃の形のように伸ばされた指先から、もわもわと白い煙を揺らめかせて、ノエは目を見張った。それは
「ふむ、
何やら独りごちる少女の、一瞬の隙を瑞穂は見逃さなかった。刃を握り直し、今度はこちらが先手を取る番とばかりにアスファルトの地面を蹴り、人間離れした瞬発力をもって駆ける。
「えっ――
ノエがおっとりと口走るよりも先に、瑞穂は彼女の間合いに入っていた。その烈火の如き勢いにふわり漂うツインテールが、すぅと白く仄かな光を湛える。下から上へ、身体のバネを巧く使い、瑞穂は肉眼では追えない程に素早い斬撃を、ノエの脇腹から肩にかけて一息に放っていた。
薄い
しかしそれらの光景は、次の瞬間、オーロラのような極彩色の揺らめきと共に、上下2つに分離したはずの少女の小さな身体ごと、闇の中へと消えていた。
「なっ――!?」
斬ったはずの相手が消え失せ、瑞穂は驚きの声を漏らす。と同時に、背後に何かの気配を感じ、彼女は振り返ると同時に咄嗟に刃を振るった。
眼前まで迫っていた氷塊。本能のままに振り上げた刃がその弾芯を捉えていなければ、瑞穂の身体は貫かれ、弾け飛ばされていただろう。
断ち切られた氷の弾丸、その勢いと冷気とが切り離されたことによって、粉々に砕けて闇夜に広がる氷の粉。朧な三日月の光を反射し散り散りに瞬く靄の奥で、
「ふむ――
ノエの唇から、鈴の音のように澄んだ呟きが漏れる。
瑞穂は間合いを取り直すように即座に数歩退がり、意味のよくわからない相手の呟きに、おっかぶせるように問いを放つ。
「あなた――何を言って――?」
「気をつけて。
「
「殺すような勢いでいきなり襲いかかってきて、それは――ちょっと、何言ってるかわからないですね」
瑞穂は応えると、刀を握り直し、再び斬りかかるタイミングを図るように呼吸と態勢を整える。ノエはその様子を見つめ、小さく頷くように顎を引く。
「ふむ、確かに――でも、こちらも攻撃を
妖しげに呟くノエの広げられた指先が再び極彩色のベールを帯び、凛とした鈴の音のような声は詠唱を奏でる。
「
声に呼応するかのようにノエの指先で揺らめいていたオーロラのような極彩色のベールが、その白い指先に、か細い手首に絡みつき、包み隠す。続いてガチャリという金属の擦れ合う音。やがて薄れていくオーロラベールの中から顕わになっていく少女の腕の先端は――。
「なっ――腕が――変化して――!?」
驚きの声を上げ、眼を見開く瑞穂。それとは対照的に、ノエは涼しげな面持ちで左腕を携え――
「――
「くっ――!」
瑞穂は咄嗟に跳び退き、無数の氷弾の雨を避ける。
掃射が一旦途切れた。薄青色の硝煙を手首のあたりからもわもわと靡かせながら、ノエは囁くように声を投げる。
「これなら断ち切れないでしょう――? 単一の魔力の流れ、単一の魔力の塊で構成される攻撃は、その一太刀に容易に断ち切られ防がれる。なら、単純に
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