滅びの君主は万物を押し流す【ヴァシレウス・ロオス】
蔑むような口調で、アシャは吐き捨てる。
「知らぬなら教えてやろう――
だが、最大限まで詠唱を重ね掛けて放たれる
――俺が詠唱の時間を稼ぎ、小娘が
お膳立てさて整えてやれば、あの魔術師の女は、貴様を滅ぼすだけの
貴様の敗因は、それを知らず。知ろうともしなかったことだ。
あの女が魔術を使えるだけの、ただの非力な人間だと侮ったがゆえに。
そう、教えてやろう。貴様を滅ぼす魔術の名を、貴様を殺す蒼の光の名を――。
【
それは太古より
ボゴッという音とともに
長く巨大な上半身を支えていた腕が引きちぎれ、砂の巨人は肩の辺りから散り散りになって、滅びていく。
――うがあああああっ! 私のーーカラダがーーあ゛あ゛あ゛っーーア゛ア゛ア゛ッーーーッ!!
蒼い光に包まれて、拭い去ったように、
少年は空へと掲げていた左腕を静かに下ろし、目を閉じた。
「
貴様を殺すは、貴様が殺した街の【生き残り】――まさに必然の因果と言えようか――そして、そこにあるのは砂と散って死した者たちの想い。ならば、せめて僅かながらでも、それらを噛みしめながら死んでゆけ――」
すべてが終わった中で、微睡むような意識の中で、覇王アシャは小さく息を吐いた。
――そうだ、【思い出した】――だが、何故――
覇王の思考は、強烈な睡魔に吸われるように、そこで途絶えた。
○●
柔らかい光。
青い髪の少女はゆっくりと目を開いた。
頬にさらりと触れたのは、長い金髪。
「もっちー、あなた――おもしろすぎだよ」
聴き慣れた女の人の声。かつて、あれだけ避けていたはずの大きな声。でも今は、どうしてだか懐かしく、くすぐったい。
「こんな状況で普通さぁ――寝る?」
「はは――疲れちゃって――それに、ナルさんならしっかり決めてくれると思ってたから」
ゆっくりと少女は視線を巡らせる。大きな胸が荒い息に揺れている。自身の足へとかざされた掌は仄かな
「ごめん、ナルさん。私のために――わざわざ急いで来てくれたんだね」
「何言ってんの――そんなのあたりまえじゃん。それに、もっちーが
少女は手を伸ばし、女の人の目尻を拭う。彼女に涙は似合わないと思ったから。
「ふふ――」
思わず、笑みがこぼれた。
「えっ、なに――どしたの、もっちー?」
「いや――やっぱりナルさんは、レシノミヤで最も優れた魔術師だなって。この街を救ったんだもの――」
金髪の女の人はふるふると首を横へと振り、ぐっと屈み込むと少女の耳元で囁く。
「そういうの重いから要らないよ。やっとわかった。あたしはただ――大事なものを守れればいいって――」
「大事なものを守る――か。うん、いいと思う」
2人の少女は、同時に、静かに囁き合っていた。
――そのためにも、壊れかけたこの世界をなんとかしなきゃいけない、から――。
その思いが同じなのは、偶然ではなく必然。
「そのために、あたしはあなたを
「そのために、私はあなたに
○●
おかあさん――おとうさん――。
あの時、あたしにこの力があったのなら――。
あなたたちを、まもれていましたか?
あの時、あたしに今のように仲間がいたのなら――。
あなたたちを、救えていましたか?
過去を変えることはできないけれど、
もし今、目の前であの時と同じことが起きたのなら、
あたしは絶対にまもりたいし、救いたい。
だから、ごめんなさい。
いつまでたっても、あなたたちのことを思い出せなくて。
今はまだ、未来をなんとかしようと精一杯だから。
でもいつか、ゆっくりと過去を思い出すことのできる、未来を掴めたのなら――。
その時は、きっと――。
○ 第3話 終わり ●
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